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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

四 交霊会の裏面

 吾輩わがはいもこの説法せっぽうをきかされてすッかり交霊会行こうれいかいゆきに賛成さんせいしてしまった。そしてもなくの一ぐん霊魂達れいこんたちちて交霊会こうれいかいもよおされている一室いっしつ出掛でかけてったが、其所そこには一人ひとり婦人ふじんやくにんばかりのおとこおんなにとりまかれてすわってた。婦人ふじんわきにはひかりかがやく一人ひとり偉大いだいなる天使てんしってたが、その天使てんし雲霞うんかごと悪霊あくれいどもに包囲ほういされ、多勢たぜい無勢むぜいつい霊媒れいばいからだ一人ひとり悪霊あくれい占領せんりょうまかせてしまった。悪霊あくれいどもはこれると、どッとばかりに歓呼かんここえをあげ婦人ふじん身辺しんぺんせて、前後ぜんご左右さゆう上下じょうげからひしひしと包囲ほういしつくして霊魂れいこん垣根かきねつくった。

『一たいこりャなにをしてるのかしら………』と吾輩わがはい自分じぶん案内者あんないしゃたずねた。

『ナニわれわれはうして天使てんし勢力せいりょく遮断しゃだんしてるのだ。いかにえら天使てんしでも悪霊あくれい垣根かきね容易ようい突破とっぱない。丁度ちょうどわれわれがすぐれた霊媒れいばい包囲ほういする天使てんし垣根かきね突破とっぱないのと同様どうようじゃ。さァこれから憑依霊ひょういれい仕事しごとはじめるところだからをつけて見物けんぶつするがいい。』

 そういううちにも霊媒れいばい言葉くちはじめ、そのせき一人ひとり中年ちゅうねん婦人ふじんむかってんなことをした。──

『わたしはおまえいもうとのサリィです。わたしはどんなにねえさんにいたかったでしょう。』

 これをきっかけに二つ三つ当人とうにん心当こころあたりのありそうなことをしゃべった。それをきいて吾輩わがはいはすッかり感心かんしんしてしまった。

うしてんな事実じじつってるのかしら。………じつおそったものだネ。』

『そりャわけはないさ。彼奴あいつ何年なんねんとなくこの霊媒れいばいまとってて、いろいろやくちそうな材料ざいりょう平生へいぜいから仕入しいれていてあるのだ。──さァまたはじまった……。』

 れば今度こんどそのへや一人ひとりおとこ霊媒れいばいむかって質問しつもんはじめたところであった。──

わたしなん有益ためになることうかがいたいのです。まりソノ実用向じつようむきの御注意ごちゅういを……。』

『それではあなたのにいさんのジョージさんにいてましょう。』と霊媒れいばいこたえた。そしてただちにジョージという人物じんぶつ態度ふりをしてった。『ヘンリィ、わたし財政上ざいせいじょう問題もんだいかんして一つおまえ有益ゆうえき注意ちゅういあたえようとおもうが、モ此方こちらってみみをかしておくれ。他言たごんはばかることだから……』

 そうったかれみぎおとこっている、ある株券かぶけんのことにきてボソボソとひくこえ注意ちゅういするところがあった。おとこはそれをきいてたいへんれしそうなかおをした。

『おまえはそれで大成金おおなりきんになれる……。』

 そう憑霊ひょうれいくわえた。

『あんなこといやがって真実ほんとうかしら?』

吾輩わがはい案内役あんないやくいた。

真実ほんとうだよ、いまのは………。われわれの仲間なかま時々ときどきうそって椋鳥むくどりをひッかけてよろこぶこともあるが、また時々ときどき真実ほんとうのことをおしえてやって、うしてもわれわれをはなれることのできないように仕向しむけてくのだ。また人間にんげんというものはるべくいろいろの慾望よくぼう満足まんぞくさせて堕落だらくさせてかないと、段々だんだん有意義ゆういぎ心霊上しんれいじょう問題もんだいなどに熱中ねっちゅうしてやがって、俺達おれたち邪魔じゃまをするようになるものだ。──ソレまたはじまった。』

 今度こんど霊媒れいばい一人ひとりわかおとこ?ちかづいた。──

いまあなたがこころおもってることはよくわたしわかってます。先方むこう申込もうしこみには早速さっそくおうじなさい。受合うけあってあなたがた結婚生活けっこんせいかつこうふくです。あのひといていろいろ面白おもしろからぬ蔭口かげぐちをきかされるかもれませんが、みなうそですからそれにだまされてはけません。』

 吾輩わがはいふたた質問しつもんを発した。──

『ありャ一たいなにっているのかね……。』

『あのわかおんな目下いま結婚問題けっこんもんだいおこっているのだネ。候捕者こうほしゃおとこというのはっぱらいの悪漢わるもので、はしにもぼうにもかからぬシロモノだ。おかげであのおんないまに散々苦労さんざんくろうをさせられた挙句あげくはて堕落だらくするにきまっている。そこで結局けっきょくこちとらの喰物くいものになる。──さァまたはじまりはじまり! 今度こんど霊媒れいばいからだかかったやつ剽軽者ひょうきんもののイタズラれいだからきッと面白おもしろいことをやらかすに相違そういない。』

 るほど今度こんど霊媒れいばい新規あらて霊魂れいこんかかってさまざまの悪戯いたずらはじめたのであった。なかにはどくにもくすりにもならぬ仕打しうちまじってたが、またなかには性質たちのよくないイタズラもあった。しかしがいしてほか霊魂れいこんのようにあまるずるいところがなかった。手初てはじめに室内しつない品物しなものうごかしたり、げつけたりする。ぎに室内しつない人達ひとたちあたまをピシャピシャたたく。ぎに物品ぶっぴんかくし、人々ひとびと懐中物かいちゅうものさえたくみにる。それがみな人間にんげんほうからればっともれないでることになる。最後さいごかれ其所そこいてあった卓子テーブルッくりかえし、座客さかく過半かはんにとんぼがえりをたせた。

 るだけってわれわれは交霊こうれい会場かいじょうきあげた。

 みちみち吾輩わがはい案内者あんないしゃ説明せつめいした。──

心霊現象しんれいげんしょうといえば大抵たいていあんなところが一ばんおおいが、物質的ぶっしつてき頭脳あたま所有者もちぬし霊魂れいこん存在そんざい承認しょうにんさせるめには、このしゅ方法以外ほうほういがいには絶対ぜったい何物なにものもない。そのめにすぐれた霊媒れいばい霊魂れいこんまでもむことをんな小供こどもじみた曲芸きょくげいってせるのだが、見物人けんぶつにん大歓おおよろこびで、はじめてほどということになり、そのいきおいでうそだらけの霊界通信れいかいつうしんまでも感心かんしんしてれる。おかげ霊媒れいばいからだはめちゃめちゃになり、交霊会こうれいかい評判ひょうばんはめっきり下落げらくする。われわれ悪霊あくれいりての大禁物だいきんもつ純潔じゅんけつ真面目まじめ霊媒れいばい心霊研究しんれいけんきゅうとである。そんなものは此方こっち秘密ひみつ矢鱈やたら素破抜すっぱぬきすぎて、人間にんげん用心深ようじんぶかくさせてこまってしまう……。』

 んな記事きじ御覧ごらんになれば諸君しょくん吾輩わがはい趣旨しゅし那辺なへんにあるかをおさっししてくださるでしょう。諸君しょくんのおのつかないところに、べつかくれたる理由りゆうもありますが、それは次第しだいわかってまいりますから辛抱しんぼうして最後さいごまでんでいただきます。

 にしろ吾輩わがはいつよ人間にんげんで、だんだん堕落だらくしてとうとう地獄じごくのドンぞこまでもちてったものであります。人間にんげんというものは生前せいぜん悪事あくじをすれば、その堕落だらくせる人格じんかく死後しごまでも依然いぜんとして継承けいしょうされ、ちるところまでちてしまわねばけっして承知しょうちができないようであります。

 が、ことわざにもあるとおり、『一さいるは一さい大目おおめることである。』──一たん地獄じごくのドンぞこちたものがやがてまた頂上ちょうじょうまでのぼることがありとすれば、そのあいだたる知識ちしき自分自身じぶんじしんにとりても、またぱん世間せけんりてもきっとおおいやくちます。格別かくべつ悪事あくじもせぬかわりにまた格別かくべつ善事ぜんじもせぬ弱虫霊よわむしれいよりも、このほうかえって有効ゆうこうかもれません。かく吾輩わがはいはそのつもりでおおい活動かつどうします……。


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