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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二十一 地獄の病院

 『わたしのほうでは』と解剖台かいぼうだいおんな言葉ことばをつづけた。『むろんあのジューが所持金しょじきんほとんど全部ぜんぶ銀行ぎんこうあずけてあることをチャーンと承知しょうちしてます。けど、もともと復讐ふくしゅうをしてやりたいのがこっちのはらですからガストンにはそうはいません………。』

『ガストンて、きみ情夫じょうふ名前なまえかね?』

あたまえだワ。』と彼女かのじょましたもので、『ガストンにはジューがどこかに金子かねかくしてあるようにいきかせてあります。「おまえさんなに愚図ぐず愚図ぐずしているの! さッさと白状はくじょうさせておやんなさいよ!」そうわたしがってジューのまえ散々さんざん拳固げんこりまわしてせてやりましたの。

『そうするとみんなってたかって猿轡さるぐつわはずし、同時どうじ一人ひとりおとこ短刀たんとうをジューの喉元のどもときつけました。

 「こらッはや金子かね所在地ありか白状はくじょうしろ!」

とガストンがはげしくさけびます。

 「金子かねのこらず銀行ぎんこうあずけてあります。いえにはホンの二百フランしかありません。下座敷したざしき箪笥たんすの一ばんうえ抽出ひきだしにはいってます……。」

とジューが本音ほんねきます。

 「このうそつきッ! いえ何所どこかに二まん五千フランかくしてあるくせに!」

とわたしがさけびます。

 「これこれ、おまえはニニィじゃないか?」

とジューがびッくりする。

 「あたまえさ。」とわたしがこたえる。「今夜こんやはいつかのかたきりにたのだからね、愚図ぐず愚図ぐずわないではや金子おかねしておしまいよ。そうしないとあと後悔こうかいすることができるよ。」

 「……んでもないやつ見込みこまれた………。」

『ジューのじいさん、なにやらくどくど文句もんくならべかけたので、わたしはイキナリ、爪先つまさき先方むこうかおをガリッとひッかいて、

 「まなかったわネ」

ってやりましたの。いたがってジューがわめきてようとしましたので、ガストンが早速さっそくまたそのくち猿轡さるぐつわふさいぢまいました。

 「ドーも箆棒べらぼうひまつぶしをしちゃった。」とガストンがいました。「その炭火すみびをここへってい!」

仲間なかま数人すうにんとわたしとでじいさんをつかまえて、じいさんの素足すあし炭火すみびなかくべると、ほかの二三にんがしきりにそれをおこす。……もなく炭火すみびむらさき火焔かえんててポッポとしてました。

じいさんくるしまぎれに一しょう懸命けんめいからだよじりましたが、もちろんこえはしません。そうするとガストンが、

 「ここいらでモ一吟味ぎんみするかナ。」

いますから、両足りょうあしなかからしてやりましたが、両足りょうあしともこんがりと狐色きつねいろげていましたワ。くちから猿轡さるぐつわはずしていてガストンがさけびました。──

 「金子かねせ! はやくせんとゆるさんぞ!」

 じいさんくようなこえで、

 「金子かねしここにいてあるならすぐにします。金子かねさえあったら、こ……こんなひどいにもわずにんだであろうに………。………勘忍かんにんしておくれ………。」

『しかしガストンはそれをきいてますますむかッぱらをて、手荒てあらく猿轡さるぐつわじいさんにかませていて、

 「こいつのうことは真実ほんとうかしら……。」

とわたしにくのです。

 「うそですよ!」

とわたしがさけぶ。

 「そンならモ一にくべろ!」

ふたた火焙ひあぶりのけいはじまりました。が、にわかに見張みはりのおとこ室内しつないにかけんでけたたましくさけてる。──

 「はやはやく! 警察けいさつからがまわった!」

『さァ大変たいへんだというので、一人ひとりけてげる。一人ひとりまどからす。一人ひとり雨 筩とよつたってりる。──けどわたしはガストンのうでおさえていましたの。──

 「莫迦ばかだねおまえさんは! こんなものをかしてくとすぐ犯人はんにんわかるじゃないの!」

 「まったくだ!」

『そうってガストンはりかえってジューの喉笛のどぶえをただ一とうにひっきりました。

『わたしたちはその首尾しゅびよくげのびましたが、それからもなくガストンはあるばんったはずみにわたしのことをナイフで殺 筩ころしたんです。それからだんだん順序じゅんじょんで、御覧ごらんのとおり只今ただいまはこんなところでこんなひどいわされているのでございますの………。』


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