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(上編)叔父さんの住む霊界

七 五歳の女児と無名の士官

 ワアドみぎ霊夢れいむてから五日目かめの一がつ三十にち午後ごご時半じはんごろ、ブランシ──ワアド愛嬢あいじょう当時とうじさいくわしくいえば四ねん三ヶげつ)の女児じょじ──に不思議ふしぎ現象げんしょうおこりました。

 そのときブランシは食堂しょくどうまどしてにわたのですが、きゅうに『お祖父じいさまがえる!』とさわしました。お祖父じいさまはいつもくろ頭巾ずきんをかぶって、フワフワそらからりてて、なにやらやさしい言葉ことばをかけながら、彼女かのじょ手首てくびにぎって空中くうちゅうげる真似まねをする。彼女かのじょ手首てくびめると、お祖父じいさまはそれをはなして彼方あち此方こちにわるきまわり、やがてうち背後うしろおかのぼり、其所そこにあるおおきないわうえから邸宅中やしきじゅうおろしている……。

 ざっとういったことをばブランシは一しょう懸命けんめいゆびさしながら、おりからへや居合いあわせた母親ははおや説明せつめいするのでした。その態度たいどがいかにも真面目まじめなので、母親ははおやもこれにはすくなからず感動かんどうされたそうであります。おそのばんちちのワアドもどってると、ブランシはくわしくそのはなしりかえしてきかせました。彼女かのじょ祖父そふむかって『おじいさま今日こんにちは……』と挨拶あいさつすると、おじいさまはにッこり微笑ほほえみをもらし、じッと彼女かのじょつめたそうであります。

 その翌日よくじつはシェッフィールドにけるK住宅じゅうたくれい自動じどう書記しょきおこなわれましたが、そのさいみぎの一些事さじ質問しつもん種子たねになりました。当日とうじつ質問しつもんの二ヶじょうでした。──

 一、先日せんじつ御紹介ごしょうかい陸軍りくぐん士官しかん姓名せいめいなんもうしますか?

 一、あなたは金曜日きんようびにあなたのお姿すがたをブランシのにおせになりましたか?

 これたいする自動じどう書記しょき文句もんくは左のとおりにあらわれました。もちろんワアドかかってたのは叔父おじさんのLであります。──

今日きょうだい二の質問しつもんからかたづけてしまおう。わしはブランシにいました。わしはおまえ住宅じゅうたくを一たことがないので、ちょっとってになったのじゃ。そうすると何時いつにやら其所そこかれてった……。ブランシのっていることはすこしもちがっていません。

『それからだい一の質問しつもんうつるが、ドーもこまったことには先方むこうでは姓名せいめい絶対ぜったい名告なのろうとしない。それには相当そうとう理由りゆうもあるようじゃ。しばらくわし退いて当人とうにん自身じしんかかってもらって説明せつめいさせることにしよう。わしわきひかえているからあぶないことはすこしもない。安心あんしんしてるがよい……。』

 Kれいとお立会人たちあいにんとしてこの自動じどう書記しょき状況じょうきょう監視かんししてたのですが、筆記ひっきがここまですすんだときにワアド容貌ようぼう態度たいどとうががらり一ぺんして、気味きみのわるいほど昂奮こうふんした状態じょうたいになり、鉛筆えんぴつかたまでもかわってたのでした。その筆蹟ひっせき相違そういしてたことも勿論もちろんであります。あらわれた文字もじぎのようなものでした。──

吾輩わがはい只今ただいまから紹介しょうかいあずかった陸軍りくぐん士官しかんであるが、姓名せいめい名告なのれとはもってのほかである。そんなことは絶対ぜったい御免蒙ごめんこうむりたい!』

 けんもほろろの挨拶あいさつで、これが人間にんげん同志どうし談判だんぱんであるなら満面まんめんしゅをそそぎ、怒髪どはつかんむりくとった塩梅あんばいであったでしょう。文字もじおつづいた。──

『しかし吾輩わがはい姓名せいめいかくすについては其所そこ相当そうとう理由りゆうがある。えても吾輩わがはいひとおやである。吾輩わがはい一人ひとりむすめがある。むすめ吾輩わがはいごと悪漢わるもの血汐ちしおけてるだけでそれで充分じゅうぶんである。そのうえ殺人犯人ひとごろしむすめであると世間せけんうたわせるのはあまりに惨酷ざんこくじゃ。吾輩わがはいひところしたことはまだ地上ちじょう何人だれにもれていない。しかるにしもこの秘密ひみつ自動じどう書記しょきですッぱかれるが最後さいご何人だれがそんなもののむすめ結婚けっこんするものがあろう? そんな可哀想かあいそうなことがきますか? むすめばかりか吾輩わがはいにはつまもある。そのうえかんがえてやる義務ぎむがある。吾輩わがはい自動じどう書記しょき無名むめいであるので価値かちがないというのなら勝手かってにおめなさい。しかしそんなことをすれば結局けっきょくあなたがた損害そんがいでしょう。──吾輩わがはいうだけったからこれでL交代こうたいする……』

 ここでワアド態度たいどが一ぺんしてもと叔父おじさんの態度たいどになり、ぎの文句もんくきつけられました。

『ドーも只今ただいま陸軍りくぐん将校しょうこう姓名せいめい名告なのってくれないのは残念ざんねんじゃが、しかしあのひとうことにはもっともなところがあるから、いかに学問がくもんめとはいえ無理むりにというわけにもくまい。今回こんかいはこのへんで一とくさりつけていて、次回じかいにはわしかかって、わしんだときくわしい物語ものがたりくことにしましょう。──これで三十分間ぷんかん休憩きゅうけい……。』


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