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妖精について(つづき)

粕川 章子

 

(コナン・ドイル卿著「妖精来カミング オブ フェアリー」の中から――霊視能力者が妖精の屡々しばしば出現する場所において見たままの実録)

(八月十五日――野外にて)

 何の精か以前にも一度森の中で見た事のある形状の生物が三つ、野の方から森に向って丁度ちょうどレースをして居るかの様に疾走して来たが、森側のかきから五間ばかりの処まで来たと思うと、急に跳ね上りその壁を一気に跳び越して森の中へ姿を消してしまった。

 エルシーは広場の真中にマーキュリーに似た、非常に美しい妖精が見えるとう。成程なるほど翼のある靴は穿いて居らぬが、背後に二本の翼を持って居いスラリとした、恰好かっこうのよい姿が見える。その妖精は裸体で、黄金色の縮れ髪を美しく垂らしていたが、草の株の上にひざまづいて、しきりに地面の上にある何かを熟視していた。初めはかがんでいたが、やがて上半身を延ばした処を見ると普通の精より遥か大柄で、十八インチ程もあるがごとく思われた。地上においてあるものを見ながら両腕を動かしていたが、うちにトウトウそれを取上げて胸に抱き、祈る様な態度になった(どうも抱き上げたものは赤児らしく思われた)その妖精の目鼻立からからだつきはどう見てもグリーク系の立派なもので、何やら神話の悲劇中にある一役とも云われる様な感があった。

(八月十六日 午後十時――野外にて)

 私は今撮影用の豆ランプの微光下で書いて居る。

 エルシーはフェアリーの一団が後向きに連って環を作り、顔を外側に向けて爪立ちをしながらグルグルと廻っているのを見たが、この環の中央に一妖精の姿が見えるのを合図に一同急に内側に向いてしまった。

 森からこちらの方へゴブリンの一団が駆けて来たが、二間程間近くなると立止った。木の精とは少し異ってむしろノーム(土の精)に似て居る、最も大さはブラウニー位しか無い。

 ふとすぐかたわらに美しいフェアリーが居るのをエルシーが見附けた。これも裸体の金髪美人、草の上にひざまずいて、両手を膝の上に載せて、微笑を私達の方に送って居る。凝視して居るその顔は実に美しいものであった。私がう書いた時、その妖精は不意に消えてしまった。

 次に彼女はエルフを見たが、不可思議に思われた事は彼は馬鹿にセカセカしながら忙しげに歩き廻って居るかの様に見え、風を切って走る時の如く髪を後になびかせて居るのに、実際はいつまでも同一場所に居て動かぬ事であった。

 再びゴブリンを見附けた。豆粒の様に小さい生物が列を組んで上空から斜めに草の上へと下って来たので、一列は縦列で下のものの頭の上へ次のものの足が来るという工合ぐあいに見え、一方は肩をつつき合して横列をしていた。うして地面の上へ足がつくや否や、彼等はチリチリバラバラぐに思い思いの方角へ逃げてしまうのであった。その顔は大変鹿爪しかつめらしく、何か重大な仕事でもして居る様な風をしている。

 森から出て来たエルフ等は大てい原の上で駆け廻っている。何という目的もないのだ。そして私達の傍を過ぎる時には不思議そうな顔をして一寸ちょっと立止って観察して行く。妖精の中にこのエルフは最も奇怪おかしなものに思われる。この時フランシスも三人だけは見る事が出来た。

 此度こんどは鮮かな色彩のフェアリー! 翼を生やしたからだは海の様な蒼さにホンノリと紅をさした様な美しさ! 蝶の如き翼もまた種々な色で輝いて見える。ほとんど何も着て居らぬ。その均斉のとれた胴や手足は立派な美術品の如き感がある。髪の上には金色の星が一つ輝いている。確かにこの妖精フェアリーは一妖精団を率いる団長といった格がある。

 急に野原が明るくなった。一妖精団フェアリーバンドがやって来たのだ。光りを放っているから一町程離れていても判明する。矢張り今記した様な指揮者に連れられて来たのだ。団長は絶対権を有しているかの如く、尊大な様子をしている。

 彼女の指揮の下に、その周囲に円を画いて並んだ妖精共はダンダンとその円を拡げて行ったが、見ているとのバンドから出る柔かいひかりもダンダンと下の草の上に拡がって行く。恐らくこれは野の草を生気づけて成長せしめるためと思われる。

 この妖精団は遠距離を飛行する移動的のものらしく、樹の上を高く飛翔して来たのだが、此処ここへ到着して二秒と経たぬ間にその円はズーッと拡がって直径二間程になり、仝時どうじに光度を増して恐ろしく輝き出した。環を成している、一人一人の妖精は、薄い光の線で、中央にいる団長のオーラに連絡している。その幾本もの光線の色は又種々であった、もっとも黄と橙色が一番目立ってはいたが……このひかりの道を通って真中から外側、外から中心へと絶えず光波が運動しているのが見えた。

 の一団が非常な熱心さで活勤し続ける有様ありさまわずかの時間に多くの任務を果さねばならぬかの如くであった。光りが強くなるに従って、実に見事な光景となった。大きな丸いひかりの傘とでもいおうか! 中心に働く団長は崇高なインスピレーションによって働かされているかの如き感があった。

 それからエルシーはたけの高いフェアリーが風鈴草のくさむらに来たのを見附けた。何だか抱いている、よく見るとどうも赤児の妖精らしい、薄いもので蔽ってある。この妖精はこれをその風鈴草の上におろした。そしてそのかたわらに膝をついて、しばらくでる様な格好をしていたが、やがて消えてしまった。

 判然はんぜんとは見えないが、どうも四足の動物を乗り廻している翼のあるっそりした妖精が可成かなりいるらしい。馬になっている妖精は何か一寸ちょっと考えがつかぬが、顔はどこか毛虫に似ている。こんなものは今迄に見た事がない。

 フェアリー連がこんな騒ぎをして居る間を時々土の精ノームがノソノソと歩き廻っている。鹿爪しかつめらしい顔をして別世界の人種といった工合ぐあいだ。又エルフとかインプの様なただ巫山戯ふざけ廻っている様に見える悪戯いたずらものの小人が馳け廻って居る。

 夜のの谷は妖精の乱舞場である。この他に私とフランシスもまたエルシーも時々自然霊と思われる種々いろいろと奇怪な恰好かっこうをした霊的存在物を見たのであった。

 もう一つ、エルシーが見つけたものの中にこんなものがあった。丁度ちょうど一ダース程のフェアリーが三ヶ月型に飛んでいる。な実に美しい形をしているので、そばに来た時彼女は「ああ綺麗だ」と口に出した。う褒めた瞬間、何と思ったのか、この連中は急に早変りをして、見る見る非常に醜いものに姿を変えた。そして「嘘を吐くな」とわんばかりに彼女を尻目にかけて消滅した。何故こんな真似をするか? 恐らく彼等の進化道程が人間を嫌うという処にるかも知れぬ。妖精の中にはそうした気分を持つものが沢山あるのだろう。

 なおフランシスが見たものの中に、七つの小さい変なフェアリーが、顔を地面につけて横たわって居たのがあった。

(八月十八日、午後二時野外にて)

 フランシスは自分のたけ程もある大きな妖精を見た。キチリと合った服に躯全部を包んで、その上にかかとまで届く様な長く拡がった上衣を纒っていた女の姿で、生々とした美しい色をして居った。透き通った大きな翼を頭の上で拡げた後、両手を上に挙げて、格好よくそれを振って見せた。顔も美しかったが、その表情はフランシスにも妖精団へ来ぬかと誘っているかの如く思われた。髪は短かく刈って居た。

 私はこの日特に美しい妖精を見た。金青色に輝いたものを着ている。長い翼はハッキリと上下に別れて少し短い下翼は先の方が細く尖っていた。矢張り翼や手を美しく動かして居たが、明らかに私達を見たらしく、微笑んだり、指を唇にあてたりして見せた。そして柳の葉蔭から熱心にこちらを見ていた。

 どうもこの妖精は他のものとはちがい、故意に私達に姿を現わしたかの如く思われる点があった。右の手を伸ばして自分の足下に円を画いている、見ると其処そこに五つか七つの羽根を生やしたチェラブ(小天使)が現われて来た。これも見えぬものの意志で物質化せしめたという感があった。すべてが他の妖精連の如く実在的ではなかった。これが魅せられたというのか、私は此時このときしばらく茫然ぼうぜん自失スッカリこの妖精に気を取られてしまっていた。

 以上はサーヂアント氏が問題のフランシス及エルシーの二少女に優る霊視能力で二人の実験がてら自己の体験を記録したものである。以上の短かい手記によっても、妖精の種類は千差万別である事がうかがわれる。


妖精フェアリーについて     粕川章子

底本: 雑誌 「心霊と人生」   第8巻第8号8月号

発行: 心霊科学研究会 1931(昭和6)年8月1日

 

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入力: いさお


雑誌「心霊と人生」より

 

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