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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

十三 自から作る罪

 わがはいとグルになった魔術者まじゅつしゃの一ばんきなものは(と陸軍士官りくぐんしかんかたりつづけた) 一に黄金おうごん、二に権力けんりょく、三に復讐ふくしゅう──この三つがかれの生命せいめいなのである。さればとって女色じょしょくなどもあまりきらいなほうでもない。かれの手元てもとにはいつも十余人よにんおんな霊媒れいばいってある。そいつたちはかれにたいしてことごと絶対服従ぜったいふくじゅうたましい同時どうじにくをもささげる。

 吾輩わがはいはこのおとこめには随分ずいぶん金儲かねもうけ手伝てつだいもしてやった。仕掛しかけはきわめて簡単かんたんである。われわれは平気へいき金庫きんこでもなんでもくぐりけることがきる。それから内部なか金貨きんかを一たん瓦斯体がすたいにかえて安全あんぜん地帯ちたいしていてさらもと金貨きんかもどすのである。しかしこの仕事しごとはやさしいようにえてなかなか強大きょうだいなる意思いしちからようする。下拙へた霊魂れいこんにはちょっとできげいでない。もッとやさしいのは睡眠中すいみんちゅうだれかをねらって其奴そいつからだなかにもぐりみ、所謂いわゆる夢遊病者むゆうびょうしゃにしていて、ウンと金貨きんかたせて都合つごう場所ばしょ引張ひっぱすことである。むろん其奴そいつ夢中むちゅうでやっている仕事しごとだから、翌朝よくあさましたときに、前夜ぜんや記憶きおくなどはさっぱりっていない。

 そりャ成程なるほどこの仕事しごとにもときどき失策しくじりはある。夢遊病者むゆうびょうしゃ追跡ついせきされて捕縛ほばくされたことは一や二にとどまらない。無論むろん其奴達そいつたち窃盗罪せっとうざいわれる。──が、魔術者まじゅつしゃほうでは呑気のんきなものだ。だれ窃盗せっとう御本尊ごほんぞんがこんなところにあろうとはうたがうものがありはしない。いわんや肉体にくたいのないわれわれときては尚更なおさら平気へいきなもので、仕事しごとんだときにただ先方むこうからだからしさえすればそれでよい。そうすると当人とうにん霊魂れいこんがそのあとへノコノコはいってて、窃盗罪せっとうざい責任せきにんけてくれる。

 金儲かねもうけのめにはたらいたと同様どうように、吾輩わがはい復讐ふくしゅうめにも随分ずいぶんはたらいてやったものだ。あの魔術者まじゅつしゃは一さい宗教しゅうきょう大嫌だいきらいで、機会おりさえあれば僧侶そうりょたいして復讐手段ふくしゅうしゅだんこうじようとする。

 はじめのうち格別かくべつ念入ねんいりの悪戯いたずらもやらなかった。魔術者まじゅつしゃ手先てさき使つかわれているやつみな妖精ようせいたぐいでそいつたち得意とくい仕事しごと室内しつない椅子いすげるとか、陶器類とうきるいをぶちくだくとか、ねむっているひとはなをつまむとかたいがいそれくらいのものにすぎない。ところが、そのうち次第しだい次第しだい魔術者まじゅつしゃ註文ちゅうもん悪性あくせいびてて、相手あいておとこ梯子段はしごだんからつきおとさせたり、またそのいえ放火つけびをさせたりするようになった。

 仕事しごとんまり無理むりになってると、妖精ようせいどもの大半たいはん御免ごめんこうむってみなげてしまい、多年たねんかれの配下はいか使つかわれて亡霊ぼうれいまでがおとなしくかれの命令めいれいしたがわなくなった。もっと其奴そいつたちは、公然こうぜん反抗はんこうすれば魔術者まじゅつしゃからひどわされるので、めったにくちにはさない。ただ不精無精ふしょうぶしょう仕事しごとをやるまでのことであった。──ナニその魔術者まじゅつしゃんな方法ほうほう亡霊ぼうれいいじめをやるのかとッしゃるのですか? それはれい意思いしちからです。つよ意思いし亡霊ぼうれいたち催眠術さいみんじゅつをかけてやるのです。たいがい亡霊ぼうれいというやつ意思いし薄弱はくじゃくやからで、そいつたちいじめるのははなは容易やさしい。主人しゅじん魔術者まじゅつしゃから一もくかれているのは吾輩わがはいくらいのもので、吾輩わがはいはアベコベに魔術者まじゅつしゃ牛耳ぎゅうじくらいにしていました。そのかわりはたらりもまた同日どうじつだんでない………。

 それはそうと吾輩わがはい主人しゅじんめにはたらくと同時どうじまた自分じぶん利益りえきはかることもけっしてわすれはしなかった。自分じぶんからだ物質化ぶっしつかしてきているとき同様どうよう酒色しゅしょくその慾望よくぼう満足まんぞくさせるくらい朝飯前あさめしまえ仕事しごとで、そんなとき穴蔵あなぐら内部なか光景こうけいったらしんに百夜行やぎょうかんがあった。魔術者まじゅつしゃ使つかっている十人余にんあまりのおんな霊媒れいばいほかに、物質化ぶっしつかせる幽霊ゆうれいまた人余にんあまりもる。その奴等そいつら人間にんげんなみったり、すわったり、はなしをしたり、わらってたり、うたうたったり、また舞踏ぶようまでもやらかす。とどのつまりがふでくちにはとてもがた狂態きょうたいのあらんかぎりをつくす………。

 が、そうするうちにも吾輩わがはい幽体ゆうたい間断かんだんなく補充ほじゅうして必要ひつようがあった。元来がんらい自分じぶんのものでなく、ホンの一時的じてき借物かりものなので、いかにも品質しな脆弱ぜいじゃく分解ぶんかいやすくてしょうがない。おけに悪事あくじばかりはたらいてるから一そうよわかたがはげしい。いくら人間にんげん憑依ひょういして補充ほじゅうしててもそんなことではなかなかいつかない。これには吾輩わがはいもほどほどこまってしまった。


十二 魔術者と提携

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十三 自から作る罪 (中)


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