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ダイヤの指輪

 場所は東京麹町三番町、岡田熊次郎氏の新居の二階、時日は大正十四年七月二十二日の正午後十一時、例によりて突発的に一の奇蹟が後藤道明氏によって演ぜられました。

 これよりき私はある一の宿題を後藤氏に提出して置きました。ほかでもないそれは瑞景閣から文芸的傑作の一つを日本の文芸界に輸入して貰いたいという註文でした。

『材料は現代の世相に即したものでも又は歴史的の隠微を穿ったものでもどちらでも構わない。兎に角あッと言わせるほどの逸品であって欲しい……。』

 んな要求でした。

『承知いたしました。では二十二日の晩岡田さんのお宅で取り敢えずその輪廓だけお話しすることにしましょう。』

 この打合わせの結果が当夜の小会合となったのでした。座に居合わせた者は後藤、藤井、岡田、浅野――たッた四人だけでした。

 晩餐の後後藤氏は三十分間ばかり机にれて例の縦書き式方法で精神の統一を図ってから、小説の筋……時には形容詞や対話の文句までも混ぜて霊界仕込みの物語を話し始めました。その晩提供したのはすべて五篇『桃色の封筒』『水上の楽園』『仙人の恋』『他界よりのラジオ』『迷信から覚めて又迷信へ』などというのでした。

 三時間計りで一と通りすべての荒筋が終りました。私は寝ころんで凝乎じっと耳をすまして聴いていたが、この時ムクムク起き上ってう言いました。――

『五篇ともそれぞれの特色があっていずれも相当に面白い。が、どれを書くかという事になれば、私なら矢張り最初の桃色の封筒を選びます。場面の変化といい、深い教訓といい、イヤというほどゆたかな濃艶味といい……。しかしなかなか長篇ですね。』

『ハ、わたしが瑞景閣で読まされた原本もなり厚いもので、それが数冊ありました……。』

『あなたは瑞景閣で書物を読んでそれを記憶して来るのですか?』

『書物も読みましたが、活動写真式に実景を見せられたり、又物語の中の実際の人物にも逢わされました。――あッ! 只今ただいま瑞景様から花宮俊子(篇中の女主人公の一人)の嵌めていた指輪を渡されました……。』

 そう言って後藤氏は自分の座席の背後から光まばゆきダイヤ九ツ入りの指輪を一つさし出しました。

 右の指輪は参考品として成るべく長く貸して貰うように私から瑞景仙に申込んであります。(憑虚)


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第二巻第九号

発行: 1924(大正14)年9月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 入力:いさお      2007年07月05日

※ 公開:新かな版     2007年09月01日


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