品川行者の物品引寄実験記

四 二月二十八日の再実験

『今日はきッと出るかも知れない……。』

 こう考えたものが約半数にも上ったでしょう。

なにか出てたまるものか!』

 こう考えたものがこれ又約半数位の見当でしょう。兎に角合計約百人許の人達が午後一時頃迄に主婦之友社楼上に参集しました。前回に比べると約半数に過ぎませんが、これでも心霊の実験としてはとてもお話にならぬほど多人数でっその種類が雑駁ざっぱくであります。今回は乗りかけた船で、強いて人数を制限するようなことをせず、自然の成行に放任して見ましたが、前にも申上げたとおり、こんな誤謬ごびゅうは決して二度と繰り返してはならぬと痛切に感じます。

 審査員は杉田博士不参のめに臨時に小熊文学士に代ってもらいました。その他は前回どおりであります。活動写真は一台って都合三台でした。

 これよりき私は念のめにその日の午前出中、例の村上入道と称する霊魂の神懸りを乞うて今日の実験の予想を訊きました。するとその答はうでした。――

『今日は生憎強風であるが午後二時から四時の間には大抵鎮まるであろうからその間に刀剣を引寄せることにする。現品はすでに明治神宮まで引寄せてあるから安心するがよい。万々一それが引寄せられなくとも今日は地蔵の霊像一個観音の霊像一個古鏡一個に傍点]を引寄せてつかわす……。』

 不相変あいかわらず多少の条件づきで刀剣の方は少々不たしからしいが、兎に角後の三点丈は間違なく手際よく出るものと私は考えました。従来品川氏の物品引寄に立会った人達の多くもことごとくそう考えたようでありました。ところが意外にもこの予想は全然裏切られたのみならず右の三点の品物に大疑問が伏在して居たのでした

 例によりて私が一時半頃から二階の控室で来会者に向って挨拶をして居る中に五名の審査員諸氏は屋上庭園で身体検査に当りました。後で報告さるる所によれば、品川氏が常用の着衣を脱して新衣に着かえんとする瞬間に小熊氏と尾立氏とが着用しているシャツの上から品川氏のからださわって見たのだそうです。すると小熊氏は何やら胸辺に固いものがあるのでそれが何であるかを質問すると、おまもりであるとの答であった。これと同時に尾立氏は品川氏の腹部に何やら円形の固いものがあるのでそれが何であるかを質問するとそれはおまもりの鏡であるとの答であったそうです。

 後刻……たしか午後五時頃でしたろう、念のめに両氏は品川氏に迫りてその二品を取り出して観せてもらいますと、前者は乾漆製の地蔵の霊像であり、後者は直径二寸許の古鏡でありました。

 が、それが判明したのはあとの問題であります。私をはじめ他の来会者全部は身体検査の結果を知りませんから二時少し前に屋上庭園に赴きました。例によりて品川氏は設けの壇上に坐って祝詞のりとをあげたり、九字を切ったりして間もなく神懸状態になりましたが、前回の実験の際に比して甚だしく意気充実せず、方面転換をするに当りても僅かに二三寸跳び上った位のものでした。

 村上入道の託宣が又極めて心元なきものでした。

『この風は四時までには鎮まると思うからそれまで一同風の当らぬ所で待つがよい……。』

 私はこいつァ今日も駄目だなと直感しましたが、駄目でも駄目でなくとも、先方の言うがままにして黙って結果を観るというのが最初からの決心でありますから私は何等の抗議をも申込まずに差控えました。

 二階の別室に退いた品川氏はそれっきり階上には上らず二三の審査員に護られてタバコなどを吹かして雑談して居ました。その間に時間は容赦なく経過し、三時も過ぎ、やがて四時にもなりました。外に出て見ると朝来相当に強く吹いていた風力はこの時になっても一向鎮静すべき模様も見えません。

 あまりのもどかしさに私どもから品川氏に向って成るべく早くして貰いたいと催促しますと、やがて品川氏は神懸りになり、意外にも会衆全部を二階の控室に集めよとの注文であります。何故なぜかとその理由をただしますと、

『寒い所へ立たせて置いては余りに不憫ふびんじゃから……。』

との答でした。

 今更議論をしても始まりませんからその通りにして待って居りますと、間もなく品川氏は俄かに又神懸り状態になり、一同に向ってすこぶる威張った句調で一場の訓話? めきたるものを試みました。――

『この方は景虎人道だぞ! 物品引寄などというものはお前達のようにそうあせっても出ない時には出ない。出る時には十分間か二十分かの間に幾点でも出るものだぞ! モーあと二三十分のうちには神の力で出すつもりだからそれまでおとなしく待って居れ……。』

 そう言い置いてプイと別室に退いてしまいました。

 これには一同呆気あつけに取られてしまいました。中には無遠慮に冷笑する紳士もありました。後ではいろいろの議論が沸騰しました。――

『このぶんでは到底刀剣の出る見込はない。これできれいに実験の解散を宣告するがよい……。』

『イヤ二三十分待てというのだから二三十分待って見ようではないか……。』

『イヤこの上行者をいじめるのは人道問題だ。中止してやる方が功徳くどくだ。僕は最初から刀剣引寄などはきないものと相場をきめて居たのだ……。』

 しばらくの間ガヤガヤ議論が出ましたが私はあくまで三十分許持っていただいて、最後のけりをつけようと決心しました。

 下度このあとです。審査員の一人小熊文学士が起って品川氏の身体検査の報告をしたのは……。

 お氏は単なる言葉の報告にとどまらず、品川氏に請求して、その身体に附けて居た地蔵の霊像古鏡とを取り出させ、これを会衆一同の面前に提出しました。一同はかわるがわる手に取りてこれを回覧しました。

 丁度その時であります。別室に退いて居た品川氏はいつの間にか神懸り状態となりて再び控室に現われ、エーッ!と一喝するより早く観音の霊像一個を掌中から差出しました。そしてういうのでした。――

『今日の物品引寄はこれ丈にとどめる。――刀剣引寄は都合ありて今日は取止める!』

 その時まで一切沈黙を守りて居た私は、品川氏の憑依霊に向って初めて一の抗議に近いものを申込みました。――

『私にあなたの言わるるとおり、すべて命のまま行動して来ました。つまりあなたをして最善を尽さしめようと思ったからであります。今回の刀剣引寄に就きても決してこちらが無理に強要した訳ではありません。出してやるといわるるから出していただこうとしただけで、ただの一言たりともお言葉に違反したことは致しません。あなたが最初からきないというならそれで何の差支もないのです。ツイ先刻もあなたは何と言われました? あと二三十分間特てとはッきり言われたではありませんか! 然るに舌の根の乾かぬ中に何の理由も説明せず都合ありて今日は取止めるとは何たる言葉です? しかも今日は第二回目の実験ではありませんか! 私達はあなたの真意が那辺なへんにあるのか了解に苦しむ次第であります。――よろしい、判りました。心霊研究会として今回の実験は遺憾いかんながら今日限り打切りに致します……。』

 品川氏の憑依霊からはそれッきり何等なんらはッきりした返答が得られずに終りました。

 それから私並に主婦之友社、科学画報の代表者から簡単な挨拶があって散会したのは午後五時半頃でした。


三 二月二十一日の実験

目  次

五 実験後の所感


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