心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第四巻

□ 総決算期

 △昭和の劈頭において何が一ばん刮目に値する社会現象かというに、恐らく比較的安価な全集物の刊行に越したものはあるまい。後から後からと出るは出るは。何人の書斎でも恐らくそれ等すべてを抱擁するには狭隘を感ずるであろうと取越苦労が出る位に沢山出る。

 △これを観てめる者は矢鱈に讃め、そしる者は無闇に貶る。一々御尤ごもっともだが、われわれはそのいずれもの尻馬に乗る閑日月の持ち合わせがない。讃めたって貶したって、出るものは依然として出るのだ。口頭丈の毀誉褒貶によりて天下の大勢は一分一厘動くものでない。全集物の刊行は昭和時代の大勢なのだから仕方がないではないか。

 △さて表面的事実は単なる全集物の流行ということであるが、裏面の意味は何かと考えて見れば、要するに明治大正六十年間の日本文明の総決算なので、正に会計年度末に於ける大蔵省又は銀行会社等の決算報告にその意義に何の相違もないと思う。

 △われわれはよく耳にタコのできるほど「過渡時代」の言葉をきかされるが、昭和の現代は正にその所謂過渡時代、もっと平たくいうと、つまり世の変り目に遭遇して居るのではあるまいか。旧年度と新年度との変り目に諸種の決算報告が発表さるると同じ意味において……。

 △すくなくもわれわれはそう考えた方が面白味が多いように思う。西洋かぶれの物質文明もいよいよ行くところまで行って総決算に忙がしい時期にこぎつけた。これからいよいよ五十年なり百年なりつづくべき新年度に入りかけるのだ。われわれは旧年度時代には余りに見くびられ過ぎた。新年度に入ったら一つ大に真骨頂を発揮してやろう。

 △心霊研究者は兎角気まぐれの夢想家の集りだということだから、んなことをいうのもあるいは少々頭脳が変になっているせいかも知れない。若しそうだとすれば物質主義者は大に枕を高うして祝杯を挙げてなりである。

(二・十・三 憑虚)


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第四巻第十一号

発行: 1926(昭和2)年11月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2008年10月6日

※ 公開:新かな版    2008年12月17日


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