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(上編)叔父さんの住む霊界
二十五 霊界の病院
下
『私達は更に第三室に入って見ると、一人の催眠術者が手術をやっている最中で、一人の男性患者に向ってしきりに按手法を施して居るところであった。
『術者は私達を見るとすぐに挨拶した。そして手術中の患者の病状を説明してくれたが、その患者は生前ひどい怪我をした記憶が容易に除れないのだということであった。尚お彼は附け加えた。──
「この患者に対して私はモー久しい間催眠術を施して居りますがなかなか捗々しくまいりません。しかしその中たしかに回復します。」
『其所を出て私達は今度は割合に小さな室に入って行ったが、内部には一人の婦人患者が寝椅子に横わって居た。同行の博士が説明した。──
「これは実に不思議な患者で、死後何時までも生前の記憶が強く残って居るのには驚き入ります。彼女は生前片輪で歩行が能ないものと固く思い込んで居たのです。機質的には何等の故障もないのに右の錯覚が強まると共にとうとう現在見るような跛者になりました。若しも彼女の病気が肉体的のものであったなら躯が失せると同時に病気も消失したでありましょうが、彼女の疾患は純然たる精神的のものでありましたので死んでからも依然として跛者のままに残って居るのです。大体彼女は生来一種の変態心理の所有者で、片輪者を見ると妙に快感を覚えたといいます。その癖その他の点では別に変ったところもなく、性質が兇悪であるというようなところもありません。斯んな患者はめったに私達の境涯へはまいりません。地獄へ行ったら多分この種の患者が多いことと存じます。」
「この患者には何んな手術を施すので厶いますか?」
「主として磁気療法並に暗示療法の二つであります。私達はもちろん肉体の欠陥が霊体に移るものでないことを極力説明してやります。大ていの霊魂はそれを会得しますが、ただこの婦人の精神は非常に曇って居るので容易にそれが呑み込めません。しかしいかに頑固な疾患でも霊界の手術を受ければやがて平癒します。手術よりも、その後で受けねばならぬ教育の方が遥に時間を要するように見受けられます。」
『私達はそれからいくつもいくつも室々を巡覧し、教授達の講義なども傍聴した。最後に私は同行の博士に訊いて見た。──
「ドーも地上の病院で見るように外科手術を行っているのを見掛けませんが、あんなものの必要はないのですか?」
「外科手術の必要はありません。霊界では最早あんな不器用な真似は致しません。勿論地上では多少その必要があります。肉体というものの性質上それは致し方がありません。ただドーも必要以上に外科手術を濫用する傾向があります。霊体となると余程微妙な方法を要し、矢鱈に切開したり、切断したりしても駄目です。地上の外科手術室に幾分か類似したものは地獄に行くと見られます。」
『病院の説明はざッとこの辺でとどめて置くことにしよう。詳しく述べると大変な時間がかかる。兎に角霊界の病院では宗教的の勤行がなかなか大切な役目を有って居ることを最後に附け加えて置くにとどめる。
『私は病院の境内で博士と袂を分ち、それからここへ戻って来たのじゃ……。』