幽界行脚

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二十五 叔母さんの死

 一九一六年八月二十八日ワード氏が又々幽界にくぐり込み、レックスの家を訪れると、この日はレックスがたったひとりでボンヤリしてりました。

 レックス。『叔父さんは叔母さんがなくなられたので、今日は霊界へ会いに行きました。僕には何も見えなかったが、叔父さんには叔母さんが幽界を通って行くのが判ったそうで、急に出掛けてしまいました。直きに帰ると云ってましたが……。』

 ワアド氏は叔父さんの後を追おうかと考えたので、直ぐに此処ここを辞して一旦自分の寝室に戻り其処そこへ自分の幽体を残して置いて、今度は全然物質気のない軽快な霊魂となって、霊界へと飛行しました。そして幽界は通らずに、直ちにかのねて見覚えのある霊界の叔父さんの住所――例の大学校を見おろす岡の上に立つ事が出来ましたので、大急ぎで大学の門をくぐり、叔父さんの室へはいりましたが、生憎叔父さんは不在るすで犬のモーリー丈喜んで尾を振るのでした。

 ここで可成り長い間ワード氏は叔父さんを待ちました。ようやくのことで帰って来た叔父さんはう言うのでした。――

『お前の来てる事に気がついたから、一寸戻って来たが、又直ぐに出掛けなければならぬ。叔母さんが幽界を素通すどおりして、今霊界のこの区域と、次の区域との境界さかいで一休みをしてるところじゃ。F嬢だのH氏が迎えに来て居た。未だ何となくぼんやりしていたが、わしを見て喜んでる様じゃった。が、わし勿論むろん彼女あれの行く場所へは行かれぬから、立去らぬ中に一言別れを告げて来ねばならぬ。これも運命であるから致し方は無い。だが私はこの後Pさんから彼女の消息を知る事はできる。彼女は未だ過去の全生涯を回顧してらぬが、もうそろそろ反省が始まる頃じゃ。』

 叔父さんが急がしいのでワアド氏は止むを得ず、そのまま地上に立帰り、自分の肉体に入ると同時に、一時知覚を失いました。

 同じく九月四日ワアド氏が幽界のレックスの家を訪れると、今度は叔父さんが居ました。

 叔父。『お前の推測通り今度はこの家で待て居ったよ。叔母さんはな、生前の知己が大勢迎えに来たのに連れられて、わしの世界のすぐ上層の境域ところに行ってしまった。あのA老も見えて早くわしにも来るがよいがと云うて居ったがの、わし彼女あれの入った社会は何となく虫がかんから、行かれぬ方がむしろよかったと思うてる。皆な行儀よく紳士淑女振って工合ぐあいが、地上の生活と大差ない様で、私にはどうも気に入らんな。しかし、叔母さんはそうした社会が好きだから丁度よいのじゃ。彼女あれはな、H氏が牧師をつとめてる教会へすぐ行って、工合ぐあいよく霊界に来られた事を感謝したそうな。わしはそれから又此処ここに来て、レックスの手伝をしてるのじゃ。』

 間もなくレックスが戻って来ました。そしてだんだん幽界の生活にもれて来たと話すのでした。

 レックス。『兄さん、僕達の戦線の仕事もだんだん進捗しんちょくして行きますよ。近頃毎日幽界へはいって来る人間の数は驚くほど大多数になりました。あの伝令も此頃このころようやく落附いて来て、僕達と一緒に新来の人をたすけていますよ。

『実を云うと僕はね、今の仕事を大して好きじゃないんですが、守護霊がためになるからというのでやっているのですよ。時ににいさん、僕はね、此頃このごろ守護霊をちょいちょい見る様になりました。もっとも長い間は見てはられないけれども……。』

 暫時しばし雑談を交して後ワアド氏は二人と別れました。


二十四 幽界の夫婦

目  次

二十六 理想的庭園


"A Subaltern in Spirit Land"

底本:「幽界行脚」 嵩山房

発行: 1931(昭和6)年1月15日発行

John Sebastian Marlowe Ward

J.S.M.ワアド著

淺野和三郎・粕川章子共訳

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビ と、入力者による振り仮名は、右の様に表示されます。表示事例ひょうじじれい、その他、難解な言葉遣いに対しては適宜、注記いたしました。

※ 訳者の一人、粕川章子氏の翻訳家著作商用権は2018年まで有効ですが、当サイトは粕川章子氏の御遺族の同意を得て公開しております。なお、本文の転載、商用利用などは御遺族の了承が必要です。


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