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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

九 ダントン征伐

 さて皇帝こうてい饗宴きょうえんおわるととも吾輩わがはい部下ぶか数人すうにんめいじて義勇軍募集ぎゆうぐんぼしゅう宜言書せんげんしょ発布はっぷさせましたが、地獄じごくというところんな仕事しごとをやるにはじつ誂向あつらえむきの場所ばしょで、これおうじて東西南北とうざいなんぼくからさんずものは雲霞うんかごとく、たちまちにしていくにんのぼりました。吾輩わがはいただちにこれが隊伍たいごととのえ、市街しがいつうじて旅次行軍りょじこうぐん開始かいししたのであります。

 途中とちゅうからもふうのぞんで参加さんかするものがきもらず、またたくまたいくにんかをくわえた。ようやくにして到着とうちゃくしたのは郊外こうがい荒野原あれのはら。──通例つうれい地獄じごく大都会だいとかい附近ふきんにはそんな野原のはらきものなのです。ここで吾輩わがはいはおのものの陸軍式りくぐんしきにすッかりかく部隊ぶたい編成へんせいおわりましたが、あつまったのはしん文字通もじどおりの烏合うごうしゅうで、あらゆる時代じだい、あらゆる国土こくど人間にんげんがうじゃうじゃとってたかった混成部隊こんせいぶたい……。古代羅馬こだいローマ武士ぶしれば、中世ちゅうせいの十字軍士じぐんし野武士のぶしる。一ぽうには支那しな海賊かいぞく他方たほうには英国えいこく冒険家ぼうけんか、トルコじん、アラビアじん、ブルガリアじん、その各国かくこくのナラズもの、アバレもの……。んな手合てあいが極度きょくど昂奮状態こうふんじょうたいおいかわいて喊声かんせいりあげるのは結構けっこうでしたが、ときどき仲間同志なかまどうし喧嘩けんかをおッぱじめるにはきました。

 大骨折おおぼねおり吾輩わがはい全軍ぜんぐん整理せいりおわった。編成法へんせいほうはここにくわしく申上もうしあげる必要ひつようもないとおもうが、ようするにるべく同種類どうしゅるいのものをもって一部隊ぶたい編成へんせいする方針ほしんり、その結果けっか中世ちゅうせい騎士軍きしぐん古代羅馬こだいローマ戦士軍せんしぐんまた海賊軍かいぞくぐん、トルコぐんったようなものが沢山出来上たくさんできあがった。その各々おのおの有為ゆうい将校しょうこうによりて指揮しきされてるのであるからその戦闘力せんとうりょくはなかなかもっあなどれない。一ぱんの欠点けってんをいえばそれが全然ぜんぜん訓練くんれん不行届ふゆきとどきてんであったが、その欠点けってん吾輩わがはい任命にんめいした将校しょうこう圧倒的あっとうてき意思いしちからおぎなわれた。また吾輩自身わがはいじしん間断かんだんなく発生はっせいする叛逆者はんぎゃくしゃ抑圧よくあつ忙殺ぼうさつされどおしであった。

 かく吾輩わがはい意思いし御承知ごしょうちのとおりはなれて強固きょうこであるので、この烏合うごう大軍団だいぐんだん………。左様さよう総数そうすう二十五まん余人よにんのぼ大軍たいぐん統率とうそつまっとうすることがきたのであります。

 さて、いよいよ前進ぜんしんとなりましたが、イヤその途中とちゅう乱暴狼籍らんぼうろうぜき加減かげんときたらまった天下てんかぴん、いかなる家屋かおくでも闖入ちんにゅうせざるはなく、いかなる住宅じゅうたくでも掠奪りゃくだつせざるはない。ただし地獄じごく掠奪振りゃくだつぶりには一の特色とくしょくがある。ることはっても、すぐにあきがきて、るよりはやててかえりみない。

 ダントンの領土りょうど接近せっきんしたときに吾輩わがはいただちに偵察隊ていさつたいして敵状てきじょうさぐらせた。もなく味方みかたてき数人すうにんとらえてもどってた。

 ればそれ捕虜ほりょというのはみなフランス革命時代かくめいじだい服装ふくそうをしているものばかりでした。吾輩わがはい彼等かれらからいろいろの有利ゆうり材料ざいりょうた。むろん彼等かれらげん左右さゆうたくして吾輩わがはいあざむこうとこころみたが、霊界れいかいではこころおもっていることをかくせないから、そんなことをしてもなんやくにもたなかった。

 彼等かれら地上ちじょうんでたのはフランス革命時代かくめいじだいで、あるものはダントンの味方みかたであり、またあるものはそのてきであったが、いずれにしても彼等かれらには共通きょうつうの一つの道楽どうらくがあった。ほかでもない、それは断頭機ギロティン愛用あいようすることであった。ただ断頭機ギロティン本来ほんらい目的もくてきできるだけ迅速じんそくに、そしてできるだけ安楽あんらく人間にんげんころすことであるのだが、それでははなは興味きょうみうすいというので、地獄じごくける断頭機ギロティン使用法しようほうにはちょっと新工夫しんくふうくわえられていた。

 無論むろん地獄じごくではいかにりたくてもひと死刑しけいしょすることだけはきない。地獄じごくきるのはるべく多大ただい苦痛くつうあたえることだけである。で、彼等かれら犠牲者ぎせいしゃ断頭機ギロティンだいせるにさいし、頭部あたまかわりにあし正面しょうめんって仕掛しかけにしてある。断頭機ギロティン上下じょうげうごいてあしからきにプッリプッリと全身ぜんしん刺身さしみのようにきざんでく。られれば、地上ちじょうおいかんずると同様どうよう苦痛くつうだけはかんずるが、れぎれの部分ぶぶんただちにまた癒着ゆちゃくしてくから、かえかえ苦痛くつうかんずるだけで、ぬるということは絶対ぜったいにない。──イヤ諸君しょくん人間にんげんというものはんてわかりのわるいものでしょう。きてとき莫迦ばかおそれるが、じつをいうとはむしろ人間にんげんてきではなくて味方みかたなのである。ともなわざる永久えいきゅう苦痛くつう! 吾輩わがはい地獄じごくてから、モ一にたいと何遍なんべん祈願きがんしたかれはしません。

 それはそうと吾輩わがはい敵状てきじょう報告ほうこくもとずいて策戦計劃さくせんけいかくて、いよいよ敵地てきち突入とつにゅうした。みちすがらも手当てあたり次第しだい劫掠こうりゃくをこころみ、敵地てきち人民じんみんなどは散々さんざんいじめたうえ奴隷どれいとなし、家屋かおくごときもことごと破壊はかいすることにした。ただ一つこまるのは霊界れいかい家屋かおく非実質的ひじっしつてきなことで、われわれがその附近ふきんあいだこそこちらのおもとおりにこわれてるが、地点ちてん前進ぜんしんしてるとそれ建物たてものはいつのにやらニョキニョキともととおりに屹立きつりつしている!

 すでにわれわれ自身じしんが一のかたちぎない。それと同様どうように、建物たてものまた一のかたちであるから、こればかりは破壊はかいない。こちらの意思いしがその所有者しょゆうしゃ意思いしよりも強固きょうこであれば家屋かおくかたちは一消滅しょうめつするようにえるが、破壊はかいしようという意思いし消滅しょうめつすると同時どうじ家屋かおくたちま原形げんけいふくしてしまう。ようするに霊界れいかい意思いし世界せかい想念そうねん世界せかいで、物質ぶっしつヌキのかたちだけのところだとおもえばよろしい。──イヤしかしんなことはあなたがたもモー叔父おじさんからきかされて百も御承知ごしょうちでありましょう。


八 皇帝に謁見

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九 ダントン征伐 (下)


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