幽界行脚

Today:137 / Yesterday:55 / Total:406170

五十五 結末

 ワアド氏の最後の記録は一九一九年四月二十日夜の訪問日の出来事であります。

 この日は丁度レックスの死後三年目に当るので、その話が出ると、レックスが云いました。――

『それじゃ丁度よいから此度このたびの書物の結末をつける事にしようじゃありませんか。今日は幸い一同揃っていますからね。』

 今度は叔父さんがワアド氏に向って、――

『次の月曜日はわしの処(霊界)へ来て貰いたいが……。丁度その日に私は第二層へ移ろうと思うのじゃ。私の用意はすでに出来ているのだが、守護神がその折にせよと言われるのでナ。』

 それでワアド氏はその日に叔父さんを霊界に訪問する事に定めました。今度は士官の番です。

 士官。『私も霊界に帰る予定です。私の守護神も、もう充分此処ここで働らいたから霊界へ戻れと云われるので……。そうなるとこの若い友人(レックス)が一人残る事になりますな。我々の団隊の仕事は未だ未だ沢山ありますから、後の困らぬ様充分手配をして行く積りです。』

 母。『私も御存知の通りこの頃は小供こどもの相手で忙しいし、もう可成り幾組もの小供こどもが妖精国へ出掛けたが、帰らない処を見ると、キッと七層に到着したのだと思いますよ。』

 レックス。『僕も熟考の結果、嫌いな人を援け様と決心し、僕の大嫌いな人を一人見附け出しましたよ。それは仲間の士官ですがね……。守護神も適任だといわれました。これが出来ると、僕も其中そのうちせめて第七層までへでも進めるのですが……。』

 不意に座中へ神々こうごうしい何物かの出現を感じ、ワアド氏の守護神の姿が次第次第に判然して来ると、其処そこから発する光明で一同の姿は漸次に消え失せ、ワアド氏の眼にはただ光り輝く守護神の霊姿のみが見えるのでありました。太陽よりも眩ゆいその顔容!

 ワアド氏は我を忘れて叫びました。――

『何の御用でございますか?』

 守護神の声は大オルガンの響きに似た権威の充ちたものでした。――

の世界に於ける汝の仕事は当分これで終了した。これからは世界にこの知識を拡める事が汝の使命であるのだ。世の人々には労苦多く、平和の港に入るまでには幾多の悲痛に出逢わねばならないのである。今や新しき世界が生れ、新しき規律が行われようとして居る。古い信仰は消減するが、ただ知られざる全能の神は永劫不変である。すべてかなしみの中より喜びの光は生れる。最後の平和は戦争の結果から実現する。

『あらゆる万物に神の計劃けいかくは加わっている。人間の魂は絶えず前進を続け、いささかの沈滞も衰頽も無い。見よ。堕落の中から正義は立ち、死の中から生命は生れることを。

『地上が暗黒となる時こそ一道の曙光を思わしめるものである。来るべきあたらしき日は古き日よりのものである事に誤りはない。ただ一人の絶対権力者の光栄と威力の前には、あらゆる強力者も慄いおののくよりほかはないのである。』

 彼の声が止んだと思うと、ワアド氏は大暴風雨おおあらしの真只中へ投げ出されたかの如く、喧々囂々けんけんごうごうの渦中に捲き込まれてしまいました。


五十四 休戦と幽界

目  次

幽界行脚(大尾)


"A Subaltern in Spirit Land"

底本:「幽界行脚」 嵩山房

発行: 1931(昭和6)年1月15日発行

John Sebastian Marlowe Ward

J.S.M.ワアド著

淺野和三郎・粕川章子共訳

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビ と、入力者による振り仮名は、右の様に表示されます。表示事例ひょうじじれい、その他、難解な言葉遣いに対しては適宜、注記いたしました。

※ 訳者の一人、粕川章子氏の翻訳家著作商用権は2018年まで有効ですが、当サイトは粕川章子氏の御遺族の同意を得て公開しております。なお、本文の転載、商用利用などは御遺族の了承が必要です。


心霊図書館: 連絡先