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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

六 地獄の大都市

 華麗りっぱではあるがしかし極度きょくどきたな市街しがいを、吾輩わがはいあしまかせてうろつきまわった。時々ときどき吾輩わがはいおとこおんな邂逅でっくわしたが、その大部分だいぶぶん地上ちじょう格別かくべつちがった服装ふくそうもしてない。ただそれがイヤによごれてビリビリにけているだけであった。なかには吾輩わがはい突撃とつげきしてそうにするのもあったが、此方こちらからグッとにらみつけてやるとわけなくげてしまった。んなことをかえしているうちに、吾輩わがはいふとかんがえついた。──

いままでおれひとから攻撃こうげきされてばかりるが今度こんどは一つアべコベに逆襲ぎゃくしゅうして家来けらい一人ひとりもこしらえ、道案内みちあんないでもさせてやろうかしら。ドーせ自分じぶんいやでもおうでも此所ここすまわなければならんのだから……。』

 そこ吾輩わがはいはイキナリ一人ひとりおとこびかかった。先方むこうはびッくり仰天ぎょうてん、キャーツ! と悲鳴ひめいをあげてしたが、吾輩わがはいれい地獄じごくおくし、ドーしても後戻あともどりをするように念力ねんりょくめた。先方むこうあくまで抵抗ていこうはしてたものの、ちからおよばず、づるりづるりと次第しだいにこちらへせられてた。いよいよ手元てもと接近せっきんしたときに吾輩わがはい自分じぶん権威けんいせるめに、ギューと地面じべた其奴そいつあたま[#ママ]をすりつけさせ、散々さんざんあぶらしぼったうえで、きて道案内みちあんないをしろと厳命げんめいした。やっこさんおろおろごえして愚痴ぐちりながら、吾輩わがはいめいのまにまに諸々方々しょしょほうぼう建物たてもの案内あんないしてあるいた。

 やがて家来けらいおそおそ吾輩わがはいいた。

『ここでむかしの羅馬ローマ武士ぶし大試合おおじあいございますが御覧ごらんになられますか?』

『ふむ、はいってよう。』

 早速さっそくむかし大劇場コロセウムおぼしき建物たてものはいってると、坐席ざせき見物人けんぶつにん充満いっぱいであった。そこ吾輩わがはいたちま一人ひとりおとこ首筋くびすじつかんで坐席ざせきそとにおッぽりした。そのぎの座席ざせきには醜悪しゅうあく容貌ようぼうおんなすわっていたので、こいつもついでにほうしてやった。われわれ二人ふたり大威張おおいばりで其所そこすわんだ。

 試合しあい丁度ちょうどはじまったばかりであった。ると自分達じぶんたち反対側はんたいがわには立派りっぱ玉座ぎょくざもうけられてある。

彼所あそこ陛下へいか御座所ござしょございます。』

吾輩わがはい家来けらいがビクビクしながら小声こごえささやいた。

『ナニ陛下へいか………。一たいそれは何所どこうまほねか?』

『よくはぞんじませぬが、かくあのかた皇帝こうていで、この近傍きんぼう司配しはいしてられます。』

『そうすると地獄じごくにはほかにもまだ皇帝こうていがあるのか?』

『そうでございます。おうだの大将たいしょうだのも沢山たくさんございます。』

『そんなに沢山たくさんあっては喧嘩けんかをするだろうナ?』

喧嘩けんか………。旦那様だんなさまみょうなことをおたずねになられますナ。一たい何時何所いつどこからおでなされましたか?』

『そりャまた何故なぜかナ?』

『でも旦那様だんなさま地獄じごく喧嘩けんかきものでございます。ここ憎悪ぞうあく残忍ざんにんとの本場ほんばございます。われわれは間断かんだんなくおたがい喧嘩けんかばかりいたします。地方ちほう地方ちほうとはしのぎをけずり、皇帝こうてい皇帝こうていとはのべつ戦端せんたんまじえます。げんわたしどもは近頃ちかごろ附近ふきんの一地方ちほう征服せいふくしました。で、今日きょうはその戦勝せんしょうのおいわいに捕虜達ほりょたちして試合しあいをさせるのでございます。──あッ戦士達せんしたち出場しゅつじょうございます。』

 やがて試合しあいはじまりましたが、さすがの吾輩わがはいほぞってはじめてんな気味きみのわるいもの見物けんぶつしました。むかしの試合しあいきものの残忍ざんにんさがあるだけで、むかしの武士道的ぶしどうてきはなやかさは味塵みじんもなく、ただ野獣性やじゅうせい赤裸々せきらら発露はつろぎない。また試合しあいたん男子おとこ男子おとことのあいだかぎらず、男子おとこ女子おんなとの試合しあいもあれば、はなはだしきは大人おとな小児こどもとの試合しあいさえもあった。そしてありとあらゆる苦痛くつうあたえ、あわれな犠牲者ぎせいしゃたちはヒイヒイキイキイこえかぎりにさけぶのである。大体だいたい光景こうけい地上ちじょうるのと大差だいさはないが、ただ何時いつまでってもぬということがないから、したがって苦痛くつうながい。ノベツまくなしに何時いつまでもりつづける。──現在げんざい吾輩わがはいんなことをいたりんだりするだけでもむねるくなりますが、当時とうじはまるでその正反対せいはんたいで、極度きょくど吾輩わがはい残忍性ざんにんせい野獣性やじゅうせい挑発ちょうはつし、なんともえぬ快感かいかんあたえたのでした。これはけっして吾輩わがはいばかりでなく、すべての見物人けんぶつにんみなそうなので、地獄じごく主権者しゅけんしゃがかかるもの興行こうぎょうする理由りゆうもそのてん存在そんざいするのです。──今日きょうはこれで中止ちゅうししますが、次回じかいにはモすこくわしく申上もうしあげます……。』


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