霊界通信 小桜姫物語

三十一、香織女

 良人おっととの再会さいかい模様もよう物語ものがたりましたついでに、おなころわたくしがこちらで面会めんかいげた二三の人達ひとたちのおはなしをつづけることにいたしましょう。えんもゆかりもないいま人達ひとたちには、さして興味きょうみもあるまいとおもいますが、わたくし自身じしんには、なかなかわすれられない事柄ことがらだったのでございます。

 そのひとつはわたくしがまだ実家さところ腰元こしもとのようにして可愛かわいがってた、香織かおりという一人ひとり女性じょせいとの会合かいごう物語ものがたりでございます。香織かおりわたくしよりは年齢としが二つ三つわかく、顔立かおだちはあまりくもありませぬが、眼元めもとあいくるしい、なかなか悧溌りはつでございました。身元みもと長谷部はせべなにがし出入でいりの徒士かぢの、たしか二番目ばんめむすめだったかとおぼえてります。

 わたくし三浦みうらえんづいたときに、香織かおり親元おやもともどりましたが、それでも所中しょっちゅう鎌倉かまくらからはるばるわたくしところたずねてまいり、そして何年なんねんってもわたくしことを『ひいさまひいさま』とんでりました。そのうち香織かおりえんあって、鎌倉かまくらんでいる、一人ひとりさむらいもととつぎ、夫婦仲ふうふなかたいそう円満えんまんで、そのあいだ二人ふたりおとこうまれました。気質きだてのやさしい香織かおりたいへんその子供達こどもたち可愛かわいがって、三浦みうらへまいるときは、一しょつれたことも幾度いくたびかありました。

 そんなことはまるでゆめのようで、くわしいことはすっかりわすれましたが、ただわたくし現世げんせはなれるまえに、香織かおりからこころからのあつ看護みとりけたことだけは、いまでもふかふか頭脳あたまそこきざみつけられてります。彼女かのじょわたくしははと一しょに、れい海岸かいがんわたくしかくって、それはそれは親身しんみになってよくつくしてくれ、わたくし病気びょうきはやなおるようにと、氏神様うじがみさま日参にっさんまでしてくれるのでした。

 あるなどは病床びょうしょう香織かおりから頭髪かみいてもらったこともございました。わたくし頭髪かみたいへんに沢山たくさんで、日頃ひごろはは自慢じまんたねでございましたが、そのころはモーとこりなので、かげもなくもつれてました。香織かおりくしかしながらも、『折角せっかくこうしてきれいにしてあげても、このままつくねてくのがしい。』とってさんざんにきました。そばていたははも、『モー一なおって、晴衣はれぎせてたい……。』とって、してしまいました。んなはなしをしていると、わたくしにはいまでもその光景ありさまが、まざまざとうつってまいります……。

 いよいよ駄目だめ観念かんねんしましたときに、わたくし自分じぶん日頃ひごろ一ばん大切たいせつにしていた一かさね小袖こそでを、形見かたみとして香織かおりにくれました。香織かおりはそれを両手りょうでにささげ、『たとえおわかれしても、いつまでもいつまでもひめさまの紀念かたみ大切たいせつ保存ほぞんいたします……。』といながら、こえおしまずくずれました。が、わたくしこころは、モーその時分じぶんには、おもいのほか落付おちついてしまって、現世げんせわかれるのがそうかなしくもなく、だまってつぶると、かえってんだ良人おっとかおがスーツと眼前がんぜんあらわれてるのでした。

 かくこんなにまでふか因縁いんねんのあった女性じょせいでございますから、こちらの世界せかいても矢張やはわたくしのことをわすれないはずでございます。あるわたくし御神前ごしんぜん統一とういつ修行しゅぎょうをしてりますと、きゅうからだがぶるぶるとふるえるようにかんじました。何気なにげなく背後うしろかえってると、としころやや五十ばかりゆる一人ひとり女性じょせいすわってりました。それが香織かおりだったのでございます。


三十、永遠の愛

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三十二、無理な願


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