心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第四巻

ゴシップ

憑虚

□中西女史の霊能

「四日市の中西さんを一度東京へ呼んで貰われませんか? あなたのお話の模様ではなかなか有望のようですね……。」

 六月頃から私は在京会員の人達からチョイチョイそうした請求に接しました。

 しかし私はオイソレとはその請求に応じませんでした。外でもない、彼女に対する私の準備的実験がまだ充分に行き届いて居なかったからで。

「彼女はたしかに見所みどころのある霊媒ではある」と私は独り考えました。「第一彼女は金銭のめに働く職業的霊媒でない。第二に彼女は正直な性格の所有者であり、従ってその守護霊もあきらかにそう云った性格をそなえている。第三に彼女の体格が絶倫であり、いかにも実用向きにできている。第四に彼女の五年来の霊媒的経歴がる程度の信頼を物語る。たしかに彼女は凡庸平凡の霊媒ではない。――が私にはまだ彼女の真の特長、所謂その動かすべからざる霊媒的天分ともいうべきものがよく判らない。すくなくともモー二三ヶ月間しらべあげた上でなければ、いかに内部の人達に対しても迂濶に紹介する訳には行かない…。」

 斯くして私は今年の七月も八月も、炎暑を犯して彼女の実験に微力をつくしました。その結果不充分ながらも大よその見当丈はついて来ました。私が彼女において一番心強く思ったのは、一と口にいえば彼女の

 現状偵察能力の確実なこと

でありました。

 偵察能力と言った丈ではいささか漠然として居りましょうが、彼女の偵察能力は主として「人体の病源偵察」に向けられ、そうした場合が一番有効でもあり、同時に一番無難でもありました。現在の薬物医学は非常な進歩を遂げましたが、ただ病気診断という点においてまだまだ改良発達の余地が多々あるように思考されます。エックス線の応用、諸種の反応作用の利用等によりてる程度欠陥の除去を講じては居りますが、公平に観て頗る遺憾の点が存在することは、皆様の先刻御承知の通りであります。現に屍体解剖の結果いかに多くの誤診が発見さるることでしょう! 「ああ又ちがった!」という歎声は間断なく解剖家の口から漏らさるる所であります。

 ですからここに一人の霊能者が現われ、

「病源の診断なら決して間違わない。」

ということになった暁には、どれ丈現代医学の為に貢献することになるか図り知られぬものがあります。戦争においても充分の敵状偵察ができてここに初めて充分の作戦%計劃けいかくが立つのであります。病気との戦争においても亦同様であります。

 私は薬物医学者と心霊療法家とが兎角ソリが合わず、互に口癖のように罵り合うのを見て、常ににが々しく片腹痛く感ずるものの一人であります。心霊能力には心霊能力の長所があり、薬物医学には薬物医学の長所がある。双方その長所を併せて病気という大敵に当ってこそ初めて充分の効果を挙ぐることができるのであります。何の遑ありて兄弟内にせめぐの閑日月がありましょう!

 物質から成立して居る肉体を外面的に直接処理するのはドーしても物的医学者の正当な任務であります。しかしながら肉体の内面に隠れて人間の視聴をくらますことに妙を得て居る厄介な存在物――例えば出来かけの癌腫、極微な病菌、その他を捉えることは敏感な霊能者の適当なる任務であらねばなりませぬ。両者は相倚り相助けて人生の福祉増進を講ずべきもので、断じて排擠敵視の陋態を演ずべきではありますまい。

 私が中西女史に望みを嘱したのも実にうした考からで、その方針で私はしきりに女史に向って病者の診断を求めました。無論私は専門の医学者でありません。従って私の従来の実験はどこまでも準備的実験の域を脱しませんが、しかし女史の能力につきての概念を掴むにはほぼそれで充分であるように考えられました。

 最近に至りて彼女の霊能に対する私の考はようやくまとまりかけました。要点を列挙すれば左の通りであります。――

(一) 入神中の女史は直接患者に接触して居る時の方が容体の説述が遥かに精緻である。従来のところではその的中率がほとんど百分の百と言って可い。深味も相当にある

(二) 入神中の女史が遠距離の患者を取扱う時には、その守護霊が一時肉体を離れて出勤するとしか考えられない。普通二三分間後に帰って来て現状を報告する。委曲をつくす点において直接診断の場合よりも劣るようであるが、正確味においほとんど優劣を見ない。

(三)遠距離偵察の場合において絶対必要なるは患者の住所姓名年齢等を明示することである。しからざる場合には往々まるきり違った、他の患者を偵察して帰ることがある。

(四)入神に際して何より肝要なのは監督者の人物の選定で、質問が要領を得なかったり、又不安軽侮の念等を起させたりすると結果が面白くない。同時に環境のよい事も必要で、懐疑的人物が居合わしたり、騒音が混ったりすると成績が劣る。

(五)病気診断以外に女史の得意とする方面は、人物の動静及び性行の審査、紛失物件及び行方不明者等の探索交渉問題及び事業計劃けいかくの鑑定等――要するに現状偵察を基本として行い得る諸種の人事の判断

 他にも彼女の能力を活用して相当の成績を挙げ得る方面は存在するか知れませんが、私の研究はまだ其所そこまで届いていません。一番安心して、これならばず大丈夫と思わるるのは矢張り病気診断又は健康診断(距離の遠距離を問わず)であるように見受けられます

 ここはなはだ面白いと思われる点は、女史の守護霊が患者に対して臨機にいろいろの方法を講ずることであります。一は患部の按摩を行うことで、これは他の霊能者もよくやることです。他の方法はしばしば適当な薬物(主として草根木皮の類)を推薦したり、又適当な医師を推薦したりするのであります。強いて一方に偏せぬところにはなはだ妙味がありはせぬかと思われます。

 

□東京に於ける中西女史

□ スキャッチャード嬢の出現


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第四巻第十一号

発行: 1926(昭和2)年11月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 表記の揺らぎ、「スキアツチヤード」・「スキヤツチヤード」は底本のままです。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2008年10月6日

※ 公開:新かな版    2008年12月23日


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