心霊図書館 ≫「死後の世界」≫ 上編

(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十六 地獄の新聞紙

 われわれ二人ふたり連立つれだって、るべく目立めだたぬようにまち通過つうかした。折々おりおりのんだくれれん酒亭さかやから街路まちしてる。なかにはらんかおをしているのもあるが、なかにはまたしょになってさわごうと、しつくこく自分達じぶんたちるのもある。またたまには、われわれの周囲しゅういつくっておどくるうやつもある。一ばん手古摺てこずったのは四人連にんずれ乱暴者らんぼうもので、同伴どうはん婦人ふじんをとつかまえて、いやがるのを無理むりれてこうとしやがった。吾輩わがはいあといかけて、たちまちそのなか二人ふたりをなぐりたおしてやると、ほか二人ふたりはびッくりしておんなほうしてげた。ついでってくが吾輩わがはいれのおんなはエーダというのである。

 だんだんあるいて行くと、あるところでは一ぐん盗人ぬすびとが一けんうち押入おしいろうとしてた。またとあるひとごみの市場しじょうとおると、其所そこでは一人ひとりおとこがしきりに大道演説だいどうえんぜつをやってた。なにしゃべっているのかとおもってあしとどめていてれば、地獄じごくから天国てんごくまでの鉄道てつどう施設ふせつするのでこれから会社かいしゃおこ計画けいかくだというのであった。

 聴衆ちょうしゅう[#「聴衆ちょうしゅう」は底本では「聴衆ちょうしゅ」]のおおくは天国てんごくなどがあってたまるものかとののしっていたが、それでもなかには、多愛たあいもなくその口車くちぐるまにのってこれに応募おうぼする連中れんちゅうた。

 あるところにはまた一つの新聞社しんぶんしゃがあった。おりから丁度ちょうど朝刊ちょうかん発行はっこうされたところなので、ねんめに一まいってとおしてると、ぎのような標題ひょうだいについた。──

△二にん宣教使せんきょうし捕縛ほばく。──これは地方ちほうからんだ間諜かんちょう[#「間諜」は底本では「間牒」]の動静どうせいいた記事きじで、平和へいわ攪乱者かくらんしゃとしてきびしく弾劾だんがいしてあった。

地獄じごく新入者しんにゅうしゃ。──これはんで地獄じごくおくられた人々ひとびと名簿めいぼで、とく知名ちめい人達ひとたちにつきてはその会見記事かいけんきじ掲載けいさいしてあった。

徳義とくぎ失敗しっぱい。──これはエスモンドという作者さくしゃ新作劇しんさくげきで、近頃ちかごろ大評判おおひょうばんであるとの紹介しょうかい記事きじ

 其外そのほか競馬けいばだの、新会社しんかいしゃ設立せつりつだの、駈落かけおちだのの記事きじ掲載けいさいされていた。

 いよいよまち出脱でぬけるとエーダはきゅう心細こころぼそがりした。

『まァんてびしいところでしょう!』彼女かのじょ戦慄みぶるいして『わたしこわいわ! もどりましょうよ。』

莫迦ばかな!』と吾輩わがはいさけんだ。『こんなところかぶとぐようなことでどうなります! 一しょにおいでなさい。アレ彼所あすこ光明あかりえるじゃないか!』

 休憩所きゅうけいじょかられる一てん光明あかりはいくらかエーダの元気げんきてるべくえた。

『ホンにんてきれいなほしでしょう! わたしんでからただの一ほしことがありませんワ。』

彼女かのじょふるえながらいうのであった。『はやくあすこまできましょうヨ。』

 われわれは一にそれにちかづいたが、やがてそのひかりはげしくなると彼女かのじょまたもためらいした。

『アラいたくてたまらないワ! 近寄ちかよれば近寄ちかよるほどいたくなるワ。』

『なんのくだらない。これくらい我慢がまんができなくてうなります! 吾輩わがはいなどはまだまだ百層倍そうばいもつらいってている。あのひかりのおかげからだ塵埃ごみすこしづつれてゆくのだ。難有ありがたはなしだ……。』

 吾輩わがはいが一しょう懸命けんめいなぐさはげましたので彼女かのじょもやっとをとりなおし、とうとう休憩所きゅうけいじょ入口いりぐちまで辿たどりついた。

 そのひかりめにわれわれは一盲目めくらになったが、しかし親切しんせつ天使達てんしたちにぎられて無事ぶじ室内しつないみちびかれた。

 それから彼女かのじょはなされ、吾輩わがはいだけただ一人ひとりその建物たてものなかで一ばんくらへやれられた。あとしらべてると、このへやくらいのはまどはなたれ、其所そこから戸外おもてやみうみなみのように、ドンドンそそぎむからであった。


二十五 出直し

目  次

二十七 守護の天使との邂逅 (上)


心霊図書館: 連絡先