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(上編)叔父さんの住む霊界

三十 幽界見物

 いくらか夢見ゆめみ人達ひとたち往来おうらい杜絶とだえたときにワアド叔父おじさんのほういてたずねました。──

『一たいこの幽界ゆうかいでは地上ちじょうおなじように場所ばしょ存在そんざいするのでしょうか?』

 叔父。『ある程度ていどまでは存在そんざいする。おまえげんるとおり、幽界ゆうかい景色けしき物質世界ぶっしつせかい景色けしきと、あるてんまで相関的そうかんてき出来できる。たとえば現在げんざいわれわれはロンドン附近ふきんるから、それでんなに沢山たくさん群衆ぐんしゅうるのじゃ。が、それはある程度ていどのもので、われわれの幽体ゆうたいかならずしも地上ちじょうおけるがごと時空じくう束縛そくばくけず、幽界ゆうかいの一部分ぶぶんから部分ぶぶんうつるのにほとんど時間じかんようしない。また幽界ゆうかい山河さんが全然ぜんぜん地上ちじょう山河さんが模写もしゃわせかがみというわけでもない。幽界ゆうかい山河さんがわば沢山たくさんそうからってる。どう地方ちほうでも、それぞれの年代ねんだいおうじてそれぞれちがった光景こうけいていする。たとえばロンドンにしても、かつ歴史れきし以前いぜんに一だい森林しんりんであったばかりでなく、ずっと大古たいこには海水かいすいおおわれていたことさえもあった。』

 ワアド『そうえば只今ただいまるこの景色けしき現在げんざいのロンドンの景色けしき同一おなじではございませんナ。』

 叔父。無論むろん同一おなじではない。が、この景色けしきとてもあまふるいものではない。──ちょっと其所そこひとるがよい。』

 ワアド目見めみてびッくりしてさけびました。──

『あッカアリィじゃありませんか! 不思議ふしぎなことがあればあるものですね。家内中かないじゅうみな幽界ゆうかい引越ひきこしてている!』

 叔父。べつ引越ひきこしたわけでもないが、うして毎晩まいばん幽界ゆうかい出張しゅっちょうするものは実際じっさいなかなかすくなくない。ひとによってはのべつまくなしにこっちへびたりのものもある。そのくせめたときに、そんな連中れんちゅうかぎってケロリとして何事なにごと記憶きおくしてない。彼等かれらりて幽界生活ゆうかいせいかつ地上生活ちじょうせいかつとは全然ぜんぜんはなされたもので、ねむっているとき地上ちじょうわすれ、めているとき幽界ゆうかいわすれ、はなはだしいのになると、幽界ゆうかいあいだにまるきり自分じぶん地上ちじょう人間にんげんであることを記憶きおくせぬ呑気者のんきものる。んな連中れんちゅうんでもんだとはがつかず、何時いつまでっても睡気ねむけもよおさないのが不思議ふしぎだとおもっている。が、たいていの幽界居住者ゆうかいきょじゅうしゃ多少たしょう地上生活ちじょうせいかつ記憶きおくってて、いたくおも地上ちじょうともさがすべく、わざわざこのへんまで出掛でかけてる。またきて人間にんげんほうでも、ゆめ幽界ゆうかい経験けいけんまがりなりにもすこしは記憶きおくしてる。ただ極端きょくたん物質ぶっしつかぶれのした人間にんげんとなると、幽体ゆうたいがその肉体にくたいからはなないので、ぬるまでほとんど一此所ここ出掛でかけてないのもないではない。就中なかんずく食慾しょくよく飲酒慾いんしゅよくとのつよもの自分じぶん幽体ゆうたい自分じぶん肉体にくたいにくくりつけてる。──が、談話はなしはこれくらいにしていて、ちょっとカアリィにってやろう。しきりにわたしことをさがしている………。』

 叔父おじさんは通行者つうこうしゃむれけて、ただちにカアリィにちかづきましたが、彼女かのじょ安楽椅子あんらくいすこしをおろせる生前せいぜんちち幻影げんえいえがきつつ、キョロキョロ四辺あたりまわしてるのでした。彼女かのじょまとえるは、きわめて単純たんじゅんかた純白じゅんぱくなが衣裳いしょうで、平生へいぜい地上ちじょうるものとはすっかり仕立方したてかたちがってました。

 やがてちち姿すがたみとめると彼女かのじょこころからうれしそうにんできました。

 カアリィ。『おとうさましばらくでございましたこと! おかわりはございませんか?』

 叔父。『しばらくじゃったのう。おまえはよく今晩こんばんここへてくれた。わし至極しごく元気げんきじゃから安心あんしんしててもらいたい。それはそうとおまえ私達わしたちおくっている霊界通信れいかいつうしんかんがえてるナ?』

 彼女かのじょかおにはありありと当惑とうわくいろみなぎりました。

 カアリィ。『霊界通信れいかいつうしんございますか? わたしなにぞんじませんが……。』

 叔父。『これこれおまえはよくっているはずじゃ。おまえ半分はんぶん寝呆ねとぼけてる。はやますがよい。おまえ良人おっとからだりておくってる、あの通信つうしんのことじゃないか! おまえ良人おっともここにる。』

 ちちからそう注意ちゅういされて彼女かのじょはじめて良人おっとることにがつきました。無論むろんワアドほうでは最初さいしょからってたのですが、るべく父親ちちおやとの会見かいけん時期じかんながびかせたいばかりに、わざと遠慮えんりょしてひかえてたのでした。

 カアリィ。『まァ! あなたはなにをしていらっしゃるのです、んなところで………。』

 ワアド。『しッかりせんかい! わたしはいつものとお月曜げつようばん霊界旅行れいかいりょこうをしてるのですよ。そして叔父おじさんにれられて、お前途まえたち幽界ゆうかい出掛でかけて実況じっきょう見物けんぶつたのだがね、めたときわたしとここでったことをよく記憶きおくしててもらいますよ。』

 叔父。「そいつァ無理むりじゃろう。記憶きおくしてるとしても、せいぜいわしったことぐらいのものじゃろう。わし幻覚げんかく引張ひっぱられてたのじゃから………。それはそうとカアリィ、おまえはモー霊界通信れいかいつうしんのことをおもしたじゃろうナ。』

 カアリィ。『なにやらそんなことがあったようにおもいますが、まるでゆめのようでございますわ。──おとうさまは近頃ちかごろ御無事ごぶじございますか? たいへんうもしばらくで………。』

 叔父。わしかい。わし至極無事しごくぶじじゃよ。きてときわしいまのように気分きぶんのよいことほとんど一もなかった。おまえなにをくれるとっても、わしは二とお前達まえたちんでる、あのいきづまった、阿呆あほうらしい、影見かげみたいな地上ちじょうへだけはもどがせぬ。そのうち前達まえたち世界せかいからわしところなつかしい親友しんゆうが二三にんやってそうじゃ……。』


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