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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十二 救いの曙光

 このしょう前半ぜんはんは一九一四ねんがつ十三にち自動書記じどうしょきまた後半こうはんどう二十二にち霊界訪問れいかいほうもん記事きじであります。こころひかりやみとの深刻しんこく意義いぎがよくここにあじあわれます。

 さて吾輩わがはい病院びょういんでひどいわされてから、ますますんな境涯きょうがいからはやしたくてしょうがなくなった。そこ吾輩わがはい磊石ごろいしだらけの地面じべたひざまずいて一しん不乱ふらん祈祷いのりをささげた。と、最後さいごすくいのつなようやくかかったが、しかしそのつづきは全然ぜんぜん自分じぶん予想よそうとはちがっていた。

 吾輩わがはい最初さいしょみとめたのは一てんひかり……。しかり、それは正真正銘しょうしんしょうめいのまことのかみ御光みひかりであった。あのイヤに赤黒あかぐろい、毒々どくどくしい地獄じごくとはまるきり種類しゅるいちがった、しろい、すずしい、えわたった天上てんじょうひかりなのであった。そのなつかしいひかり次第しだい次第しだい自分じぶんほうちかづいてる……。

 不図ふとがついてると、それはただのひかりではなく、一人ひとりひとからだから放散ほうさんされる光明こうみょうであることがあかった。こりャきッと天使てんしだ!──そうおもうと同時どうじおぼえず両手りょうて前方ぜんぽうにつきして、こころからの祈祷きとうをささげた。

 が、天使てんし姿すがた自分じぶん接近せっきんするごと自分じぶんはげしい疼痛とうつうかんじてた。きよひかりがキューッとばかり吾輩わがはいたましい内部なかまでつきとおる……。とてもいたくてたまらない。とうとう吾輩わがはいはわれをわすれて悲鳴ひめいげた。──

………ってください! あつッ! あつッ!』

 するとたちまちぎん喇叭らっぱ朗々ろうろうたる言葉ことばがひびいてた。──

なんじせつなるねがいをれ、福音ふくいんつたえんためにまいったものじゃ。すべての進歩しんぽには苦痛くつうともなう。なんじとてもそのとおり、なんじたまをつつめる罪悪つみけがれをはらうためのくるしみをのがるることはできぬ。地獄じごくにとどまるとき永久えいきゅう苦悩くのうこれはんして天使てんしあとしたがときは一苦悩くのう、そして一向上こうじょうみち辿たどりて、やがては永遠えいえんひかり世界せかいぬけることができる………。』

『おともをさせていただきます。』と吾輩わがはいはうれしなみだむせんだ。『近頃ちかごろわたくしいたにはれッこになってります。何卒どうぞ御導おみちびきください。わたくしおよぶかぎりのことなんなりともいたします………。』

よろしいみちびいてつかわす。はなれたままであといてるがよい。ひかりやみらす。されどやみひかりつつない………。』

 吾輩わがはいとおはなれてひかり所有者もちぬしあと扈従こじゅうした。みちはだんだん爪先つまさきあがりになって、いしだらけの山腹さんぷくうえうえへとのぼりつめるとついに一そうぼくかげもなき山頂さんちょうたっした。やま彼方かなたれば、其所そこには測茫びょうぼうたる一だい沼沢しょうたくよこたわり、その中央部ちゅうおうぶ横断おうだんして、ところどころとぎれちにほそほそい一すじみちかくれにびている。四辺あたりには濃霧のうむちこめ、ただくだん道路みちうえ多少たしょうがっているばかり………。

 ひかりぬしはこの心許こころもとなき通路つうろをばきへきへとすすんでった。吾輩わがはいはその身辺しんぺんから放射ほうしゃするひかりいたさにたえかねて、ずっとおくれてくのであるが、しかしそのおかげ足元あしもとだけははっきりらされるのであった。

 と、にわかにやみなかから兇悪きょうあく無惨むざん大怪物おおばけもの朦朧もうろうあらわれでた。『こいつは憎悪ぞうあく化現けげんだナ。』──吾輩わがはい本能的ほんのうてきにそう直感ちょっかんしたのであるが、そいつがわれわれの通路つうろさえぎってさけんだ。──

『一地獄じごくもんをくぐったものがすことは相成あいならぬ。もとみちかえせッ! それをしないとぬまなかむぞ!』

 けれどもひかりぬし落付おちつはらってこれにこたえた。──

さまたげすナ。なんじはこの徽章しるしわからぬか!』

 そうって片手かたてたかく十字架じかをかかげた。すると悪魔あくまはジリジリと後退あとずさって、とうとう道路みちからてられ、ぬまうえをあちこちうろつきまわった。

 が、ひかりぬしとおぎたとると、怪物かいぶつはたちまち吾輩わがはい方向ほうこう突進とっしんしててわれわれ二人ふたり連絡れんらくった。

 恐怖きょうふのあまり吾輩わがはいうしろをいてしたが、ひかりぬしきかえしてたので、怪物ばけものまたもやぬまうえへとった。

 そのとき吾輩わがはいはじめてひかりぬしから自分じぶんにぎられたが、イヤそのときいたかったこと! まるできている凝塊かたまりたいにかんぜられた。そのくせあとしらべてると、このひかりぬしというのは霊界れいかい上層じょうそうからわざわざ地獄じごくりて救済事業きゅうさいじぎょう従事じゅうじしている殊勝しゅうしょう人間にんげん霊魂れいこんぎないのであった。

 が、しばらくぎると吾輩わがはいからだから邪悪分子じゃあくぶんし次第しだいえつくし、それと同時どうじいたみがすこしづつやわらいでった。

 とうとう無事ぶじ沼沢しょうたくきょうとおぎ、とある一だい都市とし門前もんぜんた。

『これがいわゆる愛慾あいよくいちじゃ』と吾輩わがはい案内者あんないしゃ説明せつめいしてくれた。『地獄じごくちて愛慾あいよく奴隷どれいとなっているものはことごとくここにあつまっている。金銭慾きんせんよく飲食慾いんしょくよく性慾せいよく、そんなものがこのいちはばをきかせている。なんじはこの都市とし通過つうかして一さい誘導ゆうわくたねばならぬ。しそれにけるが最後さいごなんじすくなくともしばしのあいだこの境涯きょうがいにとどまらねばならぬ。これはんしてしも首尾しゅびよく誘惑ゆうわくてばすらすらとうえ境涯きょうがいのぼる。ただうえ境涯きょうがいにのぼるにつけては、自分じぶんだけではまない。ほかだれかを一人ひとりたすすべき義務ぎむがある。──イヤはここでなんじわかれる。憎悪ぞうあくいちからひとすくうだけが任務にんむなのじゃ……。』


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