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(上編)叔父さんの住む霊界

十七 問題の陸軍士官

 つづいて叔父おじさんはかたした。──

もなくがけうえ一人ひとり醜穢しゅうかい物体ぶったいがやっとのことでげられた。両眼りょうがんは一しゅ繃帯ほうたいおおわれ、よろよろとちからなげにその指導者しどうしゃわきたおれた。すると指導しどう天使てんしさしくこれたすおこした。

新来しんらいひと暗灰色あんかいしょくのボロボロの衣服きものまとうていたが、それにはいろいろの汚物おぶつ附着ふちゃくし、地獄じごくやみんでれないようにえた。かれ手足てあし同様どうようよごっていた。

「おおひどい光明あかりじゃ!」とかれうめいた。「繃帯ほうたいをしていてもにしみてしょうがない……。」

私達わしたちりては、それはほんのりとした薄明うすあかりで、丁度ちょうどロンドンの濃霧のうむがかかっているときおもさせるけしきであった。

「ドーもひどいよごれようですね。なんというきたならしい衣服きものでしょう!」

わしはうっかりしてそうPさんにった。するとPさんはおもむろにくちひらいた。──

「そりャ私達わたしたちにはきたなくえます。しかし当人とうにんにはあれで結構けっこう清潔きれいえるのです。あなたでも御自分ごじぶん衣服きもの清潔きれいえるでしょうが……。」

「そりャそうでございます。」

「ところが、わたしるとあなたの衣服きものにはなり沢山たくさん汚点しみえます。わたしている衣服きものなども、わたし守護神しゅごじんにはきっときたなくえるに相違そういありません。」

『そうPさんにたしなめられてわしこころからって、くちつぐんでしまった。

『やがてPさんは前方まえすすでて新来者しんらいしゃってった。──

「ようこそ御無事ごぶじに! わたしはあなたがこのしん境涯きようがい進入しんにゅう好機会こうきかい立会たちあうことをゆるされて衷心ちゅうしんからよろこんでります……。」

「あッ先生せんせいございますか! わざわざわたしのようなものをおむかいてくだすってんなうれしいことございません。──しかしこの光明あかりはひどいですね! わたしやみなかもどりたいようにおもいます……。」

「ナニすこしも心配しんぱいするにはおよばない。光明あかりにはすぐれてます。──ちょっと御紹介ごしょうかいしますが、ここにおえのかたわたし友人ゆうじんであなたを歓迎かんげいめに同行どうこうしてくだすったのです。」

『そうってPさんはわし手招てまねぎするので、わしはそのひとはじめて握手あくしゅした。わしはこれからこのひと陸軍りくぐん士官しかんという名称めいしょうぶことにする。

『それから私達わしたちおもむろに地獄じごく入口いりぐちたっする傾斜地けいしゃちって、やがて地面じべたこしをおろした。ここでみぎ陸軍りくぐん士官しかん現世げんせった時分じぶん打明うちあばなしをしたが、それはすでに大体だいたいまえ通信つうしんしてある。そのさい地獄じごくはなしすこしはたが、それはあらためて当人とうにん自身じしん物語ものがたってもらうことにするつもりじゃから、ここではべまい。身上みのうえばなしとおんだとき陸軍りくぐん士官しかん守護神しゅごじんわれた。──

なんじは一さいつみ懺悔ざんげしたからモー繃帯ほうたいってもこの光明あかりえられる……。」

『そうってただちにづからその繃帯ほうたいってやった。すると陸軍りくぐん士官しかんたまらないとったふうからだ地面じべたしつけて、両手りょうて左右さゆうおおた。

わし守護神しゅごじんった。──

「さァこれでそろそろもどるとしよう。」

「この士官しかんさんはうなります?」

あとからいてるであろう。しかし速力そくりょくおそい。あのひとにはまだべないからナ……。」

私達わしたちはやがて空中くうちゅういあがり、もなく自分達じぶんたちなつかしい住所じゅうしょもどった。陸軍りくぐん士官しかん数日後すうじつごようやくわれわれのもと到着とうちゃくしたが、それまでには小石こいしだらけの荒野あれののようなところ横断おうだんし、さらに一たい山脈さんみゃくのぼらねばならなかったそうで、その山脈さんみゃくすとすぐに緩傾斜かんけいしゃ平原へいげんになり、それがりもなおさず、私達わしたちんでいるところであったそうである。

『この平原へいげん横切よこぎさいかれ罪悪ざいあくちたるその前世ぜんせおそろしい幻影げんえいなやまされたということで、それはわし目撃もくげきしたのと性質せいしつてはるが、しかしとても比較ひかくにならぬほど一そう悽惨せいさんきわめたものであったらしい。そのさい私達わしたちっては僅々きんきん数日すうじつわかれであったが、かれ自身じしんかんじでは数年すうねんったようにおもわれたとのことで、その幻影げんえいいまでも悪夢式あくむしき混沌こんとん状態じょうたいをつづけてるらしく、したがってかれはむろんまだ学校がっこうにもかれず、ただぼんやりおくってる。

『これで目下もくかまえ通信つうしん開始かいししようとしてる三にん人達ひとたち霊界れいかいんな状態じょうたいにあるか大体だいたい明瞭めいりょうになったであろう。しかし霊界れいかいことはなかなか人間にんげんわかるものではない。たとえばあの地獄じごくやみのものすごさなどはわしにはとてもその観念かんねんつたえるちからはない。よしあってもおまえがそれを地上ちじょう人々ひとびとつたえることは不可能ふかのうであろう。実際じっさいそれは呼吸いきをつまらせ、血汐ちしおこおらせるおそろしい光景こうけいであった。いまおもしてもぞっとする……。』


十七 問題の陸軍士官 (上)

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十八 守護の天使


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