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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十五 出直し

 一九一四ねんがつ二十九にち、ワアド地界ちかいから一呵成かせい霊界れいかい飛躍ひやくし、其所そこ叔父おじさんと陸軍士官りくぐんしかんとにいました。れいによって陸軍士官りくぐんしかん地獄じごくめぐりのはなしのつづきをはじめました。──

 吾輩わがはいはあの休憩所きゅうけいじょなにをしてらしていたか、あまりはッきりした記憶きおくがありません。なんひかり莫迦ばかつよいので、其所そこあいだほとんど盲人めくら同様どうようでした。が、そのおかげいくらかこころ安息あんそくた。地獄じごくほか建物たてものちがって、あそこにはいっているとみょう平和へいわ希望きぼうとがむねいずるのです。

 あそこではまただれだかりませんが、ひッきりなしに吾輩わがはいむかってこころなぐさめるような結構けっこう談話はなしをしてちからをつけてくれるものがあった。おかげで、すさみった吾輩わがはい精神せいしん次第しだい落付おちついてくると同時どうじに、なんともいえぬ気持きもちのよい讃美歌さんびか──従来じゅうらい地獄じごくできかされた調子ちょうしはずれのガラクタおんがくとまるで種類しゅるいのちがったホンモノの讃美歌さんびかが、吾輩わがはいこころちりあらおとしてくれたのであった。

 最後さいご吾輩わがはい案内あんないしてくれた天使てんしわれるのであった。──

『あなたのこころもモーたいへん恢復かいふくしかけてたから、モ一した邪淫境じゃいんきょう立戻たちもどって仲間なかま一人ひとり説得せっとくしてこちらへれてねばなりません。そうすればあなたが前年ぜんねんきはなした大事だいじ大事だいじ御方おんかたわれることになる………。』

 この逆戻ぎゃくもどりが規則きそくであってれば致方いたしかたがない。吾輩わがはいふたたびあの邪淫じゃいんいちくだってったのであるが、おはずかしいはなしだが、こんなイヤにあかるい休憩所きゅうけいじょるよりか、くら邪淫境じゃいんきょうほう当時とうじ吾輩わがはいにはッぽど気持きもちよくかんぜられたのであった。

 が、あちらへっていざ自分じぶん味方みかた一人ひとりつけようとしてみると、その困難こんなんなのには今更いまさらながらおどろかされた。散々さんざんさがしまわったあとで、やっと地獄じごく生活せいかつ厭気いやきがさして一人ひとりおんなにめぐりった。

『なぜあなたはこんな境涯ところからそうとはなさらないのです?』と吾輩わがはい彼女かれ口説くどきはじめた。『あなたの様子ようするにたしかにここの生活せいかついやになっている。ここにはただの一つもまこと快楽かいらくというものがない。いずれもみな空虚くうきょ影法師かげぼうしである。いかに淫事いんじふけってたところでそれで何物なにものられます?──一はやくこんなくだらない境涯ところから脱出ぬけだしてもッとのきいたところこうではありませんか! 吾輩わがはい案内役あんないやくをつとめますから、あなたはあとからいておでなさい。道連みちづれがあったらそんなに心細こころぼそいこともないでしょう。』

『でもネー、そんなことをしてなんやくちますの? と彼女かのじょはなかなか吾輩わがはい言葉ことばしたがおうとしない。『あなたも御存ごぞんじのとおりここは地獄じごくでしょう。地獄じごくむし永久えいきゅうぬることなく地獄じごく永久えいきゅうゆることなしというじゃありませんか。無駄むだですからめましょうよ………。』

地獄じごくえようがえまいがわれわれがここからされないというほうはない……。』

『でもネー、わたしたちは永久えいきゅうのろわれたうえじゃございませんか。きている時分じぶんにわたしたち死後しご世界せかいのあることをゆめにもらず、地獄じごくのあることなどは尚更なおさらぞんじませんでしたワ。兎角とかく浮世うきよふとみじかく。そんなことばかりかんがえていましたワ。いまになってはその間違まちがいがよくわかりました。矢張やはただしいみちんでればよかったとおもわれてなりません。んですべてがせてしまうなら結構けっこうございます。が、なかなかそうじゃないのですもの………。矢張やはりお説教せっきょうできかされたとおり、ちゃんと地獄じごくがこのとおり立派りっぱにあって、其所そこ自分じぶんれられているのですもの………。しかしなにもモー駄目だめです。今更いまさらにたいだってなれはしません。』

『イヤ地獄じごくがあることはそりャ事実じじつ相違そういないが』と吾輩わがはい躍起やっきとなっていた。『ぼうさんたちのいうように、それがけっして永久えいきゅうなものでもなんでもない。イヤ地獄じごくそのものは永久えいきゅう存在そんざいするかもれないが、何人なんびと永久えいきゅうそのなかとどまる必要ひつようはない。吾輩わがはいなによりの証人しょうにんです。いまこそ吾輩わがはいんなところにているが、その以前いぜんには地獄じごくのずッとひく境涯ところちていたのです。一たん地獄じごくそこまでりたものが、ここまでのぼってたのだからたしかなものです。』

『マァそれなら地獄じごくなかにもほかにいろいろかわったところがありますの? わたしそんなことっともらなかったワ。』

『あるだんじゃないです。したにもあればうえにもある。これからおおいうえのぼってくのです。』

 彼女かのじょはじッと吾輩わがはいつめながら、

『ドーもあなたのッしゃることは事実じじつらしいワ。しかし随分ずいぶん不思議ふしぎはなしね………』

『まァいいから一しょにおでなさい。』

『おともしましょうか。失策しくじったところでさきのかわるだけもうけものだワ。毎日まいにち同一事おなじことばかりくりかえしているのでは滅入めいってしようがありャしない……。』


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