幽界行脚

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三十 霊媒の証明

 ワアド氏は次回の訪問前に霊媒L夫人の許に赴き、幽界で始終出合う人達が正しく叔父さんやレックスであるかを確めました。交霊会を二回しましたが、最初の時L夫人は叔父さんとレックス及びお母さんの三人ともう一人、思いも寄らぬワアド氏の曾祖父の姿を判然はっきりと見たのです。ワアド氏自身もこの人には幼時に死別したなりで、霊界でも幽界でも未だ其後は行き逢わないのですから少からず驚きました。ワアド氏とL夫人とは初対面であったのですが、彼女はワアド氏及弟レックスの幼時の有様を詳細に物語って少なからず彼を驚かせました。

 二回目の会見時にはテーブル・ライテングテーブル・ライテング(卓子運動現象)でワアド氏は彼岸の人達と談話を試みましたが、勿論むろん憑霊現象や直接談話と異なり、迂遠な方法であるから単に人名とか月日等について母や叔父や弟の実在を確め得た丈の事でありました。しかその内容は霊媒の全く知らぬ事であり、又考えのつかぬ事共であったので、ワアド氏は幽界で日頃出会する人々の客観的存在を明白にし得たのであります。

 ワアド氏のこのテストは彼が十二月四日の次回の訪問時に早速話題となりました。

 ワアド氏が叔父さんに向って、あなたはしや夫人を通じて話そうとしたのではないかと尋ねると、

 叔父。『左様、私とレックスとお前の曾祖父の三人でやったのだが、未だ私等の他にも大分人が居った。』

 レックス。『思っている事を通じさせるのには随分と骨が折れましたよ。どうしても出来ない人も随分とある様でした。まるで通じないというのは些とドーかしていると思われます。が、とにかく我々のは相応うまく行ったと考えますね。』

 叔父。『困難だった理由は多分(レックスに向って)お前がこれまで一度も地上の霊媒にかかったことがないし、私とても今迄かかって見たのは(ワアド氏に向って)ただお前きりじゃったから、そのために骨が折れたのじゃろう。』

 レックス。『霊媒がドーも思うように使えないから、ただ僕だという事が兄さんにわかればいいと思ったので、種々証拠になりそうな事柄をあちこちと極く簡単に伝えました。さぞ兄さんも聴きにくかったでしょう。どうも全部は通じませんでしたね。お母さんもしきりに来たがってたのですが、何にしても未だそれ丈回復はしてられないので中止しました。これは此度こんど感じた事ですが幽界を離れて濃厚な物質的地上界の雰囲気に入ると、何だか頭の中がボンヤリとした感じがしましたよ。』

 叔父。『L夫人が老人と云ったのはお前の曾祖父の事じゃった、私もこの世界で出会ったのは始めてで、あの人は上層の「行為なき信仰」の国に住んでられるのじゃ。私に話されたところによると自然と見えざる力に引寄せられてやって来たと云う事じゃ。』

 ワアド。『あの時叔父さんの髪の毛は白色だとの事でしたが、叔父さんはいつも此所ここでは黒いのにどうした訳ですか。』

 叔父。『あれはお前が左様考えて居たから、私も臨時にあの色にしたのじゃ。私は老人よりは壮健な中年の男に見える方が好きじゃから、平常ふだんは白髪はやめてる。』

 レックス。『道理で此頃このころ叔父さんは前より若く見えると思いましたよ。』

 此時このときワアド氏は話題を転じて,この二三日どうしたものかしきりにキュービック派の画がきたい慾求がある事を話して叔父さんにその理由の説明を求めました。

 叔父。『それはな多分近頃死んだキュービック派の画家か何かがお前を使って自分の生前の仕事を続けたいと思ってるのじゃろうよ。その男がお前をうまく使いこなす事が出来れば、あるいは面白い作が見られるかも知れんが、どうもああした画は売物にはなるまい。もっとも私の様な人ばかりではないから、案外あの派の絵を好く人もあるかも知れんな。何にしても描いてやる事はその霊を喜ばせることゆえ結構じゃ。害にもならぬ事じゃから、一つその画家に試験をさせてやりなされ。功徳くどくになる事じゃ。だが私には今その男が誰だか見当もつかぬ。手掛りになるものが今此所ここには少しも無い。この幽界も存外広いので探索はなかなか困難じゃ。とにかく心掛けて探してからの事にしよう。』

 それからなお二つ三つ会話を交えてワアド氏は肉体に立戻りました。(この画を描きたい慾望は此時このとき一時であって其後そのご間も無く消失したそうであります)


二十九 レックスのオペラ見物

目  次

三十一 御母さんの退院


"A Subaltern in Spirit Land"

底本:「幽界行脚」 嵩山房

発行: 1931(昭和6)年1月15日発行

John Sebastian Marlowe Ward

J.S.M.ワアド著

淺野和三郎・粕川章子共訳

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビ と、入力者による振り仮名は、右の様に表示されます。表示事例ひょうじじれい、その他、難解な言葉遣いに対しては適宜、注記いたしました。

※ 訳者の一人、粕川章子氏の翻訳家著作商用権は2018年まで有効ですが、当サイトは粕川章子氏の御遺族の同意を得て公開しております。なお、本文の転載、商用利用などは御遺族の了承が必要です。


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