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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

十五 眷族募集

 で、霊魂れいこんどもが、永遠えいえんおわることなき迫撃ついげきけつつあるに、吾輩わがはいのみただ一人ひとりあとのこることをゆるされたのである。

 吾輩わがはいみち案内あんないえらされたおにというのは吾輩わがはいなどよりずッと身材せいたかく、やみなかからうまれたらしいドスぐろからだっていた。が、其奴そいつはものの二ふんけっして同一おなじ恰好かっこうをしていない。のべつまくなしにかおかわれば姿すがたかわる。はじめはなにやらフワフワしたくろ衣服きものたようにえたが、うち素裸体すっぱだかになった。そのうちまたも一ぺんして山羊やぎたいなものになった。オヤオヤとおどろいているうちさら大蛇だいじゃ姿すがたけた。

 そのぎの瞬間しゅんかんかれまたもや人間にんげん姿すがたちかえったが、じつ人間にんげんというのは大負おおまけにけた相場そうばで、いかに人相にんそうのよくない人間にんげんでも此奴こいつのようにみぐるしく、憎々にくにくしい、あきかえった相貌そうぼうのものはひろ世界せかいにただの一人ひとりはしません。まなこったら長方形ちょうほうけいで、へびのように底光そこびかりがしている。はなたらわしくちばしのように鈎状かぎじょうていしている。おおきなくちえたいずれもみなとがってぞざうきばのようにしている。悪意あくい邪淫じゃいんとがかおすみからすみまでみなぎわたり、指端ゆびさきはまるでつめたいにほねッぽい。総身そうしんからはやみしずくがジメジメるようにえる。そうするうちかれ姿すがたまたもやかわって今度こんど真紅まっかな一ぽん火柱ひばしらになったが、ただ不思議ふしぎなことにはそれからすこしも光線こうせんというものを放射ほうしゃしない。

 みぎ火柱ひばしらなかから『おれあとをついてい!』というこえきこえた。そこ吾輩わがはいうご火柱ひばしらとがってすすんでった。もなくやみなかから調子ちょうしはずれの讃美歌さんびかのようなものがきこした。だんだんちかづいてると、其所そこにはやまらしいものがあって、その山腹さんふくあななか沢山たくさん幽霊ゆうれいがウヨウヨしてた。吾輩わがはい案内者あんないしゃはここでふたた半分はんぶん人間にんげんくさ姿すがたって一しょあななかはいんだ。

 鐃鈶にょうはちやら喇叭らっぱやらがあななかでガチャガチャると、それにまじりてものすご叫喚わめきごえやら調子ちょうしはずれの讃美歌さんびかやらがきこえる。もなくわれわれの前面ぜんめんにはおおきな玉座ぎょくざあらわれ、そのすぐそばでは、猛火もうか凝塊かたまりおもわるる大釜おおがまがものすごいおとてて炎々えんえんえている。玉座ぎょくざうえすわっているのは気味きみのわるい面相めんそう大怪物おおばけもので、くだんかまなかまるる男女だんじょ小供こどもたちが、あつがってヒイヒイ悲嗚ひめいをあげるのをさも満足まんぞくげに見守みまもっている。いうまでもなく地獄じごく猛火もうか尋常ただとはわけちがうが、しかしそれにあぶられるかんじは地上ちじょうあぶられるのとにもかはりはない。

『どいつもみな小供こども姿すがたをしているが、実際じっさい小供こどもなのかしら………。』

 と吾輩わがはい不審ふしんまゆをひそめた。

『そんなことがあるもんか!』と案内あんないおにこたえた。『あいつ全部ぜんぶみな成人おとななのだが、無理むりやりに小供こども姿すがた縮少しゅくしょうされて悪魔あくま犠牲ぎせいにされるのだ。本物ほんものおにというものは所中しょちゅう管内かんないさがしあるいて、つかまえたやつ全部ぜんぶかまなかむのだ。本当ほんとう小供こどもはただの一人ひとりんな境涯ところていやしない。──さァ其所そこおに沢山たくさんやってた!』

 そうっているうち猛烈もうれつさけごえ附近あたりおこった。するとはたして一ぐんおにどもがあな内部なか突入とつにゅうしてて、わがはいをはじめ、そこいらに全部ぜんぶのものをことごと大釜おおがまうちにたたきんだ。

 実際じっさいそれがゆるなのか、それともおに念力ねんりきのようにあついのかはよくわからないが、かくそのとき苦痛くつうったらおはなしになりはしない。

 ようやくのことでおにどもが何所どこかへせたので、われわれはかまうちからした。それからほか連中れんちゅう最初さいしょのとおり御祈祷ごきとうはじめたが、吾輩わがはいはそんなこと御免ごめんこうむって案内者あんないしゃほうちかづいた。

 かれはとがったをムキしてわらった。──

うだ、なかなかこの刑罰けいばつらくではなかろう。余程よほど奮発ふんぱつして沢山たくさん眷族けんぞくれてないとまだまだこんなお手柔てやわらかなことではまないぞ!』

れてるよれてるよ!』とさすがの吾輩わがはいもいくらかあわてて『吾輩わがはいいくらでもれてはるが、しかしうしてソー沢山たくさん眷族けんぞくしがるのだ? いくられてたところでただそれをいじめるだけはなしじゃないか?』

あたまえだ。俺達おれたちには人間にんげんにくいのだ! とても汝達きさまたちには想像そうぞうができないほどにくいのだ! 汝達きさまたちひとにくむことをっているつもりだろうが、そりゃホンの真似事まねごとだ。俺達おれたち本業ほんぎょうひとにくむことだ。俺達おれたちしんから人間にんげんがきらいだ!』

 そうさけんだときかれ全身ぜんしんたちま炎々えんえんたる凝塊かたまりになってしまった。かれふたた人間にんげん姿すがたもどったのはそれからしばらくぎてからのことであった。

『さァこれからいよいよきさま仕事しごとだ!』

 かれはそう吾輩わがはいうながてて大急おおいそぎで前進ぜんしんした。なにやら山坂やまさかでものぼるようなかんじであったが、はたしてさかがあったのかドーかはもちろんわかりッこはない。

 突然とつぜんかれ吾輩わがはいをつかまえて虚空こくうはるかにびあがったようにかんぜられたが、不図ふとがついてると、其所そこかつ吾輩わがはいんでいたうえ境涯きょうがいなのであった。

 案内者あんないしゃはここで吾輩わがはいむかって厳命げんめいくだした。

『コラきさま何時いつまでもここつづけることは相成あいならんぞ。きさまからだはモーすッかりけがって重量めかたえているからここにたところでけっして気持きもちはしない。んなところで行方ゆくえくらまそうなどとはせぬことだ。そんなことをすれば、すぐにひッつかまえて極度きょくど刑罰けいばつしょしてくれる。おれにもここ居心地いごこちがよくないからした境涯きょうがいもどっているが、しかしきさまがここでなにかんがえ、なにはたらいてるかくらいのことはチャーンとわかっているからをつけるがいぜ………。』

 それッきり案内役あんないやくおにはプイと姿すがたしてまった。吾輩わがはいはホッと一といきつくはついたが、しかし執行しっこう猶予ゆうよ期間きかんいくらもなかりそうなので、早速さっそく仕事しごと着手ちゃくしゅすることにした。

 だんだんしらべてると、この附近ふきんはいわゆる吝嗇りんしょこくというものらしく、他所よそから自分じぶん所有しょゆうする黄金おうごんりにはせぬかと、ただそればかり心配しんぱいしている。そのくせ地獄じごく真実まこと黄金おうごんのあろうはずがない。よしあったにしたところで、地獄じごく黄金おうごんなんやくにもちはせぬ。それにもかかわらず生前せいぜんからしの慾気よくけ怖気おじけとになやまされつづけている。

 吾輩わがはい彼等かれらくせをうまく利用りようして自己じこ目的もくてきたっすべき妙計みょうけいかんがえた。あるやつには、悪魔あくまおがめばいくらでも黄金おうごんをもらえるといきかせた。またあるやつには、悪魔あくまにすがればけっして所有しょゆう黄金おうごんひとられる心配しんぱいはないと説明せつめいした。かく大車輪だいしゃりん活動かつどうのおかげで、吾輩わがはいなり優勢ゆうせい眷族けんぞく糾合きゅうごうすることに成功せいこうした。吾輩わがはい早速さっそくそいつたちをそそのかして悪魔供養祭ブラックマス執行しっこう着手ちゃくしゅした。

 最初さいしょはいくら祈願きがんをこらしても悪魔あくまほうけつけてくれる模様もようえなかったが、しばらくして感応かんおうがありした。なにやらつよ無形むけいちからでグイグイられるようなかんじ………。ほか連中れんちゅうにはそれがなんのことやらさッぱりわけわからなかったが、吾輩わがはいたちまち、いよいよたナとかんづいた。この引着力いんちゃくりょくは、相互そうごあいだに一の精神的せいしんてき連鎖れんさ成立せいりつしつつあることのたしかな証拠しょうこで、それは引力いんりょく法則ほうそく同様どうよう次第しだい次第しだいいきおいくわえてった。最後さいご自分達じぶんたちっている地面じべたあししたからズルズルズル下方したむかって急転直下きゅうてんちょくか奈落ならくおくふかしずんでった……。


十四 真の悪魔

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十六 地獄のどん底


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