霊界通信 小桜姫物語

七十四、命乞い

 ここにわたくし神社じんじゃはいってからもなくにかけた事件じけんがございますから、あまりめずらしくもありませぬが、それをひとつおはなしいたしてましょう。それはみずおぼれた五歳位さいくらいおとこ生命いのちたすけたおはなしでございます。

 その小供こども相当そうとう地位ちいのあるひと……たしか旗本はたもととかもう身分みぶんひとせがれでございまして、平生へいぜい江戸えどずまいなのですが、おきの女中じょちゅうもうすのが諸磯もろいそ漁師りょうしなので、それにれられてこちらへあそびにていたらしいのでございます。丁度ちょうどなつのことでございましたから、小供こどもほとんどいえ内部なかるようなことはなく、海岸かいがんすないじりをしたり、小魚こざかなとらえたりしてあそびに夢中むちゅう、一二女中じょちゅうと一しょわたくしもとへおまいりにたこともありました、普通ふつうなら一々参拝者さんぱいしゃにとめることもないのですが、みぎ女中じょちゅうもうすのがめずらしく心掛こころがけのよい、信心しんじんあつでございましたから、自然しぜんわたくしほうでもけることになったのでございます。げんゆうとにわかれてりましても、人情にんじょうにかわりはなく、先方せんぽう熱心ねっしんならこちらでもツイその真心まごころにほだされるのでございます。

 すると、この小供こどもんでもない災難さいなんっていたのでございます。御承知ごしょうちかたもありましょうが、三崎みさき西海岸にしかいがんにはいわかこまれた水溜みずたまりがあちこちに沢山たくさんありまして、土地とち漁師りょうし小供こどもたちはよくそんなところで水泳みずおよぎをいたしてります。真黒まっくろけたからだおどくるわせてみずくぐりをしているところはまるで河童かっぱのよう、よくあんなにもふざけられたものだと感心かんしんされるくらいでございます。江戸えどからている小供こどもはそれがうらやましくてたまらなかったものでございましょう、自分じぶんではおよげもせぬのに、女中じょちゅう不在るすおり衣服きものいで、ふか水溜みずたまりひとつにんだからたまりませぬ。たちまちブクブクと水底みずそこしずんでしまいました。しばらくぎてからそのこと発見はっけんされて村中むらじゅう大騒おおさわぎとなりました。にしろ附近ふきん医師いしらしいものはないところなので、漁師りょうしたちってたかって、みずかせたり、焚火たきびあたためたり、いろいろつくしましたが、相当そうとう時刻ときっているめにうしても気息いきかえさないのでした。

 いよいよ絶望ぜっぼうきままったときに、わたくしもと夢中むちゅうけつけたのが、れいのおつき女中じょちゅうでございました。そのはまるで半狂乱はんきょうらん頭髪かみみだして階段かいだんもとしまろび、一生懸命しょうけんめいなが祈願きがんするのでした。――

小櫻姫様こざくらひめさま、どうぞ若様わかさま生命いのちりとめてくださいませ……。わたくし過失ておち大切だいじ若様わかさまなせてしまっては、ドーあってもこのながらえてられませぬ。たとえわたくし生命いのちちぢめましても若様わかさまかしていただきます。小供こども時分じぶんから信心しんじんしてわたくしでございます、今度こんどばかりは是非ぜひわたくしねがいをおくださいませ……。』

 わたくしほうでもこころからどくおもいましたから、ときうつさず一生懸命しょうけんめいになって神様かみさま命乞いのちごいの祈願きがんをかけましたが、何分なにぶんにも相当そうとう手遅ておくれになってりますので、神界しんかいから、一おう駄目だめであるとのおつげでございました。しかし人間にんげん至誠しせいもうすものは、うした場合ばあいたいしたはたらきをするものらしく、くしびなかみちからわたくしからむすめに、むすめから小供こどもへと一だうひかりとなってそそぎかけ、とうとうんだはず小供こども生命いのちがとりとめられたのでございました。まった人間にんげんはまごころひとつが肝要かんようで、一心不乱しんふらんになりますと、からだ内部なかからなにやら一しゅ霊気れいきもうすようなものがて、普通ふつうではとてもできない不思議ふしぎ仕事しごとをするらしいのでございます。

 かくんだはず小供こどもかえったのをとき私自身わたくしじしんこころからうれしゅうございました。まして当人とうにんはよほど有難ありがたかったらしく、早速さっそくさまざまのお供物くもつたずさえておれいにまいったばかりでなく、その終生しゅうせいわたくしもと参拝さんぱいかさないのでした。こんなのは善良ぜんりょう信者しんじゃ標本みほんってもよろしいのでございましょう。


七十三、参拝者の種類

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七十五、入水者の救助


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