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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

三十三 地獄脱出

 一九一四ねんがつ十二にち陸軍士官りくぐんしかんはワアド肉体にくたい占領せんりょうして、自動書記じどうしょき形式けいしきでその身上噺みのうえばなし結末けつまつをつけました。──

 そのうち吾輩わがはい学校がっこう時節じせつ到着とうちゃくした。またしてもあのやみなかにくぐりむのかとおもうとおそろしくてとてもたまらぬがしたが、ひるむこころなおしておもって案内あんないたのんだ。

 さてわれわれが地獄じごくからるのにはあのLさんが往来おうらいしたらく道路どうろることはゆるされない。絶壁ぜっぺき側面そくめんについている大難路だいなんじのぼらねばならぬのであるが、それはたいていの骨折ほねおりではないのです。

 われわれは休憩所きゅうけいじょてからみぎれ、しばらく巾広はばひろ山脈さんみゃく沿うてすすんだ。一ほうだいきょうみちびくところのふかたにであり、他方たほう見上みあぐるばかりの絶壁ぜっぺきである。やみ今迄いままでよりも一そうふかかんぜられたが、おそらくそれは在学中ざいがくちゅう光明こうみょうれためであるらしかった。

 われわれがとある洞穴ほらあなまえとおりかかったとき醜悪しゅうあくなる大入道おおにゅうどうがとびしてさけんだ。──

とまれ! 何人なにびと地獄じごくからすことは相成あいならぬ。』

 が、かれ吾輩わがはいまえ守護神しゅごじんがふりむいて十ったので、キャーッ! といながら悪臭紛々あくしゅうふんふんたる洞穴ほらあななかんでしまった。

 それからの難行なんこう永久えいきゅう吾輩わがはい記憶きおくきざまれてのこるに相違そういない。のぼってくのはほとんど壁立へきりつせる断崖だんがいであるが脚下きゃっかいしころは間断かんだんなくずるずるとすべち、一しゃくのぼって一じょうもさがる場合ばあいすくなくない。

 そのあいだ守護神しゅごじんはいかにもかるそうにフワフワとのぼってかれ、いつも二三づつ吾輩わがはいさきちて、そのからだから放射ほうしゃする光線こうせんみちをてらしてくだすった。

 やがてまれとめいぜられたので、吾輩わがはいよろこんでそのとおりにした。われわれの到着とうちゃくしたのは一のせま平坦地へいたんちであった。吾輩わがはい両眼りょうがん其所そこでしっかりと繃帯ほうたいしばりつけられた。守護神しゅごじんわれた。──

なんじよわい信仰しんこうでは半信仰はんしんこう境涯きょうがい夕陽ゆうひひかりもまだしばらくはいたいであろう……。』

 それからふただ前進ぜんしんつづけた。が、とある絶壁ぜっぺきあたったときにはいよいよなんとしてものぼれない。

すると守護神しゅごじんわれた。──

おそるるにはおよばぬ。たすけてこの最後さいご難関なんかん通過つうかさせてつかわす。これでいよいよなんじながなが地獄じごくたびおわりにちかづいた。』

 ぎの瞬間しゅんかん吾輩わがはいは、守護神しゅごじんからいてもらってとうとう絶壁ぜっぺき頂点ちょうてん平坦地へいたんちのぼりつめてしまった。

 が、其所そこあかるさ、まぶしさ! 繃帯ほうたいをしているにもかかわらず、その苦痛くつうは実に強烈きょうれつで、さすがの吾輩わがはい地面じべたうえをごろごろころがったものだ。それからのちはなしはあなたがたがモー御承知ごしょうちだ。Pさんが吾輩わがはいをLさんに紹介しょうかいしてくださる………。Lさんの周旋しゅうせんでワアドさんのからだりて地上ちじょうとの交通こうつうひらく………。意外いがいなことになってしまいました。

 これで吾輩わがはい通信事業つうしんじぎょうはいよいよ完結かんけつげました。吾輩わがはいはこれからほか霊魂達れいこんたちとも幽界ゆうかい出動しゅつどうせねばなりません。幽界ゆうかいでは国家こくかめに生命いのちをささげた軍人達ぐんじんたち救済きゅうさいあたるつもりであるが、さいわ吾輩わがはい幽界ゆうかい事情じじょう地獄じごく状況じょうきょう充分心得じゅうぶんこころえていますから、相当目覚そうとうめざましいはたらきをしるつもりです。そのうちにはむかし戦友せんゆうなどにもえるかもれません。

 Pさんは又々またまた地獄じごくくだりて救済事業きゅうさいじぎょうあたられ、僧侶ぼうさんはすでに『かべ』をきぬけてだいかいへと進級しんきゅうされ、今又いままた吾輩わがはい幽界ゆうかい出動しゅつどうすることになりましたから、Lさんのところ当分とうぶんさびしくなるわけです。

 これで皆様みなさまにおわかれいたします。

死後の世界(大尾)


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