心霊図書館 ≫「死後の世界」≫ 上編

(上編)叔父さんの住む霊界

十七 問題の陸軍士官

 前回ぜんかいむしかる小話しょうわあときつづいては、れい陸軍りくぐん士官しかん地獄じごくから脱出だっしゅつしたときの、きわめて厳粛げんしゅく物語ものがたり叔父おじくちかららされました。その片言へんげん隻語せきごうちにも叔父おじさんのむねにいかに根強ねづよ当時とうじ光景こうけいんでるかがよくうかがわれます。

 叔父。雑談ざつだんはこのへんげてわしはこれからおまえひとつ、重大じゅうだい事柄ことがら物語ものがたらねばならない。じつわしがPさんにってから数日すうじつったときのことであった。わしわし守護神しゅごじんれられて、一人ひとり霊魂れいこん地獄じごくからのぼって実況じっきょう目撃もくげきしたのじゃ。あとわかったが、それがあの陸軍りくぐん士官しかんなので……。

わし何所どことおってったのか途中とちゅうはよくわからなかったが、かく突然とつぜん地獄じごく入口いりぐちったのである。そこはカサカサにかわいた、こけひとえてない、デコボコの一枚岩まいいわであった。かえってると、自分達じぶんたち背後うしろには、暗黒色あんこくしょくいわだの、ゴツゴツした砂利道じゃりみちだのが爪先上つまさきあがりになって自分達じぶんたちのところまでて、それがきゅう断絶だんぜつしてそこれない奈落ならくとなるのである。

にしろこのへり境界きょうかいとして一さい光明あかりがぱったり中絶ちゅうぜつしてしまうのであるから、その絶壁ぜっぺきのものすごさとったらまったがよだつばかり、光線こうせんあだかも微細こまかきりつぶのようにかさなりった一枚壁まいかべつくり、それが前面ぜんめんやみかべ対立たいりつする……。地上ちじょうではひかりやみとはたがいまざい、っているが、ここにはまったくそれがない。やみやみひかりひかりあくまで頑強がんきょう対抗たいこうしてる。

『するとそのとき守護神しゅごじんわしめいぜられた。──

「それなる絶壁ぜっぺき最末端さいまったんまでって、なんじやみなかれてるがよい。」

めいぜらるるままにわし絶壁ぜっぺきはしった。すると守護神しゅごじん背後うしろからわしかたをかけて、ちないようにささえてくだすった。

おどろいたことにはやみれたわし手首てくび其所そこからプッリおとされたようにまった存在そんざいうしなってしまった。イヤ存在そんざいばかりか感覚かんかくまでもまったせた。あきかえった無茶むちゃやみもあればあったもので……。

『そのうちやみつかった手首てくびがキリキリといたした。それはひどいさむさのめである。

うで引込ひっこめてもモーよろしゅうございますか?」

よろしい。」

わしはそうきくなりいそいで自分じぶんうで引込ひっこめたが、さいわきずもつかずにたのでホッと安心あんしんした。わしたずねた。──

何故なぜここはんなにくらつめたいのです?」

「それは」と守護神しゅごじんこたえた。「信仰しんこうひかり地獄じごくには存在そんざいせぬからじゃ。また地獄じごくにはかみあいい。なんじはすでにれいであるかられいひかりぬくみとを要求ようきゅうする。あたかも肉体にくたい物質的ぶっしってきぬくみとひかりとを要求ようきゅうするように……。」

やみかべはやがておもむろに前後ぜんごれはじめた。ある個所ところではやみひかりんでいるが、個所ところではやみひかりあっせられてる。したがってひかりやみとの境界線きょうかいせんは一直線ちょくせんではなく、波状はじょうていしてうねりまがっている。みぎ動揺どうようがだんだんはげしくなるので、わしやみまれぬよう、おぼえず絶壁ぜっぺき末端まったんからとび退いた。

『が、わし守護神しゅごじん落付おちつきはらって、

「これこれあわてるにはおよばぬ。やみはここまではとどかぬ。ここにはかた信念しんねんがある。」

ほどそのとおりで、やみひだ幾度いくたび左右さゆうからわれわれのてる場所ばしょまでろうとしたが、ついにわれわれをむことはきなかった。

『と、突如とつじょとして脚下きゃっかやみなかから一火球ひだまあらわれで、迅速じんそくうえうえへとのぼってるのであった。ひとみさだめて凝視ぎょうしすれば、それは赫灼かくやくひかりかがやくひとつの霊魂れいこんで、いよいようえのぼりつめたときには、やみはその全身ぜんしんから、あたかもみずしずく白鳥はくちょうからころがりつるがごとくはらはらとこぼれた。

『やがてみぎ光明ひかり所有者しょゆうしゃ絶壁ぜっぺき末端まったんせて、片腕かたうでやみなかにさしれた。うでかたまでその存在そんざいうしなったが、次第しだいにそれがげられたところると、シッかりとだれかのにぎっていた。やみなかからひかったものではなく、くろよごれて不健康ふけんこう蒼味あおみびていた。』

 叔父おじさんはそこまで物語ものがたっていきれました。


十六 星と花

目  次

十七 問題の陸軍士官 (下)


心霊図書館: 連絡先