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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

三十一 死後の生活の有無

 一九一四ねんがつ霊夢れいむに、ワアド陸軍士官りくぐんしかんってその物語ものがたりつづきをきました。陸軍士官りくぐんしかんはそのさいれい調子ちょうしぎのごとくにかたったのであります。──

 

 地獄じごくだいきょう都会とかいをぶらついているうちに、吾輩わがはいは一の学術協会がくじゅつきょうかいらしい建物たてものつけた。内部なかをのぞいてると、其所そこにはなにやらしきりに討論とうろんおこなわれてた。討論とうろん議題ぎだいは『死後しご生活せいかつ有無うむ』というのでした。

 一人ひとり弁士べんしごとろんてた。──

人間にんげん死後しご生存せいぞんするということにきては其所そこ何等なんら確拠かくしょうがない。成程なるほど人々ひとびとろんずる。──われわれは一たんんだ。しかるにいまおかくきているのであるから、死後生命しごせいめい存続そんぞくすることの証左しょうさであると。が、これは論理的ろんりてきでない。われわれは今尚いまなきている。ゆえにわれわれははじめからなないのである。われわれはみなおも病気びょうきった。病気びょうきから回復かいふくしてると、あたりがこんなどんよりとくもった世界せかいに一ぺんしてた。──たんにそれだけである。』

『それだから』とほか一人ひとり言葉ことばはさんだ『われわれはんで地獄じごくるに相違そういない。』

もってのほか御議論ごぎろんです。』と最初さいしょ弁士べんしさけんだ。『われわれは病気以前びょうきいぜん同様どうよう気持きもちよく此所ここくらしている。わたし地獄じごく存在そんざいなどはごうしんじない。よし一ゆずりて地獄じごく存在そんざいするとしても、此所ここ地獄じごくでありないとうことには諸君しょくん賛成さんせいされるに相違そういない。牧師ぼくしたちはわれわれにげます。地獄じごく永久えいきゅう呵責かしゃく場所ばしょで、むしするあたわず、ゆることがないと。しかるにそのような模様もよう味塵みじん此所ここにないではないか。ほどくだらない心配しんぱいくだらない仕事しごと連日引れんじつひきつづくので退屈たいくつではあります。けれどもそれは地上生活ちじょうせいかつおいてもつね見出みいだすところである。われわれは所謂いわゆる天国てんごく悦楽えつらくをここに見出みいだがたいと同時どうじに、所謂いわゆる永久呪えいきゅうのろわれたるもの苦痛くつう見出みいだない。このてんがわれわれのんでいないことのもっと有力ゆうりょくなる証左しょうさである。死後しご生活せいかつなどとうものがあるならば、それは地上ちじょう生活せいかつ全然相違ぜんぜんそういしているべきはずである。此所ここ生活せいかつはわれわれのわかかりしとき生活せいかつとは相違そういしているに相違そういないが、肉体にくたいをはなれた霊魂れいこん生活せいかつとしてはあまりに具体的ぐたいてきであり、実質的じっしつてきである。諸君しょくん、われわれは死後生命しごせいめい存続そんぞく証明しょうめいすべき何等なんら有力ゆうりょくなる確証かくしょうをもたぬというわたし動議どうぎ御賛成ごさんせいねがいます。』

 それにつづいてその反対論はんたいろんた。が、それは随分ずいぶんつまらない議論ぎろんで、至極平凡しごくへいぼん論理ろんり辿たどり、自分達じぶんたちたしかに一たんんでいる。現在げんざい住所じゅうしょ何所どこであるかは不明ふめいだが、多分たぶん煉獄れんごくであろうなどとべた。すると清教徒達せいきょうとたちはそれに大反対だいはんたい煉獄れんごくなどというのは旧教きゅうきょう囈語ねごとだと反駁はんばくし、議場ぎじょう相当そうとう混乱状態こんらんじょうたいおちいった。

 やがてぎの弁士べんしあがって一の名論めいろん? をいた。──

わたし自分じぶんんだことをよくってります。そして現在げんざいわれわれのおくりつつある生活せいかつをただ一じょうゆめかんがえるものであります。人間にんげん頭脳ずのうなるものは、生命いのちがつきたとしょうせらるるのちおいても、暫時ざんじ活動かつどう持続じぞくする。しかし最早もはや肉体にくたい完全かんぜん統御とうぎょするちからはなく、その期間きかんおいて一しゅゆめるのである。したがってその状態じょうたい永久続えいきゅうつづくものとはおもえない。われわれが地上ちじょうにいるときでも、随分ずいぶんながゆめることがあった。ゆめうち幾日いくにち幾週いくしゅう経過けいかしたようにかんがえた。しかし、めてるとたった五分間ふんかんばかりの仮睡うたたねぎなかった。べると諸君しょくんうであろう。──それならわれわれはたん頭脳ずのうした一の幻影げんえいぎないかと。──そのとおりです。ここには都会とかいもなく、議場ぎじょうもなく、あるものはただ自分丈じぶんだけであります。わたしはただゆめているだけであります。幾何いくばくもなくしてわたし頭脳ずのう消耗しょうもうし、同時どうじゆめまたえるでありましょう。御覧ごらんなさい、現在げんざいわれわれは地上ちじょうったとき全然同様ぜんぜんどうよう仕事しごと器械人形きかいにんぎょうごとくただ何回なんかいかえしてるにぎません。死後しご生命せいめいなるものはただしつつある頭脳ずのうの一じょうゆめぎません。しかしんなことをべるのは、つまり自己じこ空想くうそう産物さんぶつむかって説法せっぽうをすることなのであるからはなはだつまらない。わたしはモーめます。』

 そうってかれ陰気いんきかおつきをしてについた。

 満場まんじょうどッとわらくずれた。

 そのとき吾輩わがはいしてさけんだ。

諸君しょくんわたし御当地ごとうち通過つうかするただ一介いっかい旅客りょきゃくにすぎません。けれども諸君しょくんわたし言葉ことばしんじてくださるならば、わたし死後生命しごせいめい存続そんぞくすることを証明しょうめいし、天国てんごく有無うむかく地獄じごくたしか存在そんざいし、そして此処ここ地獄じごくの一部分ぶぶんであることを立証りっしょうしてあげることがきまず。此所ここよりももっと下層かそうけば人々ひとびとはいかにも地獄じごくにふさわしい呵責かしゃくけてります。一わたしんでからの波瀾はらんんだ閲歴えつれきをおききになってもらいましょうか?』

 が、みなまでおわらぬうち満場総立まんじょうそうだちになって呶鳴どなし、そのなか数人すうにん城壁じょうへきとうから吾輩わがはいほうすぞと威嚇いかくした。仕方しかたがないから吾輩わがはいはよい加減かげん見切みきりをつけて建物たてものいずると、一人ひとりおとこ吾輩わがはいあといすがってった。──

『イヤあなたが只今ただいまッしゃったことみな道理どうりかなっています。あなたは地獄じごく各地かくち通過つうかして、最後さいごにここを脱出だっしゅつさるるおかた相違そういありません。ついてはわたしのことを同行どうこうしてはいただけますまいか?』

 吾輩わがはいがそれにこたえるまえかれ守護神しゅごじん姿すがたあらわしてった。──

『わがよ、なんじみちびいて、あいするともよろこんでたすけをあたえるうつくしき境涯きょうがいらしめるであろう。なんじむね救助すくいもとめる精神せいしん宿やどるまで、むことを差控さしひかえてたが、いまこそふたたちかえりてなんじ将来しょうらいみちびくであろう。』

 みぎ人物じんぶつ天使てんしとは相連あいつちて何所どこかへってしまった。


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