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それからそれへ

土井 晩翠

 乱雑の書斎から手当り次第に出して見ると――

 "A Vision" by W. B. Yeats (昨年マクミラン版)である。本書は一九二五の年非売品として六百部だけ刊行されたものを訂正改版したのである。昨年(?)おもむいたジョージ・ウイリヤム・ラッセル(ペンネーム A. E)は無上にの書を賞讃した。「その内容の豊富は驚くべきもの……ブレークの予言的の書物が百年前は全く分られず全く無視されたが今日多くの人々に論議されている。本書もこれと同様に百年を過ぎたならさかんに批評家や註釈家によって論議さるるだろう……」

 ゼノア湾上の一小都市 Rapallo で本書の筆を起した著者は次の通り第八頁に書く――

『一九一七年十月二十四日すなわち結婚後四日目の午後に妻は自動書記を試みて私を驚かした……一九一九年になると妻は睡眠中に話し初めた、爾来じらいあらゆる文信(霊界よりの)はこの方法で行われた。……

 れだけでも分るように、本書は今日の心霊科学研究サイカル リサーチの好材料である。アイルランド最大の詩人は、心霊現象の信仰者である。本書は中に誕生と死との間の肉体的生命ばかりで無く、死と誕生との間の霊的生命を説く。過去と現在とのみならず、未来を説く。現世の肉体的生命を二十四条に分類する。其中そのうち二条は超自然的である。この思想系統においては個人にとっても社会にとっても国家にとっても自由意思の領域は無い。是は東西数千年のむかしからの宿命説である。

 これによれば国家の運も勿論むろん天命である。北宋の哲人 邵康節しょうこうせつ も宋朝の運命を卜したとわれる(宋の最後の壇の浦 すなわち克Rは広東冲か)

 日本と中華民国とが昨今戦いつつあるのもこの筆法によらば宿命である。

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 武漢三鎮の占領は東亜の歴史に将来長く特記さるべき大事件である。漢陽、武昌、漢口の名は私が少年時代以来、唐詩及び宋朝三百年間を通じての第一天才蘇東坡の『赤壁賦』などで親しい名である。それが今日日本軍の手に落ちたとうことは真に感慨無量である。

 この偉大な戦勝を喜ぶと同時に憶い起すのは、むかし独逸のベルンハルデーが「白人が東洋に志をうるには日本と支那とを離間せしむるにある」云々とったことである。私はいつも日本と支那とは兄弟である、提携して亜細亜連盟の先頭に立つべきものだと信じている。(私の詩の中「造れ連盟亜細亜のそれを」参照)

 両国相結んで世界を擾乱する赤魔に当るべきをアベコベに支那と赤魔との(又その外の……の)連合軍に当らねばならぬとは何たる遺憾! ヒットラーほどの大物が日本に居らぬかと思えば涙がこぼれる。ビスマルクが普墺戦争で墺をさんざん敲きのめしたその直後に墺と結んで、後年の対仏戦に成功して 独逸ドイツ 連邦を建てたような、大手腕があったなら……と思う。

 だが乗りかけた船だ、ここからいよいよ長期抗戦に進まねばなるまい。「蒋介石を何処まで追うか」と清瀬一郎さんが「時局」の十一月号に書いている。「秦の始皇が即位して天下を統一する迄は二十五年。それ以後歴代の興亡のあとを検すると支那平定には平均十四年四ヶ月かかる」(大要)

 又続けてう「今次の事変は以上のような算法をやれば満州事変から数えねばなるまい、さすればあの時から七年が今日迄過ぎたから、今後約七年かるという決心で事に従うべきである」

 とにもかくにも我々の最後の目的は、日支の提携にあらねばならぬ。

 昨年帝国議会開院の式の折の勅語は――

『帝国と中華民国との提携協力に依り、東亜の安定を確保し以て共栄の実を挙ぐるはれ朕が 夙夜シュクヤ 軫念シンネン 措かざるなり。中華民国深く帝国の真意を解せず、 みだりに事を構え、遂に今次の事変を見るに至る。朕これうらみ とす……』と仰せられた。

 イエーツの著書について述べるのが本篇の主意であったが脱線して以上の通り。あとは又其中そのうちに。


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第一六巻第一号

発行: 1939(昭和14)年1月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ 入力:いさお      2007年8月17日

※ 公開:新かな版    2007年8月18日


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