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基督キリストの復活の真意義

一 超自然の不可思議説は駄目

 近代人が既成宗教に飽き足らなく感じはじめた源因げんいんはいろいろあるように見えますが、就中なかんづくもっとも有力な源因げんいんの一つはそのいずれもが余りに神秘的色彩に富んで居ることです。つまり何が何やらとんと見当のつかない不可思議現象を何の説明もなしにそのままぐッと鵜呑みにせよと迫られた時に理智的に目覚めた近代人にはそれがとてもき兼ねるのであります。

 信仰というものは個々の体験又は信ずべき証明に接したときに初めて発生するもので手ぶらで堅固な信仰はとても築かるるものではありません。換言すれば信仰の基礎工事には爰に知識を必要とします。一人の人物を信用するにしても何等かの手がかり、何等かの材料がります。宗教で必要なのは何と言っても諸仏の信仰、及び来世の信仰であります。この二大要素を除く時に宗教は存在の意義を失います。

 これに就きて基督キリストの生涯はまことに絶好の亀鑑を提供するものと考えられます。基督キリストの一生を架空の神話、常人とはかけ離れた孤立せる一の例外と考えるときに基督キリスト教はほとんどその全生命を失ってしまいます。既成宗教の当事者達は常にそうした誤謬をくりかえして居ましたが、心霊研究の立場から観れば基督キリストは全然普通の人と何の相違のない、しかし非常にすぐれた人間であったのであります。彼は実際地上に住み談話はなしもすれば歩行あるきもするそして一旦十字架上の露と消えてから生前親しかりし人達に自分の姿を示したのであります

 新約聖書を読んで見ると当時の基督キリスト教徒は彼等の師父の復活に就きての体験をもっているのでごうもその事実を疑う模様が見えない。『われわれは彼を目撃し、又彼と談話を交えた。われわれが彼の復活の生証文いきじょうもんである。』――そう言っているのである。彼等の信仰は体験の上に築かれているので素的に堅いところがある。もっとも今日われわれが福音書と称しているものは基督キリストの死後恐らく五六十年にして初めて一の文書として纒められたものに相違ないので、いくらか枝葉えだはが附いているのは致し方がありません。古伝説の記録には皆そうした欠点は免れ難いと認めるのが正当であります。従って心霊問題の実地の検討家でないと、何所までが事実であり、何所までがお負けであるかがちょっと判りにくく出来ています。

 もちろん現在の教会でも復活を説くことは説き、永遠の生命を教ゆることは教えます。――が、彼等は単にそれを口に唱えるだけで証明はしません。自分自身復活につきての体験もなければ又それが事実であることを証明するめの労をも執りません。その結果これに関する説明がめいめい勝手に違い、撞着だらけでありますので人民の方では迷わざるを得ません。同一教会に属するものの間においてすらその意見が対角線的に反対して居ります。或者は一たん死んだ基督キリストの肉体が蘇生したのだといい、ある者は基督キリストは架空の人間に過ぎないといい、ある者は基督キリストの復活は一の奇蹟、凡智の揣摩憶測を許さざる不可思議現象であるといいます。

 一世紀も前ならば超自然の不思議説位で善男善女をおさえつけるのも結構であったでしょうが、この科学的空気の瀰漫びまんしている現代で何人が超自然現象を信じましょう。若しある事象が起ったとして、たとえそれがいかに珍奇であり、異常であっても現代人はそれをそのままには棄ておきません。その現象の裏面に向ってあくまでも追窮の歩を進めます。正当なる因なくして確実なる果の発生することは宇宙間に絶無であります基督キリストの復活という事象も勿論むろんその選に漏れません。単なる奇蹟としてこの問題を形づける時代はとうに過ぎ去りました。

 世間には近代人を指して無信仰呼ばわりをするものもありますが、私の観るところによればそれは間違だと思います。近代人には鵜呑みの迷信ができなくなった丈で、正しき理由がある場合に近代人の方が信念が強いと思います。信用制度の発達一つを見ても判ると思います。正当なる理由がある時に仲間の人間をさえ信ずる人間が、何で正しき神を信じ、霊魂を信ぜずに居りましょう。正当なる理由の有無――信仰の生れると生れないとは全然これにかかると考えます

二 復活は科学的の心霊現象


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第三巻第六号

発行: 1925(大正15)年6月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年12月18日

※ 公開:新かな版    2008年2月5日


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