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(上編)叔父さんの住む霊界
十三 自分の葬式に参列
上
これは二月二十一日午後七時に出た叔父からの自動書記的通信であります。霊界から出張して自分の肉体の葬式に参列したという奇想天外式の記事で、先入主にとらはれた常識家の眼をまわしそうなシロモノですが、しかしよく読んで見ると情理兼ね具わり、いかにも正確味に富んで居て疑いたいにも疑うことのできないところがあります。できるだけ忠実に紹介することにしましょう。──
『私はこれから自分の葬式に参列した話をするが、その事の起ったのは、霊界へ来てから余程の日数を経たと自分には思われている時分のことであった。
「これより汝を汝の葬式に連れてまいる。そろそろその準備をいたせ!」
『ある日私の守護神が突然教室に現われて、私にそう言われるのであった。私は寧ろびッくりして叫んだ。──
「私の葬式で厶いますッて! そんなものは夙のむかしに済んでしまったと思いますが……。」
「イヤそうではない。霊界の方では余程長いように思えるであろうが、地上の時間にすれば汝がここへ来てから僅かに三日にしかならないのじゃ。」
『霊界の時間……むしろ時間無しのヤリ方と、時間を厳守する地上のヤリ方との相違点に私が気がついたのは、この時が最初であった。地上ではたッた三日にしかならぬというのに、私はたしかに数ヶ月間霊界で勉強して居たように覚えたのじゃ。序でにここで述べて置くが、霊界には夜もなければ昼もなく、又睡眠ということもない。尤もこれはちょっと考えればすぐ判る話で、霊魂は地上に居る時分から決して眠りはせぬ。そして躯とは異って休息の必要もない。
『さて私の守護神は学校の先生に行先地を告げて私の課業を休ませて貰うことにした。丁度その時刻に課業が始まりかけて居たところで、地上の学校と同じように無断欠席は無論許されないのである。
『次ぎの瞬間にわれわれは忽ち私の地上の旧宅に着いた。最初想像して居たのとは異って、エーテル界を通じての長距離旅行などというものは全く無しに、甚だ簡単に自分の寝室に着いて了ったのじゃ。その時は随分不思議に感じられたが、今の私にはよく判っている。われわれの世界と人間の世界とは決して空間と云ったようなもので隔てられてはしない。むしろ双方とも同一空間に在ると云ってよかりそうなのじゃ。が、この点はまだ充分説明してないと思うからいつか機会を見てくわしく述べることにしよう。
『私の旧宅の内部は家具類がすっかり片付けられて居て平生とは大分勝手が違っていた。不図気がつくと、其所には一つの棺がある。それには大きな白布がかかって居たが、私はそれを透して自分の遺骸をありありと認めることが能きた。
『不思議なことには最初予期して居たほどには自分の遺骸がそうなつかしくなかった。古い馴染の友に逢ったというよりかも、むしろ一個の大理石像でも見物して居るように思われてならなかった。
「汝が今やその任務を終った。いよいよこれがお訣別じゃ。」
『私はそう低声で言っては見たが、ドーもさっぱり情がうつらない。あべこべに他の考がむらむらと胸に浮んで来てならなかった。
「汝は果して私の親友であったかしら……。それとも汝は私の敵役であったかしら……。」
『こんな薄情らしい考が胸の何所かでささやくのであった。兎に角私はこれでいよいよ自由の身の上だナという気がしてうれしくてならなかった。
『しばらくして私は他の人達が何をしているか、それを見たい気になった。次ぎの瞬間に私は食堂に行って居たが、そこは弔客で充満なので、成るべくその人達の躯に触れないように食卓の中央辺のところを狙って、下方から上に突き抜けた。無論食卓などは少しも私の邪魔にはならない。人間の躯とても突き当る虜はないのだが、ただ地上生活の間につくられた習慣上、群衆の中を通るのは何やら気がさしてならないのであった。
『其所で私は残らずの人々を見た。お前も居た。GもDもMもPもその外多数居た。が、其所もあんまり面白くもないので、私はやがて妻の居間であった室に行って見たが、ここも格別感心もしない。仕方がないので私は又フラフラと室を脱け出した。』