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アイヌ民族の霊的能力

浅野正恭氏(寄)


 四月十七日日本工業倶楽部で啓明会主催のアイヌ研究講演が開催されました。私はアイヌに就いては不図したことから興味を有つ様になったので、他に約束したところをことわって傍聴に出掛けたのでありました。数名の学者達が各方面からアイヌに対する研究の発表、勿論むろん有益なものと拝聴しましたが其中そのうちで特に私の興味を惹いたのは ―― 十勝アイヌであるところの、本年五十三歳になるという伏根弘三君の『アイヌ生活の変遷』と題する講演中の一節であります。その一節を記憶のままに要領を記すと大略次のごときものとなります。

『私達アイヌは荒漠たる林野の中に小屋を作って生活するが、どこから保護を受けるというのではなし、どうしてそんなところに安心して居られるかと、定めし不審に思わるる方もあるであろう。が、私達は人一人が十里二十里の外を歩いているのも、熊が何匹何処に出て来て居るということも、無線電信で通知を受ける如くに、小屋にいながらにして感知し得るのである。だからこれに対して相当の準備を為し得る。

 私達アイヌは天象を眺めて三日き位の天候を予知し得る。例えば幾日には大雨となって河が氾濫する前兆があり、対岸から食料を得るの必要がある場合のごときは、その大雨の前にチャンと用意をするのである。こんな事は日常の茶飯事で、それが従来未だかつて外れたためしもなければ又前知し得なかったというごときこともないのである。

 あるいは又海浜に居住するものでは、今日ではシャモ(内地人)が多勢夏季になると漁猟に来て私達アイヌを傭い入れる。アイヌは天象を観て出漁して差支さしつかえなきか否かを決定してやるのである。即ちシャモは私達の指揮を仰ぐという有様である。お各漁船にも必ずアイヌを一人は乗込ませる。局部的に変化する風波の状況を未然に察知し、これに対する機宜の処置を誤まるがごときことなからしむるためなのである。云々』

 以上伏根君の談によると千里眼、予覚というごとき霊的能力は、アイヌ民族は先天的に所有し居るものの如く見える。そしてこの特性は今の人巧的教育とは両立し得ないのではないかとも思われます。アイヌには元来文字などは無かったのだが、今日では内地と同様かく一的形式教育がアイヌにも及びつつあります。伏根君は今ではアイヌで中等教育を受けたものが三十人に達したと自慢していたが、その所謂いわゆる教育なるものが、この貴重すべき人類の霊能を却って滅損するものとならなければ至幸であると謂わねばなりませぬ。そこにはなお幾多の疑問があることであろうが、目下一万五千人しかないといわるるアイヌ種族を、何とかしてその種族自然のままに保存し、発達せしめ行く方法は無いものなのでありましょう乎。人道上から見ても、この重大な滅亡を見す見す傍観すべきではないと思われてなりませぬ。

附言 私は本誌の前身『心霊界』に、大本教のお直婆さんはアイヌ霊魂が憑依したものであることを論じておきました。今回図らずも面のあたり伏根君の相貌を一見するの機会を得、又その講演を聴いて私の説が益々確かめられた感がしたのであったことをついでに一言附記致します。


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第三巻第六号

発行: 1925(大正15)年6月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年12月18日

※ 公開:新かな版    2008年2月3日


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