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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十四 新たなる救の綱

 次第しだい次第しだいみぎひかりつよさをくわえ、自分達じぶんたち足元あしもとがほのぼのとあかるくなってた。辿たどみちはなはせまいが、たいへんによくひとあしみならされていた。

だれんなにこのみちみつけたのです?』

吾輩わがはいいた。

『これは地獄じごくちている霊魂達れいこんたちすくすべく、あちこち往来ゆききする天使達てんしたちみつけたのじゃ。じつ地上ちじょうこよみかぞえつくせぬなが歳月としつき天使達てんしたち救済きゅうさいめにここまでりてている。キリストの地上ちじょうあらわれるずッと以前いぜんからきつづいての骨折ほねおりじゃがナ………。』

『そうしますと死後しご世界せかい耶蘇紀元やそきげんひらけるまえからこんな組織そしきになっていたのでございますか?』

『そうじゃとも。が、その時分じぶんには地獄じごくちる霊魂れいこんすう現在いまよりもはるかに多数たすうであった。大体だいたいおい人間にんげんぬるとき無智むちであればあるほど、そのひと精神的方面せいしんてきほうめん発達はったつしていない。精神的方面せいしんてきほうめん発達はったつしていなければいないほどそのひと幽界生活ゆうかいせいかつながびき、そして兎角とかく地獄じごくやすかたむきがある。しかし人類発達じんるいはったつ歴史れきしおいて、智的方面じんるいほうめん進歩しんぽが、ともすれは精神的方面せいしんてきほうめん進歩しんぽ阻害そがいするような場合ばあいおこらんではない。そんなさいには早晩そうばん文化ぶんか頽廃たいはいきたおそれがある。

たとえばギリシア、ローマの文明ぶんめいがそれじゃった。あの時代じだいには理性りせいぎて精神せいしん方面ほうめん発達はったつがそれにともなわなかった。ゆえにそのころ地獄じごくにはかみしんぜず、来世らいせしんぜざる人間にんげん霊魂れいこん充満じゅうまんしていた。その古代こだい文明ぶんめい没落ぼつらくするとともに、一文運ぶんうん進歩しんぽおくれたるかんがあった。が、しかし西欧せいおう人士じんしはそのかんおいかえって精神せいしん方面ほうめん発達はったつげることができた。ことによると同様どうよう災厄さいやくがモ一人類じんるいおそうべき必要ひつようせまられてるかもれぬとおもう。──が、かみあくまでも慈悲じひまなこたまい、またわれわれとても霊界れいかいからあらたなる心霊しんれいひかり人心じんしんおくえつけるべくつとめ、あんな災厄さいやくふたたくだらぬようにちからをつくしている。

人類じんるい初期しょき、いわゆる原始時代げんしじだいにありては、ほとんど一さい死者ししゃ霊魂れいこんちつくきは幽界ゆうかい地獄じごくとにかぎっていたものである。それは精神的せいしんてき発達はったつしたものがすくなかっためである。』

『それは少々しょうしょう不公平ふこうへいではないでしょうか?』と吾輩わがはい言葉くちはさんだ。『無智むちなものが無智むちであるのは当然とうぜんではないでしょうか?』

『イヤけっして不公平ふこうへいではない。それはただ大自然だいしぜん法則ほうそく発露はつろぎない。一しょうあいだただ戦闘せんとうその残忍ざんにん仕事しごと従事じゅうじしていたものは、死後しごおいてもなが期間きかんわたりて同様どうよう行動こうどうるにきまっている。んでよほどの歳月さいげつ経過けいかせねばなかなか翻然ほんぜんとして昨非さくいさとるというところまですするものではない。

死後しご霊魂れいこんりて最大さいだい誘惑ゆうわく憑依作用ひょういさようである。よくこの誘惑ゆうわくたものは、おそらく幽界生活中ゆうかいせいかつちゅう次第しだい心霊しんれい発達はったつげ、やがて霊界れいかいむかって向上こうじょう進路しんろ辿たどるであろう。ところが原始民族げんしみんぞくというものは兎角とかく死後しご人体じんたい憑依ひょういしたがる傾向けいこうはなはつよい。その当然とうぜん結果けっかとして地獄じごく落ちる。』

『そういたしますと、人間にんげん生前せいぜん行為こういによりて審判さばかれるのですか? それともまた死後しご行動こうどうによりて行先地ゆきさきちめられるのですか?』

『それは一がいにもかぬであろう。老齢ろうれいたっしてからぬものはその幽体ゆうたい消耗しょうもうしているので幽界生活ゆうかいせいかつおくるべき余裕よゆうがない。したがって生前せいぜんつみによりて地獄じごく何所どこかへおくられる。青年時代せいねんじだいもしくは中年時代ちゅうねんじだいぬるものは、これはんしてその幽体ゆうたいがまだ消耗しょうもうせずにるのみならず、同時どうじにその性格せいかく充分じゅうぶん発達はったつってらぬ。地上ちじょう出現しゅつげんして憑依現象ひょういげんしょうおこすのはおおくはこのしゅ霊魂れいこんで、つまりそうすることによりて生前せいぜん為足したりなかった自分じぶん慾望よくぼう満足まんぞくしようとするのである。憑依現象中ひょういげんしょうちゅうでこのしゅのものが一ばん資質たちくない。』

『イヤおかげさまでよくわかりました。』と吾輩わがはいさけんだ。『わたしなどはさけいろと、それから復讐心ふくしゅうしんとのめに、きている人間にんげんからだによく憑依とりついたものですが、最後さいごのヤツが一ばんつみふかく、そのおかげわたし地獄じごくのドンぞこまでおとされてしまいました……。』

まったくそのとおりじゃ。──一たいある人間にんげん生活状態せいかつじょうたいと、死後しごそのもののおかやす罪悪ざいあくとのあいだにはなかなか密接みっせつ関係かんけいがある。淫慾いんよくさかんなものが死後しごおい人体じんたい憑依ひょういするのは、おもにその淫慾いんよく満足まんぞくもとむるめで、したがってそんな人物じんぶつ最後さいご地獄じごく邪淫境じゃいんきょうおくられる。──おおいつのにやらモー休憩所きゅうけいじょへついてる……。』

 そうわれてると、成程なるほどわれわれのすぐ面前めんぜんには質素しっそな、しかし岩畳がんじょうな一つの建物たてものがあった。入口いりぐちはきわめてせまく、まどはただの一つもいていない。ただうえッぽけなくちいてて、遠方えんぽうからわれわれをみちびいてくれた光明こうみょうはつまりそこから放射ほうしゃされていたのであった。

 天使てんしがコツコツをたたいて案内あんないもとめると同時どうじ内部なかからひらいて、それからパッとほとばしづるひかり洪水こうずい! 天使てんし吾輩わがはいって引張ひっぱんでくれたらしかったが、吾輩わがはいがすっかりくらんでしまっているのでなになにやら周囲しゅうい状況じょうきょうすこしもわからなかった。ただ背後うしろまるおとがドシンとひびいただけであった。


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