心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第四巻

文士の自殺

 △芥川龍之助氏の自殺、並にその遺書の発表等で、日本の新聞雑誌は一しきり右に関する言説で埋もれた。惜むべき才人の悲しき最後であるからまことにさもあるべき筈である。

 △私一個人としてもまた相当多大のショックを受けた。想い起せば十二年前、私が官職をすてて横須賀を引き上げた時、私の仕事の後継者として後にのこしたのは実に芥川君であった。われわれの間にさしたる親交はなかったが、兎に角そこに浅からぬ縁故はあったと言える。

 △そうした縁故があったにつけても、私には深い深い遺憾が湧く。芥川君が極度のひややかさを以て充分に死に先立つ気分を味わったことは驚くべきである。自己の遺骸に対する氏の美的感情の動きも充分であった。その遺族に対する同情の発露もずは申分がないといえよう。――が惜い哉芥川君は「死」そのものの真相をきわめることを怠った。ここに芥川君の執りたる処置に取りかえし難き錯誤が伏在した。

 △「死」につきての言説が単なる信仰の問題であるのなら、われわれは芥川君の自殺の可否善悪につきて論議する資格はない。しかしながらこの問題はすでに当然科学的領域に属するものであって、単なる信仰の問題でない。で、お気の毒ながら私は断言する。芥川氏はあたら才人に似合わぬ大錯誤をやられたと。

 △芥川君の自殺を遺憾に思うと同様に、私はほとんどすべての新聞雑誌にあらわれた、同事件に関する言説の不徹底なることを遺憾に思う。単なる感傷的悼辞、少しも理解なき放言、まるきり戸惑いした皮肉――何時までわが同胞は心の闇をつづけるつもりであろう!

    (二・八・五 浅野生)


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第四巻第九号

発行: 1926(昭和2)年9月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ 入力:いさお      2008年10月6日

※ 公開:新かな版    2008年10月4日


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