幽界行脚

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三十四 放射光(オーラ)

 一九一七年十一月二十日、ワアド氏が例の通り幽界のレックスの家に行くと、叔父さんもお母さんも共にりました。

 レックス。にいさん、今日は何を話しましょう?』

 ワアド。『オーラがよくはないかね。』

 レックス。よろしい、それでは始めますよ。ず第一、万物にはその幽体がある事を考えなければいけません。そしての幽体は現界でもしばしば肉眼に映るもので、オーラとも呼ばれています。この他に霊体のオーラというものもありますが、これについては僕より叔父さんの方がくわしいから叔父さんに訊いて下さい。

『厳密に云うと、幽体とオーラとは全く同一ではない。オーラは幽体から出る放射光の様なものですが、その区別は明言しにくいのです。同一物でない証拠は、オーラは、幽体の内部に小さく縮少する事もあれば、また周囲に拡大して幽体の外部にへりを取ってる様に見える事もあります。肉体のある間、このオーラが、人体の表面にみ出してる厚みは、場所によって違いますが、大てい二三インチ位の処ですね。このオーラは霊視能力のある人には見えますが、生きてる間に実際の役に立っているもので、つまり感覚機関の一部とも云えますよ。

『例えば暗夜に道路を歩いている様な時、眼には見えぬが、樹木の傍に来るとその所在が何となく解ると云う感覚、これは人間のオーラと樹のオーラが触れ合ったために起るので、感じの鋭い人なら必ず経験のある事です。オーラの働きはこんな単純な事ばかりではありませんよ。相手が樹の様なものでなく、動物でも人間でも、自分に敵意を有つ者をよく感知して、近寄らぬ様に警告する場合もあります。俗に直覚と云っているもので、実はこのオーラの作用の場合が非常に多い様です。霊感の発達した人は他の性格を見分けると云いますが、これはその人のオーラが他の人のオーラから受ける印象で断定するのだともいえます。オーラには別に幽体からでなく、霊体から出るのもありますが、この霊体オーラは、肉体の周囲をば幽体オーラよりも、遥かに広い範囲に亘って包んでいますから、霊感作用に対しては主要な役目をしてるのですが、この方面は叔父さんがよく御存知です。

『さてこの幽体から発するオーラは、今お話した如く、動物にも樹木にもあるのですが、不思議な事にはその種類や個々の性質やは、細かく見るとその時々の気分によって種々いろいろと異なった色彩を呈しています。無感覚に見える木の様なものにも、人間に親しむ性質を現わす色のオーラもあり、又反対に敵意を見せるオーラを有つものもあります。一体赤色は怒りの表現ですから、赤を土台色としたオーラを発してる生物は、怒りっぽい、意地の悪い性質のもので、嫌悪の情に支配されてるものと見做みなしてよいのです。

『一番下等なオーラは、きたなかっ色で、毒悪な物質的性格を現すもので、善い分子は皆無といえるほど下劣な性情を意味するものですが、幸にも人間には極めて稀れで、普通この色は幽界の生物や自然霊の下等なものに見られます。木の中にもこんな色のオーラを出しているのがありますよ。

『一方オーラの光度の強弱と色彩の鮮明さは、物体の健康度によって違うもので、霊感を有つ人が、人間の強弱や病気を一目して見分けるのにこのオーラを見てやる事が多いとの事です。この方法を上手にすれば、人体内部の疾患等も容易に判る訳です。

『もう少し詳しくいうと、オーラは単に不消化という様な肉体的の故障で変化するばかりで無く、精神的にも非常に影響を受けるらしく、病気でもないのに元気が出ないと云うがごとき状態の時には、オーラは必ず常態でありません。通常オーラは白か青か又は緑がかった色をしていますが、病気のある場所の上は灰色がかった色になります。そしてよく見ると、その光りは細かい光線の集合で、健康な人が平静にしている時には、真直に立上ってますが、心中に動揺が起ると波を打って震えて見えます。これに反し病人のオーラ中の光線はもつれ合ったり、瘤になっていたり、あるいは潮が引いた後の岸辺の海草の様にグッタリと横に垂れ重なってるという状態です。また躯に異常がないのに、オーラ丈に故障が起るという様な場合もありますが、ういう時のオーラは、一体に生気のない蒼白い色をしていたり、灰色っぽいものになっていたり、時には干上った海草の様に萎れて見える事もありますね。

『今種々いろいろと説明したオーラは、我々幽界人の眼に映ずる生きてる人間のオーラの事です。今度は幽界生物のオーラの話に移りましょう。』

 ワアド。その前に一寸尋ねたい事がある。一体樹木の中ではどんな木が悪性のオーラを出しますか?』

 レックス。はんの木や、とねりこ、特に古木はいけませんな。山毛欅ぶなや松の類にも厭なオーラのものもありますよ。樫類や果樹類は善良な性質で、かえで類や棕櫚しゅろなんかもこの善人の仲間ですね。ですが、木によって個々の性情を有つと云う工合ぐあいに善悪共多少の変化はありますよ。

『又丁度人間が悪霊に憑依される様な工合ぐあいに、悪性の自然霊が木に憑く事があるのです。こんな場合には、その悪霊の赤褐色のオーラと木の灰色、黄色等のオーラとが入り乱れて見えますが、どの道、憑かれる様な木は、霊体に故障があるのが普通ですから、そのオーラもボンヤリしたものです。

『さて今度は幽体から出るオーラに移りましょうか。オーラは矢張り現界生物のものの方が見よい様です。僕も意識の集中をやってやっと見るんです。自分のの六層では楽ですが、五層の人は見にくいです。僕の考えでは、もっと下層でもみんなが少し意力でも充実さしてれば、お互いにオーラのある事位は判る筈なんですが、みんなが幽界へ来ても地上の生活を真似て無意味な生活を続けていますから、その霊的能力は発達せず、オーラの存在なんかてんで問題にしていませんね。僕は第三層で幽界民のオーラを見て来ましたが、それも特に注意しなければ見えませんから、幽界のオーラも矢張り幽体と違ったものであり、幽体に比べると更に物質を離れたものらしいのです。

『これで大体オーラについての話は尽したと思います。幽界ではこのオーラを医療上すこぶる重大視してるので、この世界の医者連はオーラの研究者です。僕も実は医者から種々いろいろ教えて貰ったのですよ。ですが、医者の事なんか我々は門外漢ですから、オーラはこの位に切り上げましょうか。』

 ワアド。『他の話に移る前に一寸ききたい事があるのだが……。』

 レックス。『何ですか、にいさん。』

 ワアド。『君に今僕のオーラが見えるかい?』

 レックス。『見えますとも! 兄さんは大体青で、白い処も少しあるし、黄色も一寸交っているという工合ぐあいですね。ではにいさんに僕のが見えますか?』

 ワアド。『ああ君のは大体緑だね。だが白も少しは交っている。』

 此時このときワアド氏は急に飛び上りました。そして常に無い不安な調子で『家で何か起っている! 僕はすぐ帰らなければならない。』と叫びながら、レックスの目前から姿を消しました。

 ワアド氏が、地上へ帰らなければと考えた瞬間に、今迄座していた室内も、レックスも、叔父も消えてしまって、グングン墜落し始めたと思う中、吃驚びっくりした感じがして眼が覚めると、傍にいたC・W・が工合ぐあいが悪いといって彼を揺り起してる処でした。


三十三 幽界の図面

目  次

三十五 レックスの活躍振り


"A Subaltern in Spirit Land"

底本:「幽界行脚」 嵩山房

発行: 1931(昭和6)年1月15日発行

John Sebastian Marlowe Ward

J.S.M.ワアド著

淺野和三郎・粕川章子共訳

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビ と、入力者による振り仮名は、右の様に表示されます。表示事例ひょうじじれい、その他、難解な言葉遣いに対しては適宜、注記いたしました。

※ 訳者の一人、粕川章子氏の翻訳家著作商用権は2018年まで有効ですが、当サイトは粕川章子氏の御遺族の同意を得て公開しております。なお、本文の転載、商用利用などは御遺族の了承が必要です。


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