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(上編)叔父さんの住む霊界

三十 幽界見物

 するとそのときカアリィが突然とつぜんさけびました。──

『あら! 彼所あそこに一軒家けんやがありますね。だれ住居すまいなのでしょう?』

 そうわれてるとはたしてざッぱりしたいえ路傍ろぼうにあって、前面ぜんめんにはちいさいにわがあり、うらまわるとさらおおきな庭園ていえんいてました。

 叔父。『こりャ近頃ちかごろこわされた何所どこかの家屋かおく幽体ゆうたいじゃ。んなのはあまながくはここにのこるまい。無生物むせいぶつ幽体ゆうたいはとかく永続えいぞくせぬからナ……。何人だれかがそれにんでいると奇妙きみょう保存期限ほぞんきげんながくなるものじゃ。かく内部なかはいってることにしよう。』

『まァ!』とカアリィはいえ内部なかときに、『道具どうぐが一さいそろってるじゃありませんか!』

 叔父。幽界ゆうかいにしてはこりャむしめずらしい現象げんしょうじゃ。多分たぶん火災かさいでもおこして什器じゅうきさいいえと一しょけたのかもれない。イヤたしかにそうじゃ。その証拠しょうこには額面がくだけがけてる。所々ところどころかべしろあとがついて、額面がくをさげたひもまでそっくりのこってるではないか。多分たぶん火災かさいってだれかがナイフでひもり、一ばんぼしいだけはこしたものに相違そういない。しかしあま沢山たくさん品物しなものひまはなかったとえる。』

 そうって叔父おじさんは食堂しょくどうであったらしい一しつ炉辺ろへんえられた安楽椅子あんらくいすこしをおろした。

かくこいつァ住心地すみここちのよいいえじゃ』とかれ言葉ことばをつづけた。『質素しっそではあるが、なかなか岩畳がんじょう出来できる。わししも幽界ゆうかいるものなら、早速さっそくこいつを占領せんりょうするのじゃが……。』

 カアリィ。『ちょっと庭園にわりてましょうか?』

 ワアド。りててもよい……。』

 夫婦ふうふ食堂しょくどうけて、ひく階段かいだんりて庭園ていえんると、もなく叔父おじさんが小型こがた皮鞄かわかばんかたにしてそれにつづきました。

 カアリィ。『おとうさま、そのかばんなんございますか?』

 叔父。『ナニへやいてあったのじゃ。なにはいってるかひとけててやろう。』

 そうってかれかばん地面じべたおろしてふたけましたが、たちまち一さつ書物しょもつして喜色きしょく満面まんめんたたえ、

『カアリィ、これをなさい! んなものがはいってたとはじつ奇妙きみょうじゃ!』

 カアリィ。『あら! それはおとうさまのむかしきになった建築学けんちくがく御本ごほんではございませんか!』

 叔父。『そうじゃ! 道理どうりでこのいえには大変たいへん新式しんしき工夫くふうほどこしてあるとおもった。このいえ所有者もちぬし余程よほど理会わかりのよい人物じんぶつであったに相違そういない。』

 叔父おじさんはこのいえ主人しゅじん自著じちょ愛読者あいどくしゃであったことを発見はっけんしてうれしくてたまらぬ様子ようすでした。そばでそれをたワアドは、人間界にんげんかいでも霊界れいかいでも格別かくべつ人情にんじょうにかわりがないのをって、つくづく感心かんしんしたのでした。

 と、突然とつぜんカアリィがさけびました。──

『わたしたいへんにくたびれましたワ。はやかえってます。』

 ワアドはびッくりして不安ふあん面持おももちをして叔父おじさんのほうましたが、叔父おじさんは一こう平気へいきなもので、

『あ! おまえはくたびれましたか。それならはやくおかえりなさい。そのうち又出またでてくるがよい。おまえときわしはいつでもここまで出掛でかけてます。』

 やがてカアリィは二人ふたりわかれてりましたが、たちま幽界ゆうかいかべのようなものにさえぎられてその姿すがたうしないました。叔父おじさんはワアドむかっていました。──

『おまえはカアリィがくたびれたときいたときたいへんんだようじゃが、あんなことはんでもない。肉体にくたいほうでその幽体ゆうたいんでるまでのことじゃ。きてひと幽体ゆうたい肉体にくたいはいとき気分きぶんつくとき気分きぶんにそっくりじゃ。──イヤしかしおまえもモーもどらんければなるまい。先刻さっき地上ちじょうから出掛でかけるものばかりであったが、今度こんどみないそいで地上ちじょうもど連中れんちゅうばかりじゃ。』

 るほど夢見ゆめみひとむれ元来もとき方向ほう立帰たちかえるものばかりで、歩調ほちょうがだんだんはやくなり、ワアドちち失望しつぼういろうかべていそいでわき通過つうかしてきました。

 やがて人数にんずう次第しだいり、幽界ゆうかい居住者きょじゅうしゃなかにはにがなみだをながしつつ、地上ちじょうかえくいとしき人達ひとたちわかれをぐるものも見受みうけられました。

『さァおまえ加減かげんもどるがよい。』

 叔父おじさんにうながされてワアド其所そこるとて、あと前後ぜんご不覚ふかくになりました。

 翌朝よくちょうワアド昨晩さくばんあったことをカアリィにたずねてると、彼女かのじょ幽界ゆうかいける会見かいけん大部分だいぶぶん記憶きおくはしていましたが、しかし彼女かのじょはそれをたんなる一じょうゆめとしかかんがえてませんでした。


三十 幽界見物 (三)

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