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(上編)叔父さんの住む霊界

三十三 通信部の解散

 つづいて一九一四ねんがつ十四にもワアド霊界れいかい叔父おじさんをおとずれました。叔父おじさんはモリィを相手あいてはなはびしげな様子ようすをしてましたが、やがて叔父おじさんのほうから言葉くちりました。──

 叔父。『この通信事業つうしんじぎょうもいよいよ今日きょう中止ちゅうしじゃ。わしたすけてくれた通信部隊つうしんぶたい解散かいさんせられ、わし一人ひとりだけがもと古巣ふるすのこされている。おまえもそのうち東洋方面とうようほうめん出掛でかけることになるが、見聞けんぶんをひろめることがきてなにより結構けっこうじゃ。旅行りょこうついての心配しんぱいは一さい無用むよう、おまえ安全あんぜん緬甸ビルマ到着とうちゃくする。

『こんな事情じじょうで、わし当分とうぶんまえ面白おもしろ通信つうしんをやれないが、しかし月曜毎げつようごとかならず霊界こちらてもらいたい。一たん霊界れいかいとびらひらかれた以上いじょう、それがまらぬようにをつけねばならぬ。そのうちわしほうからかならずまたあたらしい通信つうしんおくることにする。その通信つうしん性質せいしつはまだちょっとわからぬが……。

『まァるだけの仕事しごとをしっかりるがよい。霊界れいかいからあつめたいろいろの材料ざいりょう適宜てきぎ分類ぶんるいしてけばなり完備かんびした霊界れいかい物語ものがたり出来できあがるであろう。

地獄じごく幽界ゆうかい半信仰はんしんこうきょう信仰しんこうありて実務じつむともなわざるきょう、それから実務じつむ信仰しんこうとの一せるきょう──すべてにわたりてわしほうからとお通信つうしんおくってある。もッとうえかいのことはわしにもわからない。が、そのうちだいかい生活せいかつかんしてはわし多少たしょう材料ざいりょう自信じしんってる。

『くれぐれも受合うけあってくがわし将来しょうらい活動かつどう努力どりょくとの連続れんぞくである。最後さいご大審判だいしんぱん喇叭らっぱるまで常世とこよ逸眠いつみんふけるものとわしのことをかんがえてくれては迷惑めいわくである。わしあくまでもお前達まえたち同様どうようきた人間にんげんとして向上こうじょうみち辿たどるが、ただわしはお前達まえたちちがって肉体にくたい桎梏しっこくからは永久えいきゅう脱却だっきゃくしてる。最早もはや苦痛くつうもなく、飲食慾いんしょくよくもなく、また睡眠すいみんさえも不要ふようである。全然ぜんぜん日常にちじょう俗務俗情ぞくむぞくじょうからはなれて、心地ここちよき環境かんきょう起臥きがし、自己じこ興味きょうみかんずる一さい問題もんだいにつきて充分じゅうぶん討究とうきゅうをつづけることがきる。わしには地上ちじょう何人なんびとにも期待きたいがた便宜べんぎ余裕よゆうとがあたえられてる。わしゆめにもこの好機会こうきかい無益むえき懶眠らいみん空費くうひし、やくにもたぬ讃美歌三昧さんびかざんまいにひたりるつもりはない。わしあくまでひと救済きゅうさい尽瘁じんすいする。そうすることによりて一かいまたかい次第しだいたかきにき、一にちまたにちあらたなるともつくり、あらたなる真理しんりせっして、自己完成じこかんせい素地そちきずいてくつもりである。

わしはすでにある程度ていどまで幸福こうふくである、満足まんぞくである。物質界ぶしつかいからのがしんにうれしい。が、まだまだ絶対幸福ぜったいこうふく境涯きょうがいたっしてらぬことはもちろんである。

円満具足えんまんぐそく境涯きょうがい前途ぜんと遼遠りょうえんである。それにたっするめには一専念せんねん幾代いくだいかにわたりて精進しょうじん力行りきこうあらたなる経験けいけんみ、あらたなる真理しんり目覚めざめて不断ふだん向上こうじょうはかってかねばならぬ。

『それゆえに、いつもわし仕事しごと娯楽ごらくとに忙殺ぼうさつされつつあるものとおもってもらえば間違まちがいはない。わしのいわゆる仕事しごとというのは一わし向上こうじょうせしむる信仰しんこうみちである。またいわゆる娯楽ごらくというのは地上ちじょう人達ひとたち仕事しごとかんがえている建築学けんちくがくそのである。

『ここにわし地上ちじょう人達ひとたち……、わし挨拶あいさつれてくださる方々かたがたつつしんで敬意けいいひょうする。おまえには毎週まいしゅうづつかならずもらいたい。当分とうぶんこれでおさらばじゃ。この通信事業つうしんじぎょう従事じゅうじしてくれたKさんそのたいしてはとくにここでおれいべてきます。』

 ワアド。『お乞暇いとまごいをするまえにちょっとうかがいますが、目下もっかPさんやら、Aさんやら、また陸軍士官りくぐんしかんさんやらは、うなすっておいでです?』

 叔父。陸軍士官りくぐんしかんはモーしばらく練習れんしゅうんでから幽界ゆうかい出動しゅつどうし、地上ちじょうからぞろぞろはいって新参しんざん霊魂達れいこんたち救済きゅうさいあたることになっている。イヤ血気盛けっきさかりのものがきゅう勝手かってのわからぬ境涯きょうがいまれたのであるから、それおおい救済きゅうさい必要ひつようがある。しかし心配しんぱいするにはおよばぬ。救済きゅうさい霊界こちらからいくらでもびる………。

『Pさんはまたもや地獄じごくほう手伝てつだいに出掛でかけてった。Aさんのみはわしむかしった学校がっこう不相変あいかわらず簡単かんたん日課にっか頭痛鉢巻ずつうはちまき勉強べんきょうしている。』

 ワアド。叔父おじさんは只今ただいまむかしッしゃいましたが、地上ちじょう時間じかんかぞえるとあなたがお歿なくなりになってからたッた九ヶげつにしかなりません。』

 叔父。まったくナ………。が、霊界れいかいでは、時間じかん仕事しごと分量ぶんりょうかぞえて、時日じじつではかぞえない。それゆえ厳格げんかくにいえば、霊界れいかい時間じかんはないことになる。もっと地上ちじょうったとて、今年ことしのように多忙たぼうとし例年れいねんよりもながかんずるに相違そういない。今年ことし大晦日おおみそかになると、おまえはじめ世界せかいじゅう人々ひとびとは、こんなながとしはないなどと世迷言よまいごとうじゃろう。しかし今日きょうはこれでわかれる。』

 ワアド叔父おじさんにいとまげて地上ちじょうもどりました。

 そのもワアド約束やくそくどおりしばしば霊界旅行れいかいりょこうこころみ、その都度つどつね快感かいかんもっむかえられましたが、しかし格別かくべつ重要じゅうようなる問題もんだいにはれず、たん家族かぞくへの伝言でんごんとか、浮世噺うきよばなしとかを交換こうかんするくらいのものでした。叔父おじさんはそのあいだなにやらしきりにふか研究けんきゅうかさねつつあった模様もようでしたが、ワアドには何事なにごとらしてはくれませんでした。

 が、ワアドがその戦歿せんぼつせる愛弟あいていめに叔父おじさんの援助えんじょわねばならぬ重大じゅうだい時期じきがやがて到着とうちゃくしました。その援助えんじょこころよあたえられ、それが動機どうきとなって、幽界ゆうかい事情じじょうごと明瞭めいりょう探窮たんきゅうさるることになりました。──が、それは後日ごじつ問題もんだいで、叔父おじさんによりてされたる霊界れいかい生活せいかつ物語ものがたりずここで完結かんけつとなるのであります。


三十二 戦端開始

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下編 陸軍士官の地獄めぐり
一 死の前後


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