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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

十二 魔術者と提携

 陸軍士官りくぐんしかん告白こくはくはここにいたりてますます深刻味しんこくみくわえてまいります。魔術まじゅつかんする裏面りめん消息しょうそくるようにらされて、心霊しんれい問題もんだいにたずさわるもののめにこよなき参考さんこう資料しりょうきょうしてくれます。──

 それから吾輩わがはいただちに生前せいぜん魔法まほうつかいであったものを物色ぶっしょくしはじめた。自分じぶん領土りょうどないにも案外あんがいそんな手合てあいが沢山たくさんることはたが、大概たいがいはちょっと魔法まほうの一たんかじったくらいのものばかりで、いわゆる魔法まほうつかいの大家たいかであったものは地獄じごくのもッとふかところおとされているのであった。

 が、散々さんざんさがしまわったあとで、やっとのことで一人ひとりかつ魔道まどう大家たいか弟子でしであったというのをつけした。其奴そいつは、実地じっち経験けいけんすこしもないが、ただ魔道まどう秘伝ひでんだけは生前せいぜんその師匠ししょうからおそわっていた。そして地上ちじょう魔術者まじゅつしゃ連絡れんらく方法ほうほうなるものを吾輩わがはい伝授でんじゅした。

 その方法ほうほうというのはつまり一つの呪文じゅもんとなえることである。地上ちじょう魔術者まじゅつしゃとなえる呪文じゅもん霊界れいかいとなえる呪文じゅもんとがぴッたりうと、そこに一つの交流こうりゅう作用さようおこって感応かんおうができる………。秘伝ひでんたんにそれだけで、やってれば案外あんがいやさしいものであった。

 かく吾輩わがはいが、そうして連絡れんらくることになった。魔術者まじゅつしゃというのは一人ひとりのドイツじんで、プラーグの市端まちはずれんでるものであった。其奴そいつなかなかの魔術狂まじゅつきょうで、すでに死者ししゃ霊魂れいこん──もちろん幽界ゆうかいのヤクザ霊魂れいこんではあるが、そんなものを方法ほうほう心得こころえり、またすこしは妖精類ようせいるいとも連絡れんらくっていた。が、それではだんだんりなくなって、近頃ちかごろ真実ほんもの地獄じごく悪魔あくましにかかっていた。ってましたとわんばかりに早速さっそくそれにおうじたのが吾輩わがはいであった。

 さて、れい呪文じゅもん呪文じゅもんとのながれなかあゆり、こちらのねん先方むこうねんむすびつけてると、不思議ふしぎ不思議ふしぎ! 自分じぶん無限むげん空間くうかんつうじて地上ちじょう引張ひっぱられるようながして、忽然こつぜんとしてみぎのドイツじん面前めんぜんたのであった。

 神秘学しんぴがく研究者けんきうしゃ──そうみぎのドイツじん自称じしょうしてるが、成程なるほど不思議ふしぎ真似まねをしておとこには相違そういなかった。つくって自分じぶんがその中央ちゅうおうつ。内面ないめんには三かくを二つわせてつくった六かく星形ほしがたがある。その周囲しゅういには五角形かくけいやらそのほかいろいろの秘密ひみつ符号ふごうえがいてある。室内しつない火鉢ひばちからはなにやらの香料こうりょうけむり濛々もうもういあがる。

 しつそのものまた真暗まっくらで、四ほうかべゆかいしたたんであるところからさつすればたしかに一の穴蔵あなぐららしかった。かべ沿いては木乃伊みいられた木箱きばこやら其他そのた二三ぴんならべられてあった。

 吾輩わがはいほうからは先方むこう様子ようすがよくえたが、先方むこうはまだ吾輩わがはいていることにがつかぬとえてしきりに呪文じゅもんとなえつづけた。吾輩わがはいるべくはや先方むこうのつくようにと意念いねんをこめた。

 不図ふとがついてると、外側そとがわには、すこはなれて一人ひとり婦人ふじん恍惚こうこつ状態じょうたいはいってた。

『ははァ』と吾輩わがはい早速さっそくかんづいた。『われわれはこのおんな肉体にくたいから材料ざいりょうして幽体ゆうたい製造せいぞうするのだナ。』

 吾輩わがはいただちにみぎ婦人ふじん接近せっきんして幽体ゆうたい製造せいぞう着手ちゃくしゅすると同時どうじに、ますます念力ねんりきをこめて姿すがたせることにつとめた。もなく魔術者まじゅつしゃ吾輩わがはいみとめた。吾輩わがはい姿すがたはまだ普通ふつう肉眼にくがんえいずるほど濃厚のうこうではないのであるが、先方むこうがいくらか霊視能力れいしのうりょくってたのである。

 魔術者まじゅつしゃはさッと顔色かおいろをかえて恐怖きょうふあまりしばらくはガタガタふるへていたが、やがて覚悟かくごをきめたらしく、きッと身構みがまへしてさけんだ。

命令めいれいじゃ、もッと近寄ちかよれ!』

おおきくやがったナ』と吾輩わがはいこたえた。『吾輩わがはい何人なんびと命令めいれいけぬ。たのみたいことがあるならそれ相当そうとう礼物れいものすがい。』

 吾輩わがはい返答へんじにはやっこさんすくなからず面喰めんくらった。悪魔あくますのには、古来こらい紋切型もんきりがたせりふがあって余程よほど芝居気しばいきたッぷりに出来でき上っている。ところが吾輩わがはいはそんな法則ほうそくなどを眼中がんちゅういていないのだから、相手あいてがマゴつくのもまった無理むりはない。

 しばらく躊躇ちゅうちょしたあとかれふたたった。──

しからばなんじ要求ようきゅうする礼物れいもつとは何物なにもつなるか?』

 不相変あいかわらず堅苦かたくるしいことをいう。こんな場合ばあい普通ふつう応答おうとうとしては『なんじたましい申受もうしうける』とかなんとかいうのであろうが、吾輩わがはいべつ魔術者まじゅつしゃたましいなどがしくもなんともない。さてそれならなん返答へんとうをしようかと今度こんど吾輩わがはいほう躊躇ちゅうちょしたが、ようやかんがしてさけんだ。──

『それならおまえほうなに寄越よこすか?』

たましいをつかわす。』

早速さっそく返答へんとう

 それをきいて吾輩わがはい嘲笑あざわらった。──

『おまえくさったたましいなどをもらったところで仕方しかたがない。吾輩わがはいはモ実用向じつようむきの品物しなものしい。』

からば』とかれは一こうして『なんじ人間にんげんからだあたえてつかわす。それなら便利べんりであろうが……。』

『そんな芸当げいとうきるかね? 吾輩わがはい幽体ゆうたいさえってはしない……。』

くるしゅうない。なんじに一幽体ゆうたいつくってつかわす。幽体ゆうたいつくっていて、ぎに肉体にくたい占領せんりょうするのが順序じゅんじょじゃ。』

『そいつァ豪儀ごうぎだ! 是非ぜひ一つやってくれ……。』

 魔術者まじゅつしゃ言葉ことばけっしてうそではなかった。さすがに神秘学しんぴがく研究者けんきうしゃ名告なのだけあって、かれ中身なかみなしの幽体ゆうたいからだの、稀薄きはく出来でき上った妖精ようせいだのを沢山たくさん引寄ひきよせる力量ちからっていた。で、吾輩わがはいはそれなかからしかるべき妖精ようせいを一ぴきして吾輩わがはいもと姿すがたつくりかえた。それから今度こんど霊媒れいばいちかづき、魔術者まじゅつしゃからも手伝てつだってもらって、ホンモノの物質的肉体ぶっしつてきにくたい製造せいぞうずることに成功せいこうした。

 吾輩わがはいおぼえず歓呼かんここえげた。一たん地獄じごくちたでありながら、モ一肉体にくたいって地上ちじょう出現しゅつげんすることがきたのであるかろうれしくてたまらないはずだ。

『ドーかねきみ人間にんげんらしくえるかね?』

 右顧左眄うこさべんしながらさけんだ。

『ああなかなか立派りっぱ風采ふうさいじゃ!』

外出がいしゅつしても差支さしつかえないものかしら……』

『さァそいつは受合うけあわれないが、かく出掛でかけてるがよかろう。』

 そこ吾輩わがはい石段いしだんのぼって青天せいてん白日はくじつ娑婆しゃばた。──が、その結果けっか不思議ふしぎであると同時どうじまたすこぶ不愉快ふゆかいでもあった。吾輩わがはいからだはゾロゾロとけてくのである。

『ウワーツ! 大変たいへん大変たいへん!、たすぶね……』

 いそいで穴蔵あなぐらんでって物質化ぶっしつかなおしをする始末しまつ

きみ』と吾輩わがはいった『太陽たいよう光線こうせんあたってヘロヘロとけるようなからだ難有ありがたくないナ、モなんぞましなものをつくってくれんか?』

仕方しかたがなかったら』とかれささやいた。『きている人間にんげん憑依ひょういすることじゃ。それならける心配しんぱいはない。──この人造じんぞうからだじゃとて、をつけて暗闇くらやみなかばかりるいてればちッともける心配しんぱいはないのじゃが……。』

 んな塩梅あんばい吾輩わがはいはこの魔術者まじゅつしゃとぐるになってますます悪事あくじたくらむことになった。


十一 皇帝の誘惑

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