心霊図書館 ≫「死後の世界」≫ 上編

(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

十九 地獄の第二境

 これは六がつにち霊夢れいむ陸軍士官りくぐんしかんからきかされた物語ものがたり記録きろくです。れいによりて理窟りくつヌキで短刀直入たんとうちょくにゅうてき自己じこ体験たいけんのつづきをべています。

 吾輩わがはい何所どこ目標めあてともなしに、磊石ごろいしだらけの荒野こうやをとぼとぼとあるした。しばらくすると遠方えんぽうかすかな物音ものおとがするのでかくそちらのほうあしけた。すると、じきにその物音ものおと正体しょうたいわかした。ほかでもない、それはおにしもとてられる不幸ふこうなものどもの叫声さけびごえなのである。

 吾輩わがはいはがッかりしてあしとどめた。今更いまさらあのいたわされてはやりれないが、さりとてまるきり仲間無なかまなしの孤独こどく生活せいかつたまったものでない。

『ハテどうもこまったものだナ………。』

 あたまなやましているもなく、にわかに一ぐん亡者もうじゃどもが、れい多数おおぜいおにどもにてられてやみうちからどッとせてたので、吾輩わがはい否応いやおうなしにそのなかまれて一さん突走つっぱしらざるをないことになった。

 しばらくてられてから自分じぶんはドーにかしてこの呵責かしゃくからのがれる工夫くふうはないものかとかんがえはじめた。

 ると吾輩わがはいのすぐわきはしって一人ひとりおとこがある。吾輩わがはいはよろめくあしみしめながらかろうじてくだんおとこはなしかけた。──

『ネーきみなんとかしてここから工夫くふうはないかしら……。』

『そ……そいつができればまこと難有ありがたいが……。』

 するとおに一人ひとりはやくもききとがめた。──

『ふざけたことぬかやつやがるナ、このなかに………。おぼえてやがれこの畜生ちくしょう!』

 一とことさけごとおにはわれわれ二人ふたりむちでピシャピシャなぐった。

 なぐる、はしる。はしる、なぐる。まるで競馬けいばだ。が、吾輩わがはいはそうされながらも四辺あたりまなこをくばった。するとみち次第しだいにデコボコになり、むこうのほうたかがけっている。そのがけのところどころに罅隙すきまがあるのをみとめたときに吾輩わがはい仲間なかまおとこささやいた。

『あれだあれだ!』

 自分達じぶんたちるべくそちらのほう近寄ちかよるように工夫くふうしてはしり、いよいよ接近せっきんしたとるや矢庭やにわいわ割目われめの一ツにもうとしたが、おに一人ひとりたちまちそれとかんづいてあとから追跡ついせきしてた。此方こっち死者狂しにものぐるいはしってたが、むろんおににはかなわない。たちまちむんずとひッつかまえられてしまった。

 しかし吾輩わがはいはひるまず、仲間なかまおとこ入智慧いれぢえした。

神様かみさまいの神様かみさまいのれ! 地獄じごくなかでも神様かみさまたすけてくれる………。』

 入智慧いれぢえしたばかりでなく、自分じぶんから早速さっそくその手本てほんしめした。

『おおかみよ、われをすくえ!』と吾輩わがはいさけんだ。『キリストのめにわれをすくえ!』

だまれ!』とおに呶鳴どなった。『神様かみさまなんきさまたすけるものか! 神様かみさまただしいことがおきだ。最初さいしょきさまほう神様かみさまをはねつけたのだから、今度こんど神様かみさまきさまをはねつけるばんだ。だまれ! なにをドーいのったところでいてくださるものか! 神様かみさまだっていそがしいや。きさまのような謀叛人むほんにん無心むしんなどをきいているひまがあってたまるものか。無益むだ仕事しごとはさッさとして、おとなしく此方こっちもどってい!』

 それにつづいて、れいおそろしいむちが、ピシャリピシャリとわれわれのからだ見舞みまった。吾輩わがはいはそれにかまわず一しん不乱ふらん祈祷きとうをつづけたが、仲間なかまおとこはとうとう我慢がまんがしきれなくなって、もとほうもどった。多数おおぜいなかまじってれば、いくらかおにしもとけられるとおもったからで………。

 その瞬間しゅんかん吾輩わがはい不図ふとがけのすぐした黒光くろびかりのする、イヤにきたならしいいけがあることにがついた。吾輩わがはいは一しゅん躊躇ちゅうちょもなしにそのいけなかんだ。


十八 向上の第一歩 (下)

目  次

十九 地獄の第二境 (下)


心霊図書館: 連絡先