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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

十四 真の悪魔

 これは一九一四ねんがつ十八にち霊夢れいむあらわれた実録じつろくです。いよいよ地獄じごくのドン底生活ぞこせいかつ描写びょうしゃはじまります。──

 さて自分じぶん居所いどころ大体だいたい見当けんとうがつくと同時どうじ吾輩わがはい早速さっそくそのへんをあちこちぶらついてたが、イヤおどろったことには、今度こんど境涯ところ以前いぜん境涯ところよりかもさらに一だん品質しなちる。やみ濃度のうどが一層強そうつよく、そして一ぼうガランとしてひと一人ひとり見当みあたらない。

 が、だんだんるきまわっているうちに、たちまみみつんざくものはなんとも形容けいようのできない絶望ぜつぼうのわめきごえである。オヤ! とおどろいているとたちまちやみうちから一だん亡者もうじゃどもが疾風しっふうごとしてた。そしてそのすぐあとからしゃいかけてたのが一ぐんのホンモノの悪魔あくま……。

 悪魔あくまにもホンモノとニセモノとある。幽界アストラルプレーンへんでおりおり邂逅でっくわしたのはありャ悪魔あくま影法師かげぼうしけっしてホンモノではない。すなわ悪魔あくましんずるものの想像そうぞう形成けいせいされる、ただ形態すがただけのものである。ところが、地獄じごくそこででッくわす悪魔あくまときては、正真しょうしん正銘しょうめいまがいなしの悪魔あくまで、幽界ゆうかいあたりのお手柔てやわらかなシロモノではない。想像そうぞうからされた悪魔あくまには蝙蝠こうもりつばさだの、けたひずめだの、つのえたあたまだのがきものであるが、地獄じごく悪魔あくまにはそんなものはない。彼等かれら人間にんげん霊魂れいこんではなく、とても想像そうぞうだもおよばないおそろしいやから、つまり一しゅおになのである。

 彼等かれらむちのようなものを打振うちふりながら人間にんげん霊魂れいこんむれ自分達じぶんたちまえててく。

『こらッ往生おうじょうしたか!』むちってはそうののしるのである。『本当ほんとうかみというのは俺達おれたちよりほかにはない。汝等なんじら平生へいぜいかみとなえているのはただ汝等なんじら頭脳あたまかすから出来できたシロモノだ……。』

 そんなことをさけびつつ、だんだん此方こちらちかづいてて、おに一人ひとりたちまちピシャリ! と吾輩わがはいかおをなぐりやがった。吾輩わがはいかね地獄じごくりッりにはれているので、早速さっそく其奴そいつ武者振むしゃぶりついてた。が、ドーいうものか今度こんどはさッぱりちからない。いく気張きばってても、ただめちゃめちゃになぐられるばかり、さすがの吾輩わがはい今度こんどばかりは往生おうじょうさせられてしまった。忌々いまいましいやら口惜くやしいやらでむねなかけそうだがいかんとも致方いたしかたがない。もがきながら地面じべたにぶッたおれると、今度こんどだれかがきりのようなものを吾輩わがはいからだとおすのでおぼえず悲鳴ひめいをあげて夢中むちゅうきる。イヤそのくるしさ! とうとう吾輩わがはい亡者もうじゃどもと一しょに、何所どこをあてともなく一しょう懸命けんめいすことになってしまった。

 これからがしん恐怖きょうふ時代じだいはじまりであった。きへきへとわれわれはやみ空間くうかんとおしててられ、ただの一もただの一瞬間しゅんかんとどまることをゆるされない。しまいには『自我じが』がからだ内部なかからたたされるような気持きもちがした。むろん吾々われわれにげるのにいそがしくておたが同志どうし言葉くちをきくこともできない。つまずく、たおれる、きる、はしる──ただそれだけである。仲間なかまおとこもあればおんなもある。大抵たいてい衣服きものているが、ドーかすると素裸体すっぱだかのもある。衣服きものはあらゆる時代じだい、あらゆる国土こくどのもので、ただの一まいとしてボロボロにきちぎれていないのはない。

 われわれは陰々いんいんたる空気くうきとおしておたがい同志どうし顔位かおぐらいみとめることができたが、しかしわれわれの通過つうかする地方ちほうがどんなところであるかはさッぱり見当けんとうれない。ただ一おにどものしもとからのがれたいとおもうばかりで、無我夢中むがむちゅうやみからやみへとくぐりる。

 われわれの背後うしろからはおにどもの凄文句すごもんく間断かんだんなくきこえてる。――

『どうだい。これでもかい! これでもかい! 呵責かしゃくおも褒美ほうびかるい。はしはし永久えいきゅうに! 汝達なんじたち前途ぜんと暗闇くらやみだ。汝達なんじたち永久えいきゅうすくわれない。汝等なんじたちおかしたつみ何時いつまでってもゆるされない。汝達なんじたちかみおがまずして悪魔あくまおがんだ不届者ふとどきものだ!

『イヤイヤこのかみい。かみがあるなどとは人間にんげんこしらえあげたまっかなうそだ。あくがあるからぜんがある。あく根元もとぜんかげだ。この善人ぜんにんなどは一人ひとりもない。キリストのはなし神話しんわぎない。本当ほんとうにあるものはわれわればかりだ。もがけ! 泣け! あきらめろ! 汝達なんじたち幸福こうふくはモーぎた。死後しご生命せいめいなどは汝達なんじたちめにはないほうがよかった。地上ちじょうおいてわれわれは汝達なんじたちつかえた。汝達なんじたち今後こんごわれわれにつかえるべき順番じゅんばんだ……。』

 んな種類しゅるい悪罵あくば嘲笑ちょうしょう間断かんだんなくわれわれのみみにきこえてる。無論むろんかれべるところはたいていはうそで、わばわれわれをがッかりさせるめの出鱈目でたらめぎない。しかしその言葉ことばうちには極少量ごくしょうりょう真理しんりふくまれているのでひとまどわせる魅力みりょく充分じゅうぶんにある。

 これまでの吾輩わがはいは一と先方むこう胸中きょうちゅう立派りっぱ洞察みぬ力量ちからっていたものだが、ドーいうものか今度こんど境涯ところてからはさっぱりそれがきなくなってしまった。附近ふきんにいるのはいずれも意思いし強烈きょうれつやつばかりで、自分じぶん思想しそう堅固けんご城壁じょうへきかこんであるので、いかに気張きばっててもそれを透視とうしすることができない。

 とうとう吾輩わがはいおに一人ひとりむかってさけんだ。──

何時いつまでもわれてばかりてはとてもやりれない。われるかわりにいかける役目やくめにはなれないものかなァ?』

わけはないさ』とかれ吾輩わがはいかおをピシャリとたたきながらさけんだ。『モ一つうえ境涯きょうがいって百にん霊魂れいこんここまでってることができさえすれば、その功労こうろうですぐその役目やくめになれる。こんな容易やさし仕事しごとはない。引張ひっぱって奴等やつらにはみな悪魔あくまおがませる……。』

『でも、ドーしてうえ境涯きょうがいけるだろう?』

俺達おれたちほう案内あんないしてやるよ。が、先方むこうったからとて到底とうてい俺達おれたちからげられはしないぞ。ただ俺達おれたち仕事しごと下働したはたらきをやるだけだぞ……。』

 とうとう吾輩わがはい悪魔あくま弟子入でしいれをすることになってしまった。


十三 自から作る罪 (下)

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十五 眷族募集


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