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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

三 幽界の居住者

 今度こんどのは前回ぜんかいのとは少々しょうしょうおもむきちがって、ワアドくちうごいてしゃべしたのでした。むろんくち使つかってるのは陸軍士官りくぐんしかんであります。──

 吾輩わがはいはこのへんで一つさけ親分おやぶん正体しょうたい説明せつめいしてきたいとおもいます。かれ所謂いわゆる妖精ようせいではない。また人間にんげん憎念ぞうねんかたまって出来上できあがった変化へんげでもない。かれ極度きょくど飲酒いんしゅ渇望かつぼうするすべての人々ひとびと煩悩ぼんのうからつくされた一の妖魔ようまであります。ゆえに一たん世界中せかいじゅうから飲酒慾いんしゅよくったあかつきには、あんなものは次第しだい存在そんざいうしないます。ただしすぐにえはしません。なんとなれば人間界にんげんかい飲酒慾いんしゅよく消滅しょうめつしても幽界ゆうかいには暫時ざんじかれ給養きゅうようするにだけ材料ざいりょうがあるからであります。けれども人間にんげん全然ぜんぜん飲酒いんしゅ習慣しゅうかんはいしたうえは、われわれ幽界ゆうかいのものも結局けっきょくさけにおいさえげないことになりますから、自然しぜんかの妖魔ようまとても栄養不良えいようふりょうおちいります。ただしこれはひとり飲酒いんしゅばかりでなく一さい煩悩ぼんのうみなそのとおりなのであります。

 人間にんげん想像そうぞうつくりあげた悪魔あくまは、それをつくったひとみぎ想像そうぞうてるととも消滅しょうめつしますが、こまったことにはひとまたあとからあとからそれを復活ふっかつせしめてきます。僧侶そうりょなどのなかには、どんなに悪魔あくま製造せいぞうして地獄じごく供給きょうきゅうしたものがあるかれません。そんな悪魔あくまはしきりに地獄じごく居住者きょじゅうしゃなやまします。しかし悪魔あくま存在そんざいらないもののにはけっしてその姿すがたえないのが不思議ふしぎであります。

 妖精ようせいというものは、それとは全然ぜんぜん性質せいしつちがいます。彼等かれらはわれわれとおなじく独立どくりつして存在そんざいします。ドーして妖精ようせい最初さいしょ発生はっせいしたのかは吾輩わがはいにはわかりません。また妖精ようせいったところでけっしてその全体ぜんたい悪性あくせいのものばかりではない。なかには快活かいかつで、気楽きらくで、渓谷けいこく森林しんりん出入しゅつにゅうしてるものもあります。そして無邪気むじゃき小児達しょうにたちにときどきその姿すがたせるものでありますが、そんなこと白状はくじょうすると小供達こどもたちわらわれたり、しかられたりするので、だんだんだまってくせがつき、そのうち妖精ようせいたいする信仰しんこううしなわれて交通こうつう杜絶とぜつしてしまったのです。

 妖精ようせいにはいろいろの種類しゅるいがある。かぜせいせいはなせい……、その数限かずかぎりもない。吾輩わがはい当分とうぶん彼等かれらなか悪性あくせいのものだけにいてべることにします。が、悪性あくせいってもそれには程度ていどがあります。また妖精ようせいとて進歩しんぽもするらしいのですが、そのくわしいことはわかりません。

 ときとすれば死者ししゃ霊魂れいこん自分じぶん遺族いぞく未練みれんのこしてそれをまもろうとします。彼等かれらにもたまにつまらない注意ちゅうい警告けいこくあたえるくらいちからはありますが、しかし予告しらせなどをやるのは、じつみなひとぎつけて接近せっきんする妖精ようせい仕業しわざであります。彼等かれら死者ししゃからだからある物質ぶっしつそうという魂胆こんたんがあるのです。

 あの吸血鬼きゅうけつき伝説でんせつ………。夜間やかん死霊しりょう墓場はかばからしてひといとるというはなしまれには見受みうけますが、しかしさいわいめったにおこらないことです。また伝説でんせつっているような、あんな莫迦ばかげたことでもない……。

 以上いじょうべたところで、大体だいたいわれわれがこちらで邂逅でっくわすシロモノの見当けんとうれたとぞんじます。諸君しょくん御親切ごしんせつたいしては感謝かんしゃことばがありません。次回じかいにはまたなに御報告ごほうこくいたしましょう。吾輩わがはいのはみな乱暴らんぼうきわまるはなしばかりで、Kさんのおくさまはさぞおきぐるしくおおもいでしょう。しかし吾輩わがはいとしては申上もうしあげるだけのことみな申上もうしあげてしまわねばなりません。──では今回こんかいはこれで失礼致しつれいいたします。……

 みぎ陸軍士官りくぐんしかん物語ものがたりむと、すぐに叔父おじさんがかわってみぎかんする批評ひひょうめいたものをかたりました。それはうです。──

 Kさんの御夫婦ごふうふにはわたしからもおれい申上もうしあげます。しかしわたしかんがえますところでは、陸軍士官りくぐんしかんのおべになるところはたいへん大切たいせつで、おそらくわれわれのおく霊界通信れいかいつうしんちゅう白眉はくびだろうとぞんじます。……


二 酒亭 (下)

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四 交霊会の裏面 (上)


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