品川行者の物品引寄実験記

一 実験に至る径路

 ねて前号に報告して置きました通り、御嶽行者品川守道氏の『物品引寄』の実験は二月二十一日に施行されましたが、後段に述ぶるような事情で未解決のまま延期となり、更に二月二十八日をもって再実験となり、これも後段に述ぶるが事情で頗る不満足なる結果を得ました。左に一切の顛末を記述します。

 心霊現象としての『物品引寄』――これはきわめてまれおこる現象で欧米においても又日本においても他の諸心霊現象のようにザラにおこるものではありません。が、各方面の信頼すべき記録によればこれは決して絶無の現象ではないと認められます。又これに対する民間の信仰も相当根強く築かれて居ります。

 私どもが大正十二年の春に心霊科学研究会を組織してからいくばくもなくして二人の『物品引寄』に得意なる霊能者があるとの報告に接しました。一人は東京在住の某実業家の夫人ですが、この人は絶対に実験に応ずることを拒み、っその姓名の発表さえも承諾してくれません。他の一人は今回の品川守道氏であります。品川氏との関係がんな具合に進み、んな交渉をすすむるようになったかは前号に記載の通りで、大正十二年から昨十四年にかけて都合四回の小実験を重ねて居ります。

 右の四回の実験は実はホンの予備中の予備的実験であり真偽査定の上にははなはだだ価値が欠しくあります。第一の不満足な点はそれが宗教的儀式と信仰的空気の蔭に雲隠れして居ることで到底身体検査などという露骨無遠慮な処置は取れませんでした。従ってその種の実験は縦令たとえ回数をいかに沢山重ねても到底あとに幾分の疑惑を残さぬ訳にはまいりません。

『何とかしてこの疑雲を一掃する適当な方法はないかしら……。』

 私どもはいろいろその方法を考究したのであります。御承知の通り先方は霊術を看板にしてその報酬によりて衣食する人物ではありません。立派な御嶽の行者として相当多数の信徒から敬意を払われて居る身の上であり、従って心霊の実験などは御免を蒙る、とあたまからきっぱり謝絶されても致方がないのであります。言わば信仰が主で霊術は従、縦令たとえその霊術が詐術であってもそれが恐らく先方の致命傷にはならないのであります。

 んな次第でありますから私どもが品川氏並にその憑依霊に向って、活動写真だの、身体検査だのという条件を提出したのは相当思い切った不躾ぶしつけなやり方であったのです。もちろん私どもに何等の悪意はありません。

『若しもそれがはたして正確なる心霊現象であるならはっきりそれを実証したい。』

 ただそれ丈のかんがえであります。最初から一切の心霊現象を単なる詐術と断定し、所謂いわゆる迷信打破の旗幟きしひるがえして品川氏を試験台にかけた訳では毛頭ありません。さりとて又御嶽行者その他一切の霊術家の言う所を鵜呑みにし、理が非でもこれを肯定して我田に水を引かんとするかんがえも全然存在しません。私どもの実験の動機は飽まで単純でありました

 私どもには品川氏の胸の中のことはもちろん判りません。氏は切なる希望にのっぴきならなくなって心ならずも承諾の旨を答えたのか、それともまさかの場合にのぞめば必らず神明の加護があるものと一図に信じたのか、その辺の事情は到底想像の外であります。兎に角品川氏は私どもの依頼に応じて身体検査にも応じる活動写真にも撮らせる三尺の剣も引出すというような事を大正十二年の暮に承諾したのであります。今回の実験はその時の約束の履行に過ぎず、しかも先方からの申込によりて遂行した仕事であります。


品川行者の物品引寄実験記

目  次

二 二月中の予備実験


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