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岡崎の万灯山を訪う

一 万灯山に行くまで

 私が初めて岡崎市の万灯山伊豫田英照氏の名を知ったのは昨大正十五年の五月頃でしたろう。それは会員杉山實氏からわざわざ伊豫田氏の著書一部を送って来て、その批判を求められたからでしたが、当時私は他の問題に没頭し切って居たので、充分の考慮と時間とをこれに費すだけの心の余裕を見出すことができませんでした。

 ところが同年の秋になると、杉山氏は又々伊豫田氏の著述にかかる『悪霊解決』及び『霊の魔力』の二書を送って来て万灯山の修法の尋常一様のものでないことを力説されたので、ここに私は初めて真剣に万灯山をしらべて見ようという気になったのです。怠慢といえば誠に怠慢、甚だ申訳もうしわけのなき次第でありますが、しかし翻って考うれば大正十五年の秋が万灯山と私との間に機縁の熟すべき時であったでありましょう。私の過去の経験によりて見ましても、すべて物事の運ぶのには奥の方に人知れず有力な一つの力が働いて居て、われわれ人間は常にこれめに自由自在に操縦されつつあるらしく、人間は後になってから初めて成程なるほどと首肯する位のものであります。

 私は本誌十二月号の編輯へんしゅうおえるを待ち、直ちに岡崎行きの準備をはじめ、昨年十一月十二日、午前八時十二分横浜発の急行を捕えて西に向いました。幸い汽車の中はガラ明きなので、私は早速鞄から『悪霊解決』及び『霊の魔力』を引き出し、落付いた気分になってその精読を始めました。汽車が静岡を過ぎる頃までには二書を通じてほぼ伊豫田氏の閲歴、性行、主張、目的並にその事業の大体が私の肚裏はらに入ると共に私は心の中で独語しました。――

『書いてある事は至極賛成だ、たたはたして事実その通りに相違ないかしら……。若しこの書中に書かれて居ることのせめて半分でもが事実であるなら大したものだ……』

 正直に告白すると汽車の中で私はそう考えました。

 いうまでもなく現代は宣伝万能の世の中であります。内容の価値如何もある程度までは関係しますが、しかし実質以上に尊重されるものは実にその宣伝方法であります。試みに世間に吹聴される心霊療法家の宣言を見ても思い半ばに過ぎましょう。きまり切って彼等は物質文明の不完全を嗤い、自家独特の心霊療法にらなければ不治の難症の根治は到底期し難いように呼号しますが、その百人中少すくなくとも九十九人までは世渡り上手の宣伝家であり、はなはだしいのになると物質科学さえも理解し得ぬ低能児であります。これは欧米たると日本たるとの区別なしに、全くの事実であるから致し方がありません。『あいつなかなかうまってるナ』。『不相変あいかわらず思い切った大法螺を吹きやがるナ……』――何回も何回も懲りさせられた世人は皆そう言って警戒します。

 無論中には真実に敬重すべき心霊療法家も混っています。ただそんなのはきわめて稀で、暁天の星もただならぬ有様であります。ですから今の世の中では何は兎もあれずすべてを疑ってかかるのが安全だということに相場がきまって居り、鵜の眼鷹の眼で欠点あらさがしをやることが真の学者的態度であるかの如く勘違いされて居ります。誠にもっなげかわしい、イヤらしい風潮ですが、どッちもどッちで、恐らく致方がないこととあきらめねばなりますまい。私などは欠点あら拾いにかけては至極のヘタ糞、『おまえ見たいなあまい人間に今日の心霊研究ができるものか』などとよく諸方から攻撃を頂戴しますが、って生れた性分で、こればかりは致方がありません。それでも何遍かだまされたり、かつがれたり、散々ひどい目に逢わされて来たお蔭で、近頃は人並みに余程用心して取りかかるつもりで居ります。

 そうした半信半疑的気分で午後二時半頃私はブラリと岡崎に下車し、そして直ちに万灯山に向いました。

 万灯山は俗に千人塚とも呼ばれ、市の東南端の田圃中に岐立して居る、相当に高い丘陵でした。途中は目下十二間巾の国道の開設やら市区改正やらですこぶる殺風景を呈して居ましたが、万灯山そのものはコンモリした立木の中に枝振り見事な二三本の老松がそびえて居り、岡崎市の風致を添うる面白い眺めの一つを成して居ました。

 屈曲せるダラダラ坂を上って行くと、丘陵の半腹に幾棟かの質素な建物が起伏して居り、庭には数十株の楓樹かえでが夕陽を浴びて今を盛りと燃え立って居ました。たまたま坂路には病身らしい一人の青年がたたずんで居ましたので私はその人に依んで刺を通じてもらいますと、間もなく五十六七と見ゆる半僧半俗の姿をした人が下の方から登って来て、楓樹かえでの下で私と挨拶しました。

 それが伊豫田英照氏でした。

 伊豫田氏の見るから簡素な服装、又仏性をたたえた穏かな風丯ふうぼう等がず私に好い感じを与えました。

二 伊豫田氏の前半生

三 伊豫田氏と万灯山

四 五条の誓願

五 第一期の大修行

六 修行の大成

七 万灯山の加持祈祷

八 対話の一節


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第四巻第一号

発行: 1926(昭和2)年1月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2004年2月15日

※ 公開:新かな版    2004年11月17日  (改訂2008年5月3日)


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