心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第三巻

『求心倶楽部』の発生

――発会式の概況――

 日本の帝都に是非一つ位はあってしかるべくして、そのくせ従来は一つも成立して居なかった、面白い性質の会が今回やッと生れたと思われるのは『求心倶楽部』の創立であります。

 学術研究の会は沢山あります。主義だの、主張だの、信仰だのを中心として集まる会も無数にあります。講習会や道楽会に至りては数限りもないが、真にすべての人為的約束の外に超越して、第一義に生きようとする会、真に一切の先入主を棄て、ドグマを棄て、御都合主義を棄て、名利の打算を棄てて、人間本来の真面目を掴めるなら掴もう……。何やら人間の心の奥にひそめる不安、不満、不審のささやきを払えるなら払おう……。それにはしばらく飯を食う種子たねであるところの職業も、宗教も、党派も何も忘れて進んで見よう………。目的の達成と否とさえもしばらく度外視して、兎に角月に一度でも二度でも集まって、すべてを明けッぱなしにして語り合って見よう……。ずそう言った調子で、落付いた気分で集まるところの会は広い東京にただの一つもないようであります。この際求心倶楽部の創立はたしかに意義のある、たしかに重大なる日本国の欠陥を充たすところのある面白い企であるとって宜しいかと考えられます。

 既成宗教で安心していられる方は誠に幸福であります。金銭財宝ができて、他に求むるところのなき方々は全く世話が焼けません。現在当面の仕事にすッかり打ち込んで得意の絶頂に立たれている方々は真に羨仰の至りであります。それ等の方々に取りては『求心倶楽部』見たいなものは無意義きわまる、閑人の道楽仕事位にしか見えますまい。全く『求心倶楽部』は現在当面の台所道具にはならないにきまっています。が、後になって見たら………無論後になって見なければ判りませんが、あいつははなはだ面白いところに気がついたものであったということになるかも知れません。

 いうまでもなくこの種の会は東京だけでも足りますまい。大阪にも、京都にも、名古屋にも、その他のしかるべき都市町村等にも皆あって宜しいかと思われます。日本の現在の病弊は、余りにも当面の問題、常に銅臭を伴える実用向きの仕事にのみ熱中し過ぎていることであるかと考えられます。一個人に取りても、考える時、修養の時が必要である如く、一国民としても、考える時、修養の時が必要であります。さもないと前途さきの延びがわるく、泰然自若として先手を打つと言ったような余裕がなく、コセコセマゴマゴ他から引き摺られてばかり居ねばなりません。

『求心倶楽部』の発会式は五月十六日の午後半蔵門外の『半蔵門倶楽部』で、極めてしんみりと挙げられました。集まった人数は、ざッと三十人許でした。即ち、

板倉中氏、浅野正恭氏、小杉辰三氏、川田功氏、中村嘆氏、牧野元次郎氏、秋山命澄氏、角地藤太郎氏、岡田熊次郎氏、仲摩照文氏、妹尾太郎氏、岡部長節氏、石川武美氏、中桐確太郎氏、正富汪洋氏、加藤一夫氏、沖野岩三郎氏、松本泰氏、堀徳藏氏、渥美得一氏、佐々木安五郎氏、浅野和三郎氏、瀧川辰郎氏、藤田西湖氏、外数氏

 他に用事ができて止むなく不参の方が約十名許ありました。

 開会は予定より少し遅れ、午後二時幹事の一人浅野氏から簡単なる挨拶があり、『求心倶楽部』創立の趣旨を述べ、おその際倶楽部の『規約』と言ったものを決めました。要点は大体左記の通りであります。――

 求心倶楽部と云う名称これが……はたして私どもの衷心求めつつある目的にしっくり添っているや否やは多少疑問の余地があります。しかし、遠心力、求心力と云う物理学者専用の言葉を道徳的に延長して考えて戴けば、多少あるものを髣髴することが出来はせぬかと存じます。外部に拡がるかわりに内面に穿り入らんとする努力、散らばるかわりに纏まろうとする努力、末梢神経を疲らすかわりに内部生命に培はんとする努力、形式の羈絆きはんをのがれて事物の源流を探らんとする努力、党派、階級、職業、宗教その他一切の小異を棄てて人間本来の真面目に大同せんとする努力………。ざっとそう言った様な意義がこの名称の中に見出されはせぬかと考える次第であります。

 が、名称などは実は末の問題だと思います。つまりわれわれの心の底に潜み流るる一の痛切なる囁き……。既成の宗教によりても、哲学によりても、科学によりても、もちろん又既成の経済学、法律学、政治学等によりても充分に解かれていない、る不定形の不審、不安、不満のささやき……。私どもはできることならどうにかしてその正体をつかまえて、ここに確乎不動の心の土台を据えつけることにしたいと考えるのであります。この点は恐らく皆様に於かれても御同感かと拝察されます。

 むろん私共としては執らねばならぬ手段方法は、どこまでも事実第一主義、つとめて着実に、活きた体験と正しい実験実座に立脚して、遅くとも間違のない前進をつづけて行きたいのであります。何等実質の伴はざる理論の遊戯に耽ったり、何かめにするところある第二義第三義の似而非言説を振りまわしたりすることは私共の極力排除したいと思う点で、何でも一つ、ここに確かな事実に遭遇する事があったら、一切の先入主やドグマを棄てて、虚心坦懐、ウブな心で探究の歩をすすめて行きたいと思うのであります。んなところに現代人心の奥に潜める不審、不安、不満の暗い蔭を一掃し、真の光あり、意義ある人生を築き上ぐべき手がかりが潜んでいないとは何人が断言し得ましょう。

 きへ行ったら『求心倶楽部』は是非その名の通り倶楽部にしたいと存じますが、当分は左記の簡単な規約によって開会して行きたいと存じます。

 

   規  約

一、当分毎月一同会合のこと。(但しその都度通知)

二、会費は当分一ヶ月金五拾銭のこと。

三、入会者は会員二名の紹介を要すること。

四、毎回適当の人をへいして実験並に講演を行い、又会員同志で座談的に感想を述べたり、相談をしたりすること。

五、幹事は当分三名とし漸時交代すること。    以上

 

 それが済むと岡部幹事からざッと藤田西湖氏の経歴並に忍術につきその紹介があり、直ちに

   藤田西湖氏の忍術実験

に入りました。詳細は別項『藤田西湖氏の不思議な術を見る』と題せるTY生の記事に出て居りますからここには省略することに致します。

 実験後は閑談に時を移し散会したのは午後六時頃でした。

 因みに求心倶楽部の第二回実験講演は六月二十日午後一時からと決まり、場所は今度は大森馬込村谷中の阿部氏邸であります。

講演実験は

 私の霊的体験の告白 小杉辰三氏
 読心術実験 秋山命澄氏
 正体術の実験説明 高橋迪雄氏

だと承ります。成るべく次号に報告することにしましょう。


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第三巻第七号

発行: 1925(大正15)年7月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2008年2月15日

※ 公開:新かな版    2008年3月13日


心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第三巻

心霊図書館: 連絡先