心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第四巻

ゴシップ

憑虚

□ 大黒様と牧野元次郎氏

 かねてから是非紹介しようとして居ったのが延び延びになりまして、今回ようやく筆を執ることになったのが大黒様と不動銀行の頭取の牧野さんとの奇縁――折しも正月号のゴシップとしてはあるいは丁度誂向きの材料と自慢してもいいかも知れません。

 すでに御承知の方々もあるかは知れませんが、私が直接牧野さんから承ったところによりますと、今日の牧野さんの堅固な信念が築かるるまでには数々心霊上の面白い体験があったらしいのであります。霊的体験なしに信仰は得られないという理窟もなかりそうですが、実際を見ると大ていは霊的体験が信念樹立のめに有力な手引、言わばその基礎工事見たいなことをして居るらしく見受けらるるので、牧野さんもつまりその選に漏れなかったのであります。数ある中から一つだけ紹介することにしましょう。

 ねて不動銀行では行員奨励の目的で毎年福引を催して居ましたが、明治四十三年にはその福引が十月三日に行わるることになっていました。もちろん一等、二等、三等とそれぞれ階級がある。ところで牧野さんは不図ふと、『福引の一等は一体誰に当るだろう?』という疑問を起しました。

『若しも神さまとか仏さまとかいうものが実際存在して居て、運命の鍵と云ったようなものを握って居らるるものなら、一等賞を貰うものは、前からちゃんと決っているべき筈である。できるものなら一つ静坐瞑目してその人物を霊眼に見せて貰おうかしら……。』

 そんな事を考えながら、自分でもいくらか半信半疑の態度で、牧野さんが眼をつぶって書斎で静座して見たのは実に福引の行わるる約一週間前、九月二十七日の晩のことでした。

 何分間坐ったか、自分にもはッきり判らなかったそうですが、相当深い統一状態に入ったと覚えた頃、不図ふと一ツの顔の半分が左の方から現われ、つづいて他の半分が右の方から現われ、そして半分づつの顔が中央でピタリと合体してここに完全な一つの顔が出来上った……。

 よくよく熟視するとそれは行員の青木某の顔なのです。

『フム、すると青木が一等賞を貰うことに決っているのかな? 妙なことがあるものだ……。』

 牧野さんは其所そこで静座を止めてしまいましたが、さて翌日銀行へ行って青木の平生を調べて見ると案外にも成績は平均以下なのです。不動銀行の福引は勧誘の成績が半数以上に達しているものが抽籤の権利を有っているので、従って当時の青木にはその抽籤資格がないのでした。

『霊眼なんて余り当てにはならんものだ……。』

 牧野さんは一旦はそう思われたそうですが、兎にも角にも一つその結果を試して見ようと考えまして、十月三日の福引一等賞受領者は青木某である旨を紙片に書きつけ、自身それを厳封して、行員立会の上で銀行の金庫に格納しました。

『今度の一等賞はきッとこの内に書いてある者が貰うのです……。』

 牧野さんは思い切って、そう一同に断言しました。

 そうする中にも牧野さんはひそかに青木の成績に注意を払って居りますと、不思議なことには青木は急に馬力を出して貯金勧誘に努力し、めきめき幾人かの儕輩さいはいを追い越して、期日前に見事に抽籤資格を獲得してしまいました。

『妙なものだ。この分ならあるいは一等賞に当選するかも知れない……。』

 牧野さんは独りで興がってその日の来るのを待ちました。

 やがて十月三日となりて、盛大に福引きの抽籤が行われましたが、その結果ははたして七日前に牧野さんの霊覚が示した通り一等賞を引き当てたのは青木でありました。

『金庫から先日の封書を出して御覧なさい!』

 牧野さんから命令されて行員が右の封書を出して開封して見た時に、チャンと青木の姓名が明記されてあったのを発見した時には、一同覚えず感歎の声を放ったということですが、誠にさもあるべき事と思われます。

 兎に角これは面白い紀念物だというので、一切の顛末を記して不動銀行に大切に保存されて居ましたが、惜い事には往年の大震火災の際に右の書きものを焼失してしまったそうです。

 これなどは霊覚の実例としてまことに絶好のもので、所謂いわゆる専門家裸足はだしというところです。

 が、牧野さんにはこの種の事がまだ他にも幾つも起ったようです。その前にも福引の一等当選者を直覚的に言い当てた場合が一二度あり、又同じく直覚的に贋造紙幣を発見したことも再三あったといいます。

 うして不知不識の間に牧野さんの信仰心は築かれて行ったのであります。その信仰の御本尊は申すまでもなく大黒様で、所謂ニコニコ主義の名称はこれから起っているのであります。

□ ニコニコ主義の由来

□ 二度災難のがれ


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第四巻第一号

発行: 1926(昭和2)年1月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分けました。

※ 入力:いさお      2008年4月25日

※ 公開:新かな版    2008年5月8日


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