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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十九 睡眠者

 われわれはしばらくあるいてうちに、やがて一つの洞穴どうけつたっした。ればその内部なかには沢山たくさん熟睡者じゅくすいしゃがいた。こころみにそれをまそうとしてたが、とてもきる模様もようがない。

 この一すくなからず吾輩わがはいおどろかした。いままでのところでは、地獄じごくものでただの一人ひとりねむってるものを見掛みかけたためしがない。──からだがないからしたがって睡眠すいみん必要ひつようはないのである。

 で、不審ふしんあまりその理由りゆう守護神しゅごじん質問しつもんして見た。モーこのときには自分じぶん先方むこうとの距離きょりはソーとおくもなかったのである。

 守護神しゅごじんかなしげにこたえた。──

『わがよ、これ生時せいじおい死後しご生命せいめい存続そんぞくあくまでも頑強がんきょう否定ひていすべくつとめた人々ひとびと霊魂れいこんなのじゃ。いずれも意思いし強固きょうこなものばかりで、しも信仰しんこうねんさえあったなら、相当そうとうえきひとたすけることが出来できたであったろうに、ただそのてんだけたましいれどころがちがってたばかりに、ひとまどわし、同時どうじ自分自身じぶんじしん死後しご自己催眠式じこさいみんしき昏睡状態こんすいじょうたいおちいってしまったのじゃ。このねむりは容易よういにはめない。彼等かれら幾代いくだいいくだいとなくうしてねむっているであろう。そのあいだ器量きりょうからえば、彼等かれらよりもはるかおとり、なかには地獄じごくそこまでしずんだものでも前非ぜんぴいてずんずん彼等かれらして向上こうじょうしてくであろう。』

『こりャじつおそろしい御話おはなしです。ます方法ほうほうはないものでしょうか?』

多大ただい年代ねんだい経過けいかすれば自然しぜんとそののろいちからよわってる。そのとき天使達てんしたちりて何彼なにかほねってくだされば、彼等かれらながながゆめはじめてめるであろう。』

 そのうちわれわれは断崖絶壁だんがいぜっぺきばかりちつづける地方ちほう到着とうちゃくした。しばらくがけしたさまようてると、行手ゆくてに一すじせまい、ツルツルした階段かいだんした。──と、丁度ちょうどそのとき唐突だしぬけ一人ひとりおとこ空中くうちゅうからさがっててすぐ自分達じぶんたちまえ墜落ついらくした。が、そのひとはそのままとびきてやみなかにのがれ、何所いずくともなく行方ゆくえうしなってしまった。

『あれは一たい何者なにもの御座ございますか?』と吾輩わがはいがびッくりしてたずねた。

『あれはうえだいきょうで、規律きりつやぶっために追放ついほうされたものじゃ。だいきょう居住者きょじゅうしゃ大変たいへん風儀品格ふうぎひんかく尊重そんちょうする人達ひとたちで、しもそのきんおかして彼等かれらいかりをえば、たちま追放処分ついほうしょぶんける。だいきょう居住者きょじゅうしゃ最大欠点さいだいけってんは、自己じこばかりがあくまでただしいものとおもいつめることで、しきりに自己じこ隣人りんじん批判ひはんして讒謗誹毀ざんぼうひきたくましうすることきじゃ。いやしかしモー彼所あそこ休憩所きゅうけいじょひかりがした。いかなる種類しゅるい人間にんげんだいきょうんでるかは汝自身なんじじしんしらべるがよかろう。』

 われわれはそれではなし前面ぜんめんながなが階段かいだんを一のぼりかけたが、イヤそのくるしさとったらなかった。しかし灯台とうだいひかりは次第しだい次第しだいつよくわれわれの前途ぜんとてらした。無論むろんそのひかりにしみていたいには相違そういなかったが、ここぞと覚悟かくごをきめてとうとう天使達てんしたち設置せっちしてある休憩所きゅうけいじょまで辿たどりついてしまった。


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