霊界通信 小桜姫物語

二十四、なさけの言葉

 先刻さっき申上もうしあげたとおり、わたくし小娘こむすめみちびかれて、あの華麗きれい日本間にほんまとうされ、そして薄絹製うすぎぬせいしろ座布団ざぶとんあたえられて、それへすわったのでございますが、不図ふと自分じぶん前面まえのところをると、そこにはべつに一まい花模様はなもようあつ座布団ざぶとんいてあるのにづきました。『きっと乙姫様おとひめさまがここへおすわりなさるのであろう。』――わたくしはそうおもいながら、乙姫様おとひめさまなん御挨拶ごあいさつ申上もうしあげてよいか、いろいろとかんがんでりました。

 と、なにやらひと気配けはいかんじましたのであたまをあげてますと、てんからったか、からいたか、モーいつのにやら一人ひとりまばゆいほどうつくしいお姫様ひめさまがキチンともうけの座布団ざぶとんうえにおすわりになられて、にこやかにわたくしこと見守みまもっておでなさるのです。わたくしはこのときほどびっくりしたことはめったにございませぬ。わたくしいそいで座布団ざぶとんはずして、両手りょうてをついて叩頭おじぎをしたまま、しばらくはなん御挨拶ごあいさつ言葉ことばくちからないのでした。

 しかし、玉依姫たまよりひめさまほうでは何所どこまでも打解うちとけた御様子ごようすで、とうと神様かみさま申上もうしあげるよりはむしろ高貴こうき若奥方わかおくがたったお物越ものごしで、いろいろとやさしいお言葉ことばをかけくださるのでした。

『あなたが龍宮りゅうぐうへおでなさることは、かねてからお通信たよりがありましたので、こちらでもそれをたのしみにたいへんおちしていました。今日きょうはわたくしがかわっておいしますが、このぎは姉君様あねぎみさま是非ぜひにかかるとのおおせでございます。何事なにごともすべてお心易こころやすく、一さい遠慮えんりょてて、くべきことはき、かたるべきことはかたってもらいます。あなたがた世界せかいくだり、いろいろと現界げんかい苦労くろうをされるのも、つまりはふか神界しんかいのお仕組しくみで、それがわたくしたちにもまたとなき学問がくもんとなるのです。きけばドウやらあなたの現世げんせ生活せいかつも、なかなからくなものではなかったようで……。』

 いかにもしんみりと、あふるるばかりの同情どうじょうもって、なにくれとはなしかけてくださいますので、いつのにやらわたくしほうでもこころ遠慮えんりょられ、丁度ちょうど現世げんせしたしいかたひざまじえて、打解うちとけた気分きぶんでよもやまの物語ものがたりふけるとったようなことになりました。帰幽きゆう以来いらいなんねんかになりますが、わたくしんな打寛うちくつろいだ、なごやかな気持きもちあじわったのはじつにこのとき最初さいしょでございました。

 それからわたくしわれるままに、鎌倉かまくら実家じっかのこと、嫁入よめいりした三浦家みうらけのこと、北條ほうじょうとの戦闘たたかいのこと、落城後らくじょうご侘住居わびすまいのことなど、りのままにおはなししました。玉依姫たまよりひめさまは一々首肯うなづきながらわたくし物語ものがたり熱心ねっしんみみかたむけてくだされ、最後さいごわたくしひとりさびしく無念むねんなみだれながらわかくて歿なくなったことを申上もうしあげますと、あのうつくしいおかおをばいとどくもらせてなみださえうかべられました。――

『それはまァお気毒きのどくな……あなたも随分ずいぶんつらい修行しゅぎょうをなさいました……。』

 たッたことではございますが、わたくしはそれをきいてこころから難有ありがたいとおもいました。わたくしむねつもつもれる多年たねん鬱憤うっぷんもドウやらその御一言ごいちごんできれいにあらられたようにおもいました。

んなおやさしい神様かみさまにおいすることができて、自分じぶんなん幸福しあわせうえであろう。自分じぶんはこれから修行しゅぎょうんで、んな立派りっぱ神様かみさまのお相手あいてをしてもあまりはずかしくないように、一はやこころあかあらきよめねばならない……。』

 わたくしこころそこかたくそう決心けっしんしたのでした。


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二十五、龍宮雑話


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