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(下編) 陸軍士官の地獄めぐり

二 酒亭

 る一だい修羅場しゅらじょう現出げんしゅつした。

人殺ひとごろしーッ!』

 酒客さけのみ大半たいはん悲鳴ひめいげて戸外そとした。霊魂れいこんなかには人間にんげん首玉くびたまきついたまま一しょ出掛でかけたのもあったが、なかにはまたそれッきり人間にんげんっぱなしてしまったのもあった。

 そのとき吾輩わがはいはじめて此等これら霊魂れいこんが二種類しゅるいわかれていることにがついた。すなわあきらかに人間にんげんであるのと、人間にんげんでないのとである。人間にんげんでないやつは種々雑多しゅじゅざったで、いずれも多少たしょう動物どうぶつじみてた。とても吾輩わがはいにそれを形容けいようする力量ちからがない。醜悪しゅうあくで、奇怪きかいで、人間にんげんともつかず、動物どうぶつともつかず、ときとすれば頭部あたま動物どうぶつからだ人間にんげん化物ばけものもある。なかにはたん頭部あたまばかりのやつるかとおもえば、また何等なんら定形ていけいのないめちゃめちゃのヌーボーもる。

 そうするうちにも、れい監督かんとくをやっつけた酔漢よっぱらい不相変あいかわらずビールびんをふりまわしてる。と、吾輩わがはいのすぐそばみみつんざくようなキャーキャーごえ高笑たかわらいをするものがある。るとそれはれい親分おやぶん霊魂れいこんがうれしがってときこえりあげてるのであった。

 われわれ仲間なかまもこれにれて一しょになって喝采かっさいしたが、むろん何故なぜ喝采かっさいしたのかはわからない。すると酔漢よっぱらいいて悪霊あくれいがこのときしきりにそのからだからしにかかった。すッかりったとおもった瞬間しゅんかん酔漢よっぱらいはペチャペチャと地面じべたつぶれた。

『あいつはんだらしい。』

吾輩わがはいはビリィにった。ビリィはいつのにやらもどってたのである。

『なかなかぬものか。ただいつぶれてるだけじゃ。が、彼奴あいつッつけ断頭台だんとうだいのシロモノだネ。』

『しかし監督かんとくころしたのは彼奴あいつ仕業しわざではない………。』

『むろん彼奴あいつ仕業しわざでないにきまっている。しかし裁判官さいばんかんにそんなことがわかるものか。裁判官さいばんかんなどというものは外面うわつら裁判さいばんするものだ。日頃ひごろ監督かんとくうらむことがあったとかんだとか、理窟りくつんとでもけられる。それとも貴公きこう証人しょうにんとして法廷ほうていにまかり彼奴あいつ冤罪えんざいいてやったらドーだい?』

 そうってケタケタとわらうとほかやつどもも一しょになってわらった。

 丁度ちょうどその瞬間しゅんかん警察官けいさつかん出張しゅっちょうして一同みんなから事情じじょうり、やがて酔漢すいかんはつまみあげてはこられてしまった。

大出来おおでき大出来おおでき!』われわれの親分おやぶんはやてた。『ほかやつどももこれおとらずおおい勲功くんこうてい!』

 われわれはそれからまたおおいはじめた。そうするうち吾輩わがはいようまねで、ドーやら人間にんげんからだからみついてさけ方法ほうほうおぼえてしまった。正当せいとうにいうと、それはさけむのとはすこわけちがう。むしろアルコールのにおいいでよろこぶだけの仕事しごとぎない。が、とにかく豪儀ごうぎである。豪儀ごうぎであると同時どうじなにやら物足ものたりない。聖書せいしょにある死海しかい林檎りんごそッくりで、るとただちにけむりになる。が、そんな次第しだい幾日いくにちとなくみぎ酒亭さかやびたった。そしてしまいには吾輩わがはい本式ほんしき憑依法ひょういほうまでおぼんでしまった。

 吾輩わがはいいま憑依ひょうい方法ほうほう説明せつめいすることはきない。よしやきてもそうしようとはおもわない。が、大体だいたいおいてそれは現在げんざい吾輩わがはいがワアドからだりて自動書記じどうしょきをやりつつあるのと同種類どうしゅるいのものだとおもえばよい。──心配しんぱいたまうな諸君しょくん現在げんざい吾輩わがはいはあんなるい真似まねはモーしません。縦令たとえしようとおもっても、ワアド身辺しんぺんにはちゃんと立派りっぱ守護神しゅごじんさまがひかえて御座ござる。そのうえ叔父おじさんもいてなさる。

 これで予定通よていどおりしばらく休憩きゅうけいといたします。幽界ゆうかい悪魔あくまさけみッぷりはたいていんなところでおわかりでしょう。三十ぷんほどやすんだうえきへすすむことにしましょう。


二 酒亭 (上)

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三 幽界の居住者


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