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(上編)叔父さんの住む霊界
十八 守護の天使
叔父さんは一と息ついて再び口を開きました。──
『今度はお前の方から何か切り出す問題はあるまいかナ?』
『無いことも厶いません。』とワアド氏が答えました。『私が霊界へ来てこの風景に接するのはこれで三回目で厶いますが、まだ一度も叔父さんを守護して居なさる天使の御姿に接したことが厶いません。私がここに居る際にはいつも御不在なので厶いますか?』
『そうでもない、ときどきは爰にお見えになる。現に今もここにお在じゃ。──守護神さま、どうぞ甥の心眼をも些し開いてやって戴きとう厶います。』
そういうと忽ち何物かがワアド氏の眼の上に載せられたので、ちょっとめくらになりましたが、それが除かるると同時にワアド氏は今までとは打ってかわり、ずッと視力が加わりました。
不図気がつくと、叔父さんの背後には満身ただ光明から成った偉大崇厳なる天使の姿が現われて居ました。その身にまとえる衣裳はひッきりなしに色彩が変ってありとあらゆる色がそれからそれへと現われる!
叔父さんに比べると天使の姿ははるかに大きい。が、すべてが円満で、すべてが良い具合に大振り──やや常人の三層倍もあるかと思わるる位、そしてその目鼻立ちと云ったらいかなるギリシアの彫刻よりも美しい。雄々しくてしかも崇高い。崇高くてしかも優雅ている。にやけたところなどは味塵もない。親切であると同時に凛とした顔、年寄じみていないと同時に若々しくもない顔である。肌は金色──人間の肌の色とはまるで比べものにならない。頭髪も髭髯も何れも房々とえも言われぬ立派さである。
余りに崇厳美麗でとても言い現わすべき言葉がない位でした。
『疑もなくこれがいわゆる天使というものに相違ない……。』
ワアド氏は心の中でそう思うと同時に、日頃の癖で何所かに翼はないものかしらと捜しましたが、そんなものは一つも附いては居ませんでした。
やがて氏は訊ねました。──
『私にも守護神があるので厶いましょうか?』
すると巨鐘の音に似たる力づよい音声がただ
『見よ!』
とひびきました。
忽ちワアド氏の背後にはモー一人の光の姿がありありと現われました。
大体に於てそれは叔父さんの守護神の姿に似ては居ましたが、しかし目鼻立その他がはっきり異っていました。そして不思議なことにはワアド氏は何所かで曾て出会ったことがあるような、いうに言われぬ親しみを感じました。が、それは驚くべく変化性に富んだお顔で、同一でありながらしかも間断なく変る。ただの一瞬間だってそのままでは居ないが、そのくせ少しもその特色を失わない。ワアド氏は、若しかこの姿を夢で見たのではないかしらと思って見ましたが、ドーしても想い出すことは能きませんのでした。髭髯は叔父さんの守護神のに比ぶれば余程短かったが、全身から迸る光明、人間より遥かに大きなお姿などはすべてが皆同様でした。
ワアド氏の守護神はやがてその手をさし上げ、例の巨鐘の音に似た音声で言われました。──
『モー沢山………。汝の為めに、永く見るのは宜しくない!』
再び天使はその手(手であることがこの時初めて判ったのでした)をワアド氏の眼の上に置きました。そしてその手が再び除かれた時にはモー二人の天使の姿は消えて、ただ叔父さんと四辺の景色とのみが元のままに残されました。
『今日はこれで別れねばならぬ。』
叔父さんはそう言って、忽ちワアド氏の身辺から空中遥かに何所ともなく飛び去りました。
ワアド氏は四周の美わしき景色を見つめつつ深い深い沈思の裡にしばし自己を忘れて了いました。