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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十七 守護の天使との邂逅

 そのときやみとおしてつよあきらかになにやらききれぬ不思議ふしぎ音声おんせいがひびいてた。それは何所どこやら喇叭らっぱ連想れんそうさせるような一しゅ諧調かいちょうびたものであった。みみをすますとうきこえる。──

『わがよ、なんじが一ちかづきつつあるをうれしくおもうぞ。おおくの歳月としつきなんじとおざかるべくつとめていた。されどはしばしもなんじ見棄みすてることなく、何時いつなんじこころふたたかみむこのあるべきをひたすらにいのっていた。──ただ姿すがたなんじせるのはまだはやきにぎる。全身ぜんしんよりほとばし光明こうみょうはあまりにつよく、とても現在げんざいなんじにはえられそうにもない。』

『ああ天使てんしさま!』と吾輩わがはいさけんだ。『わたしかみ御前みまえにまかりることが出来できないのは、かみ御光みひかり強過つよすぎるめでございましょうか?』

『そのとおりじゃ。何人なんびとただちかみ御光みひかりまえることはきぬ。されど何事なにごとにもくっせずたゆまずあくまで前進ぜんしんをつづけてかねばならぬ。こえをしるべにすすめ! すすむにれて姿すがた次第しだいすがたうつるであろう。』

 そうするうち休憩所きゅうけいじょ天使てんし一人ひとり室内しつないあゆり、吾輩わがはいりて入口いりぐちとはべつけて戸外そとしてくれた。ふとがつくと、はるはるとおところにささやかな一てんほしのようなひかりえ、ぎのこえ其所そこからはっするようにかんぜられた。──

したがえ! みちびいてやるぞ。』

 吾輩わがはいすこしの疑惑ぎわくもなしにやみなかをばとぼとぼとそのひかり目当めあてすすんでった。すると守護神しゅごじん──これはあとわかったのですが──は間断かんだんなく慰撫奨励いぶしょうれい言葉ことばをかけてくださった。みち嶮阻けんそ絶壁ぜっぺきのようなところについていて、吾輩わがはい何回なんかいつまずたおれ、何回なんかいあしすべらしたかれないが、それでも次第しだいうえうえへとのぼってった。丁度ちょうどみちなかばたっしたとおもわれるところに、とある洞穴あながあってそのなかから一だん霊魂れいこんどもがあらわれて、吾輩わがはいめがけて突撃とつげきしてた。そいつ下方した壑間たにま吾輩わがはいおとそうとするのである。──が、忽然こつぜんとして救助きゅうじょめにちかづいてたのはかのみちしるべのひかりであった。それをるとおそいかかった悪霊あくれいどもは悲鳴ひめいげて一目散もくさんった。

 最早もはや心配しんぱいなしとみとめたとき吾輩わがはい守護神しゅごじんはいつしかもと位置いちかえってられたが、そのめに吾輩わがはいもほッと一といきついたのであった。何故なぜかというに、吾輩わがはいからだてきほどではなかったが、ひかりられていくらか火傷やけどをしてたのであるから………。

 そのうちみちはとあるおおきな瀑布たきところへさしかかった。地上ちじょうのそれとはちがって、地獄じごく瀑布たきはインキのように真黒まっくろで、薄汚うすぎたないどろどろの泡沫あわいている。そしてその附近ふきんみちはツルツルすべってことほか危険きけんである。──が、何人なんびとかが人工的じんこうてきにそこいらに足場あしばけ、しかもひッきりなしに手入ていれしてるらしい模様もようなのである。吾輩わがはいはそのときまでるべくくちつぐんでたが、とうとうおもって守護神しゅごじんたずねてた。──

『一たいここの道路どうろだれ普請ふしんするのでございますか? うしてこんなにがとどいているのでしょう?』

 すると守護神しゅごじん遠方えんぽうからこれにこたえた。──

『それは地獄じごくなか休憩所きゅうけいじょもうけてらるる天使達てんしたち義侠的ぎきょうてきにした仕事しごとじゃ。ここの道路どうろ地獄じごくだいだいとをつなぐものでこれを完全かんぜんまもるのが彼等かれら重大じゅうだいなる任務にんむの一つじゃ。した境涯きょうがい霊魂れいこんどもは隊伍たいごんで、あくまでもこの道路どうろこわしにかかってるから油断ゆだんなどはすこしもできない……』


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