幽界行脚

Today:36 / Yesterday:111 / Total:414237

四十六 妖精フェアリーとは何か?

 一九一七年十二月三十一日夜から一九一八年一月一日へかけて、ワアド氏が幽界訪問をした時、ず『新年御めでとうハッピーニウイーヤ』と挨拶しますと、皆なは一寸可笑しそうに笑いましたが、やがて叔父さんが云いました。――

『新年という考えが馬鹿馬鹿しいので、可笑しくもなったが、よく考えて見れば、この月並つきなみの文句にもなかなか意味がある。その真意は「今年はあなたの運命が従来よりも幸福になる様に!」というのじゃ。……一寸うまい文句ではないか。』

 レックスは早速例の如く話に取掛りました。――

 兄さん、新年の今日から一つ新しい問題に移りましょうか。僕はの前御約束した妖精国フェアリーランドの話を始めたいと思います。――

 妖精国の探険をする前まで、僕は妖精フェアリーというものは、兄さんも御存知の自然霊の一種で、小供達こどもたちの観念から創造された、形体を持った幽質に過ぎぬものだと考えていましたが、研究して見ると、案に相違! そうした自然霊とは全くちがった独立の生物である事が解りました。しかし妖精というものの存在を考える人はおとんど無いといってもよい有様の今日故、僕はず調査の結果から得た、彼等に関する概念について御話したいと思います。

 僕の考えでは、妖精というものは創造の過程にある霊魂ではないかと思うのですが……。即ち未だ肉体に宿って、地上生活をした事のない霊的実在とでもいいますか。この幽界から離れる時彼等は人類、獣類、植物等の物質中に入り、地上生活をするのではないかと考えます。ですから彼等の間には種々いろいろの種類がありますが、大体は以上挙げた三種の生物に似通った三つの型に分ける事が出来るので、これから試みる僕の体験談の中にも実例が多く出て来ますから、今は詳しい説明をしません。

 彼等の性格はわれわれ人間とは非常に違ってはいますが、其処そこに又ある類似の点が無くもないのです。一般に人間に比し不真面目であり、無責任は当然といった状態で、悪心は無いが、概して悪戯心に富んでいます。しかし中には人間に対して敵慨心を持ち、害を加え様とたくらむ面白くない代物しろものもありますが、又一方には人間に向って友情を持ち、同情深い心で我々を援けようとするものもあるという工合ぐあい何処どこか人類に似た教養を持つものがあると思うと、全く訳の分らぬ下等な奴もあり、実に千差万別ですネ。

 とにかく真面目な態度を持続する事の出来ない生物故、通則として集中力を欠いています。ですから時々集団を形成する事があっても、直ちに本来の目的を忘れて、解散するとか、新しい出来心にとらわれて他の方面に走るとかいった状態です。

 妖精には我々人間と同じく幽界から霊界へ行く者もありますが、其時そのとき彼等の幽体は消滅します。現界に赴く者は幽体のまま其処そこに出て、物質の包被内に入って後、その妖精の幽体は地上の新生活に相応ふさわしい変化をする様です。

 妖精国から一度地上へ生れ出でた妖精は、現界生活を終った時に妖精国へ戻らず、即ち我々と同じこの幽界の六層へ戻って来るのです。ですから彼等の地上生活は花と生れても、人と変じても、我々人間の生活とは離す事の出来ないもの、即ち人類の歴史の中に彼等妖精の生涯が織り込まれてあるものともいえましょう。

 それでは霊界へ志す妖精連はどうなるか? これは今の処僕には未解決です。いずれ将来解る事と思います。

 一寸考えて置きたい事は、妖精が現世へ出て、物質生活を始めると、勢いある程度までその進歩が退歩した体になります。が、これは恐らく外見丈の事で、実際は退歩してはらぬのかとも思われます。異なった生涯を送る間に彼等は種々いろいろの新しい知識を得、性格上の欠点が補われ、それにより時節が来れば、一時は隠蔽されたその才能が一段と高い進歩を遂げ得るのではないでしょうか。しかしとにかく花の妖精が地上の花の牢獄に入れられて自我を失い、運動の自由を束縛され、口も利けなくなる等というのはどうも退歩としか考えられませんね……。これからの話を聴かれると、今まで僕のいった事がよく解ると思います。さァそれでは、妖精国の探検譚に移りましょう!


四十五 幽界のクリスマス

目  次

四十七 妖精国探検


"A Subaltern in Spirit Land"

底本:「幽界行脚」 嵩山房

発行: 1931(昭和6)年1月15日発行

John Sebastian Marlowe Ward

J.S.M.ワアド著

淺野和三郎・粕川章子共訳

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビ と、入力者による振り仮名は、右の様に表示されます。表示事例ひょうじじれい、その他、難解な言葉遣いに対しては適宜、注記いたしました。

※ 訳者の一人、粕川章子氏の翻訳家著作商用権は2018年まで有効ですが、当サイトは粕川章子氏の御遺族の同意を得て公開しております。なお、本文の転載、商用利用などは御遺族の了承が必要です。


心霊図書館: 連絡先