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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

四 交霊会の裏面

 つづいてあらわれた陸軍士官りくぐんしかんからの霊界通信れいかいつうしん──。

 諸君しょくん吾輩わがはい手元てもとから当分とうぶんあま気持きもちのよい通信つうしんせっしようと期待きたいされるとあてはずれます。諸君しょくん事実じじつ要求ようきゅうされる。ゆえ吾輩わがはい事実じじつ供給きょうきゅうする。一たい世間せけん人達ひとたち赤裸々せきらら事実じじつせっせられることははなはのぞましいことで、ただ光明こうみょうの一めんばかりをるのみでは不足ふそくであります。是非ぜひとも暗黒面あんこくめんをもってかれる必要ひつようがあります。

 吾輩わがはいはすでにんだくれのあつまる魔窟まくつのことを紹介しょうかいしました。それから吾輩わがはいなにったか?──いまここで一々いちいちそれをいておにかける必要ひつようはない。無論むろん吾輩わがはい酒亭さかや出掛でかけたと同様どうよう娼家しょうかにも出掛でかけた。

 さけ化物ばけものがあるとおなじく色慾しきよく化物ばけものもある。それはおんな姿すがたをした妖魔ようまであるが、しかしそのみにくさとったら天下無比てんかむひてんからてもたまったものではない。いかに吾輩わがはいでもこの方面ほうめん状況じょうきょう一々いちいちてる勇気ゆうきはない。かく酒亭さかや死海しかい林檎式りんごしきの一しゅ満足まんぞくごとく、ほとんどいかなる慾情よくじょうたいしても同様どうよう満足まんぞくる。──イヤ満足まんぞくではない。何所どこまでっても不満足ふまんぞくである。それがわれわれにくわえらるるてん刑罰けいばつで、しん渇望かつぼうたし方法ほうほう絶対ぜったいにないのである。

 不満足ふまんぞく満足まんぞく──さすがの吾輩わがはい酒亭さかや娼家しょうか享楽きょうらく少々しょうしょうはなについてました。すると、いつも吾輩わがはい案内あんないをつとめる悪霊あくれい吾輩わがはいむかってういうのです。──

うだい、一つ交霊会こうれいかいひやかしてようではないか?』

 吾輩わがはい不審ふしんのあまりたずねた。──

なんめにそんな場所ばしょくのかね?』

『イヤなかなか面白おもしろいよ、交霊会こうれいかいというやつも……。』

『ただ面白おもしろいだけのことかね?』

『イヤほかにも理由わけがある。なんじ現在げんざいっているからだ半物質的はんぶっしつてきのものだが、をつけてちょいちょい手入ていれをしないとからだがしまいにはくなって地獄じごくへぶちまれてしまうぞ。』

おれはまだ地獄じごくちてはしないのかね?』

ちてるものか。ここはまだ地上ちじょうだ。真実ほんもの地獄じごくちたとなると、まるで勝手かってちがってる。』

『そうかナ。それならからだ手入ていれをおこたらないことにしようかナ。』と吾輩わがはいさけんだ。『しかしもすこしくわしく説明せつめいしてきかせてくれ。吾輩わがはいきている時分じぶんかつ交霊会こうれいかいというものにったことがあるが、るものくものとん合点がてんかぬことばかり、てッきりただの詐術さじゅつとしかおもえなかった。』

『イヤ交霊会こうれいかいというものは大別たいべつして三種類しゅるいわかれるよ。』と案内者あんないしゃ説明せつめいした。『もっとたがいかさなりったところがあるので、あまりはッきり区別くべつするわけにもかないがネ。すなわ

 (一)善霊ぜんれいかか交霊会こうれいかい

 (二)悪霊あくれいかか交霊会こうれいかい

 (三)詐術さじゅつ

の三つだね。そのなかだい一のはわれわれにぶしがたない。だい三のはやくたない。ただのつけどころはだい二のヤツだ。これがこちとらのはたけのものだただしい霊媒れいばいでもうまけばだまくらかして俺達おれたち仲間なかまきずりむこともきる……。』

うしてそんなことがるのかい?。』

『その霊媒れいばいよくて、霊術れいじゅつ利用りようして金子かねでももうけようとした場合ばあいにそのからだ占領せんりょうするのだ。』

『そうすると霊媒れいばい謝礼しゃれいってはけないのかね?』

『そんなことはないさ! 霊媒れいばいだって牧師ぼくしだってわずにきてはられない。牧師ぼくし年俸ねんぼう四百ポンドもらって妻子さいしやしなうからとってだれなんともいはしない。平牧師ひらぼくしから出世しゅっせして監督かんとくにでもなれば年俸ねんぼう三千ポンドくらいもらわれる。しかしそれでもべつ牧師ぼくし估券こけん低下さがわけでもない。──ただかりそめにも牧師ぼくしともあろうものが、同胞救済どうほうきゅうさいめにちからもちいず、あさからばんまで自分じぶん位置いち財産ざいさんばかりを目標めあてにしてにはすぐに評判ひょうばんわるくなる。霊媒れいばいだってそのとおりだ。何事なにごと動機どうき肝腎かんじんだ。動機どうきばかりはごまかせない。一たん動機どうきがわるくなったとると、そのときこそわれわれのむところだ。』

『けれども、そんなことをしてなん俺達おれたち利益ためになるのかね?』

 かれ横目よこめにらみながら、

『そりャなるとも! だい一にわれわれはそうして自分じぶん幽体ゆうたいやしなうための材料ざいりょうれるのだ。だい二には権力けんりょくだ。権力けんりょく! おまえみみにはこの言葉ことばがピーンと気持きもちよくひびいてないかい? 多数おおぜい人間にんげんおもうままにきずりまわすのは素的すてきじゃないか! 就中なかんずく──。』そうってかれは一そう毒々どくどくしく眼球めだまうごかしながら『われわれはこれ利用りようしてむかし怨恨うらみらすことがきる。それからモー一つ、たとえ一あいだでも人間にんげんからだ宿やどるということはありがたいじゃないか。かんがえたとき交霊会こうれいかいというやつ満更まんざらではなかろう。イヤまだあるまだある! 幽界ゆうかいで散々修行さんざんしゅぎょうんだものが、モ一人間にんげん世界せかいしゃって大手おおてってあるきまわれる……。なんんと面黒おもくろはなしじゃないか!』


三 幽界の居住者

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